Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

都合よく「ビジネスパートナー」という言葉を使わないでください。

僕は食品会社の営業部長。僕が勤めている会社では給食事業も行っている。一般の人はまったく知らないと思われるが、現在(僕の観測範囲になってしまうが)、給食業界では給食会社からの契約解除が増えている。20年ほどこの業界に関わっているが、こんな事態は初めてだ。理由は《不採算事業所の整理》《人材不足による事業所の集約》《物流ルートの縮小》あたりだろうか。病院や老人ホーム、社員食堂では食事提供が当たり前とされている。欠食など論外である。たとえば病院で治療食の提供が止まったら……想像するだけで恐ろしい。話は逸れるが、給食業界では給食の現場では利益が出しにくいので、食材や配食で利益を出す方向にシフトしつつある。シダックスがオイシックスに身売りしたのもその動きだろう。現場で人を確保して給食提供するよりも、食品工場で食材を生産したほうが効率的な経営ができるからだ。

 業者(給食会社)が契約解除で撤退すれば、速やかに次の業者を選定することになる。僕の会社も今年の6月頃から「業者撤退のため選定コンペを行います。参加しませんか?」という連絡をうけることが増えた。という流れで、うちの会社もコンペに参加して、出来る条件を提示した結果、何件か契約することになった。当社としては「業者が撤退して困っている」という泣きついてきたのを救って差し上げた形だ。「助かりました。貴社とはビジネスパートナーとして末永くやっていきたい」とクライアントの窓口もお礼を口にしていた。

本題はここからである。現在給食関係のコンペの多くがプロポーザル入札方式で行われている。大雑把にいうと、プレゼンと書類審査。プレゼンにはプレゼンと試食が含まれ、書類審査には金額提示も含まれている。撤退業者の業務終了直後から業務開始できるように、急ピッチで準備をしている。問題が起きた。こちらが後戻りができない時期になったとき、「前業者と比較して契約金額が高い」と言ってきたのだ。今さらである。「前の業者はこれだけの人数でできていた。御社は労務費が高すぎる。こちらにも予算があるから考慮してくれないか」と。「ビジネスパートナーが共倒れになったら元も子もないでしょう」と担当者は言った。アホなのか。対応は「いやいや、前の業者の事は知らない。うちは違う事業展開できる金額を出しているだけです」と当たり前の説明をするだけである。こういうバカなやり取りは消耗するし、嫌な気持ちになる。「これから長い付き合いになるから対応してください」と相手は折れる様子はないので、本当にめんどくさい。前の業者と同じ金額ならば、ウチはやらないのだ。いや、やれないのである。それがわからないのだ。

給食事業は、受託する給食会社の立場が圧倒的に弱い。その一因は、その施設内で事業(売上げ)が完結してしまう特性にある。簡単に説明すると、老人ホームの食事は、法人側から設備備品場所等を貸与されて提供する契約になっている。光熱費も法人側だ。給食会社が外部に広告を出すなど集客してレストランとして運営することはできない。要するに、食堂利用者(ヒト)と場所(モノ)と売上(カネ)のすべてをクライアントに握られている。給食会社は言われるままだ。しかも、給食会社は、スタッフを現場で常駐として雇用するので、契約を失ってしまうと彼らの行き場がなくなってしまう。売り上げその他もままならず、スタッフの立場は守らなければいけない。そういう弱い立場に給食会社は立たされている(そのかわり赤字になるリスクは少ない)。最初に述べたような、給食会社からの契約解除は、追い詰められた弱い立場の給食会社の反乱だと僕は解釈している。

正式な契約締結までの間に「金額を何とかならないか」と相談してくるのは、こちらが提示した金額を一度は受けても、強い立場からのごり押しでひっくり返せるという驕りがあるからだ。官公庁の許可を受け、新規採用を進めるなど、後戻りできないところまで行った段階であれば業者は飲むしかないだろうと舐めているのだ。営業部門の責任者として、毅然と「無理です。前の業者と違う会社ですからかかるコストも違います。後出しじゃんけんをするつもりなら、今から撤退してもかまいません。幸い正式な契約締結はまだこれからですから」と告げるだけである。実際、電話で告げた。このように、給食業界は、他の食品業界と異なり、強い立場から取引業者を毀損するような法人が多い。しかし、給食事業における「当たり前の食事提供」は、給食会社の献身と犠牲のうえに成り立っているのだ。対等のビジネスパートナーになりえないのは分かっている。でも、生き残るためには、弱い立場に甘んじてもいられないのである。連休明けの明日からは相手先に赴いて、この問題を解決しなければいけない。しかも二件。きっつー。(所要時間25分)