僕は食品会社(中小企業)の営業部長。最近営業先から「現在取引している業者と解約するから相談に乗ってほしい」という問い合わせを受ける機会が増えた。この手の話のほとんどは食品分野のなかでも「給食事業」である。話の内容もほぼ一緒。業者から人件費と食材の高騰を理由に突然値上げ交渉をしてきて、それに応じなかったら契約上の解約条項に則って契約解除の申し入れをしてきた、というもの。契約上は何も問題はない。だが、「長年関係を築き上げてきたのに」「こちらだって予算がある。いきなりの値上げには応じられない。そんなことはわかっているはずだ」という感情のしこりが「ありえない」「許せない」という怒りに変化していた。そして相談のはずが現業者の悪口のオンパレードを聞かされるはめになる。虚無になって「大変ですねー」「お察ししますー」と話を合わせるしかない。配偶者の愚痴を聞くときと同じである。
僕は、こういうケースでは出来るだけ現在取引している業者の営業マンから情報を得るようにしている。片方の話を聞いていると判断を間違うからだ。そちら側(業者側)からだと、だいたい「値上げの打診は前々からおこなってきたけれど、スルーされてきた」「事情をわかってくれていると思っていた」「追い詰められて契約解除に至った」という話である。こちらはこちらで「ありえない」「ゆるせない」という怒りにつながっていた。聞いていた話とまるで逆なのである。このような関係の破綻は、「長年付き合っているからこちらの事情や状況を察してくれるであろう」というお互いの相手への期待の高さが原因と思われる。そして期待は裏切られ、憎しみに変化したのである。悲しい。
僕は、双方の言い分を分析して、安全な距離を取りながら、相談に乗るわけであるが、まあうまくいかない。依頼主は契約解除になる現業者に激オコであっても、うまくいっていた時期を忘れられないからである。たとえば僕が「ウチの場合はこうなります」と条件を提示しても、「いや今の業者さんはやってくれているから。同じ業界の会社さんならやってくれないと」みたいなことを言ってくるのである。知らねーよ。別れた恋人と同じプレイを求められてもできないことはできないのだ。だったら今の業者とずぶずぶの関係を続ければいいのだ。人間関係と同じである。
結果からいえばこの話には乗らなかった。売り上げと利益は期待できるけれども、面倒くささが上回るのは間違いないからだ。揉めている案件、特に現取引先や現業者との関係が破綻して悪口を言っているような案件には要注意だ。今の相手に求めているもの、それが市場では特別なものであっても当たり前のものとして求めてくるのが目に見えている。面倒くさい。こうした数値化できない面倒くささを感知して断るのも、営業の仕事だと僕は思うのである。メンヘラビッチのように面倒くさそうな人は避けた方がいいように。やはり人間関係と同じなのである。(所要時間16分)