デザインは絵を描くことじゃなくて

再三主張していることなのだが、Webdog - Onlineなんて記事に触発されたので再び。


デザインとアートは違う。アートは見た目(とは限らないが)の表現を追求することであり、面白ければ何でもありだ。対してデザインはまず機能ありきであり、見た目というのはそれを補助するための「機能の一部」に過ぎない。
とりわけ、紙媒体と違って機能性が重要なWebの世界では、Webデザインは何よりもまずインターフェイスデザインである。
何らかの機械装置を作るのに、まず外見をデザインして、それからどういう機能を与えるか考える……なんていうことはあり得ない。商業的なアピールの強い製品などでは見た目をデザインしてから機会の詰め込み方を考えることもままあるが、それとて大枠としての機能が出来上がっていての話である。車とか携帯電話とか、なんであれおおよその機能は決まっていて、それをよりよい形で実現するための「見た目」を考えるのがデザインというものである。
だから、見た目しか作れないデザイナーはデザイナーではない。見た目はすべからく、何らかの機能的な意図があって与えられるべきだし、そうでない無駄な装飾は極力省かれるべきだ。


日本では、Webデザインの本質が(少なくともクライアント側に)理解されていない。だから「取り敢えず何パターンか絵を出してよ」などという愚かな通達が来たりするが、要件定義もせずにいきなり絵を描いても碌なことにならない。まずは実現すべき機能をきちんと定義し、それからその機能を実現するためのインターフェイスと、それを使い易くするためのヴィジュアルをデザインするのが筋だ。
日本では、Webデザインの本質が制作サイドにもあまり理解されていないようだ。だから、要件定義が終わった段階でコーディングの仕様を決め、プログラム部分の実装ができてからデザイナーに仕事がまわされたりする。冗談じゃない、デザイナーはプログラマーの下請けではないのだ。敢えて言えば逆にデザイナーがプログラマーを下に置く方が理に適っている。実装は技術的な都合からではなくユーザーの都合から行われねばならず、それには最初期段階でのインターフェイスの仕様決定権がそれ専門のデザイナーに与えられなくてはならない。


つまり本当にWebに於いて影響力を揮えるデザイナーは、見た目よりもインターフェイスの実装に気を配るため、どうしても技術寄りになりがちであり、結果いかにも「デザイナーっぽい」グラフィカルなサイトを作るのではなく、技術者っぽい控えめな文字ベースのサイトを作るに至るのであろう。
また、デザイナーは性質上どうしても一人で何かを始めることができない。インターフェイスをデザインするのはデザイナーでも、実装するのはプログラマだからだ。逆にプログラマーは、(結果としてインターフェイスが酷かろうとも)一人で実装が行える。となると、取り敢えず何らかの斬新なサーヴィスを作ろうというとき、流れは明らかにプログラマーに有利だ。


今やデザイナーはプログラムの知識まで手にせねばならぬ段階まで来ている。すべてを自分一人で作るとは限らぬにしても、少なくとも技術の可能性については知っておかねばならない。
上記エントリのブックマークにてGUIだけでCSSベースのデザインが作れるようにならない限りCSSに馴染めませんなどというコメントがあったが、HTMLとCSSについて根本的に誤解しているようにしか思えない。機能の実装としてデザインを行う以上、そのバックで動作する技術に対する理解なくして良質のデザインは望めまい。