料理系YouTuber『あおいの給食室in沖縄』神奈川の給食業者がレシピの不正流用をしている可能性…ショックを受け寝たきりに、チャンネルの活動終了も発表 - Togetter
僕は給食会社の営業部長だ。このチャンネルを今回の騒動で初めて知った。だが神奈川の給食会社で働く人間として無視はできないので給食営業マン目線で解説する。なお、問題の会社については、ある程度特定されているが確定ではないため、ここでは名前は挙げない。また、当該給食会社が販売している保育園向け献立の詳細も分からないので、一般論として話を進める。なお、神奈川県の給食会社は僕が勤めている給食会社ではない。
まず前提として、レシピそのものには著作権が認められないとされている。理由は、レシピは「アイデア」に分類され、材料や手順は誰が書いても似た内容になりやすく、創作性が認められにくいから。ただしレシピの文章・説明・写真など表現された部分をそのまま使って商用利用していた場合は、著作権の問題が生じる可能性がある。ユーチューバーと当該給食会社は前に保育園向けの献立ミールキットでビジネスを展開しており、その際のレシピが今回の流用疑惑の発端になっているものだろうけれども、当時の当事者同士の契約内容がわからないのでなんともいえない。ただ、「レシピ=著作権フリー」ではあるが、状況によっては問題になり得るのだ。ユーチューバー側はこの点を訴えているように見える。
次に背景。なぜ、給食会社が保育園向けの献立レシピやミールキットをビジネス展開しているのか。これは非常に“うまみ”のある商売だからだ。給食は労働集約型のビジネスである。保育園給食の場合、固定委託費と実食数に応じた食材売上が入る安定したビジネスモデルになる。ところが、昨今は人材確保が難しい。また給食は責任が伴う。特に保育園給食は安全衛生にいっそう気を付けなければならない。厨房スタッフが不安定になると安全衛生体制が揺らぐ。
しかし、献立レシピの提供であれば、そういった人材確保や安全衛生管理のリスクから解放される。給食事業で蓄積した献立作成ノウハウを活かせばいい。たとえばアレルギー対応のミスや食中毒事故が発生しても調理提供する保育園側の責となるのだ。ほぼノーリスクだ。要するに給食事業の面倒な部分をクライアント(この場合保育園)に負担させて、利益を得られるのである。
さらに、ミールキットとして献立とセットで販売すれば、”うまみ”は大きくなる。ミールキットとは献立レシピと対応した食材をセットにしたものだ。クライアント(保育園)からすれば発注と食材確保の手間が省け、給食会社はリスクを負わずにさらに食材売上がプラスされるのである。
今回の騒動で引っかかったのは、以前ミールキットのビジネスをユーチューバーと当該給食会社が提携しておこなっていたこと。料理系ユーチューブは一般的に「悪魔的うまさの牛丼」みたいな感じで単発の料理と調理法とレシピを公開している。そこには著作権が発生しないのは先に述べたとおりだ。しかしながらミールキットは単なるレシピではなく、「献立+材料」という商品であり、一般的にその献立は一週間や一か月で提供される(一日単位のミールキットもあるけれども、一週間一か月で契約するのがほとんど)。
で、単発のレシピでは著作権が認められないが、ある一定の期間を設定して作られた献立は、作り手の創作性が認められる。著作権法第12条では、素材の「選択」または「配列」に創作性があるものを「編集著作物」として保護されている。
「 著作権法第12条(編集著作物)」には「1 編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する」とある。
わかりやすくいえば、星の数ほどある料理の中から、栄養バランス、旬の食材、彩り、予算などを考慮して「これだ」という一週間分、三十日分を選び抜く行為には選択の、作業効率性や、和食・洋食・中華のジャンルや「焼く、蒸す、揚げる」などの調理法、栄養バランスを考慮してどのような順番で並べるかについては配列の創作性が認められ、これらに作り手の独自の工夫(思想や感情の表現)が見られれば、献立表は保護の対象となる。要するに、保育園児向けの食事をどう並べるかという構成には、レシピ以上の独自性があり創作性が認められる、つまり著作権があるということ。給食会社のHPをみると、保育園向けの献立は一か月ごとの献立データを提供とあるので単発レシピとは考えにくい。もし、給食会社が、ユーチューバーが作成した相応の期間の献立とレシピを取り入れて、商品としていたのであれば、著作権法上問題になるかもしれない。
じつは僕が勤めている会社でも保育園向けの献立をビジネスにしている。献立作成代行として一か月ごとの献立とレシピを提供している。以前、とある保育園と契約していたが、一年年目が終わった時点で解約された。保育園からすれば、年間の献立が手に入ったのだから、二年目はそれを利用すればいいからだ。ノーリスクで美味しいビジネスだったので、契約継続を求めていろいろ調べた。先の献立やレシピと著作権法の関係もそのときに得た知識である。結局、ウチの会社は一年間分の献立作成をサブスクではなく買い切りコンテンツとして諦めたのである。
今回の騒動に対してネットでは「レシピには著作権がない。使われても仕方ない」「レシピには著作権がないがそれを商用として利用するのはいかがなものか。企業倫理はどうなっているのか」といった意見が大半だった。だが、過去にミールキットビジネスを展開していたという経緯を考慮すれば、レシピ単体ではなく相応の期間の献立とレシピが問題になる可能性が高いのではないか。そして先述のとおり、相応の期間の献立レシピには著作権が認められているのである。
まだ詳細がわからないが、ユーチューバー側からすれば、自分が一生懸命作ってきた内容が意図しない形で利用されていたと知って精神的なショックも大きいだろう。また、給食会社側の言い分もあると思われる。いずれにせよ、ビジネス関係にあったときの契約内容や双方の認識のズレがことの発端だろうと想像する。繰り返しになるが、「神奈川県の給食会社」は僕が働いている会社ではない。(所要時間32分)給食ビジネスの裏側について書いた本を書きました→


