夏の思い出 〜櫂立て〜
唐突な話を、突然始める。
艇長の「櫂立て」の号令で、乗員全員がオールを垂直に立てるのが「櫂立ての礼」だ。
実習場のある館山の海でカッター訓練をしていると、地元の水産高校のカッターとたまにすれ違う。彼らは礼儀正しい水産健児なので、私たち大学生のカッターを見つけるとすぐに、「櫂立てっ!」の号令一下、見事に一斉に櫂を立てる。
高校生に櫂立てで敬意を表された以上、当然大学生も答礼せねばならない。
こちらの艇長の「櫂立てっ!」の号令で、櫂を水から引き上げ、教えてもらったように反動を利用して立てようとするのだが、立たない。訓練用の櫂はものすごく重い。20キロ近い重さだ。
かろうじて力のある男子学生のオールが何本かばらばらと立つが、すぐにバランスを崩して、倒れていく。格好の悪いことこのうえない。そういえば、自分の漕いでるカッターで船酔いしたのもかっこ悪い思い出だ。