歯科衛生士のよみもの

kindle unlimitedで本を読み漁り、感じたことを考察していくブログです。

誠実たれ

今回は、「誠実な組織 信頼と推進力で満ちた場のつくり方」(2023年)を読みました。

 

 

私も散々ビジネス書を読んでいるので、正直、最後まで読まずに終わるかも〜なんて思って読み始めましたが、そんなことはない!とても説得力があり、勉強になる内容だったので、学んだことをまとめたいと思います。

 

 

不誠実の連鎖

 

普段は誠実で、相手に対しても誠実さを求める人々であっても、不誠実な行動がそそのかされる状況に置かれれば、徐々に不誠実さに屈してしまう

 

被験者がペアになり、硬貨の入った瓶を見て、中に入っている硬貨の合計金額を当てるという実験では、アドバイスをする側の被験者は、自身が得をする場合には、ペアの相手に損をさせてでも利己的で不誠実な行動を取る傾向が高まったそうです。さらに、実験中の脳の動きを調べるため、被験者の脳のfMRI撮影を行ったところ、利己心に基づく不誠実な行動を取ると、そのたびに被験者の扁桃体(過去の経験に対する感情的反応をコントロールする脳の一部)で検知されるシグナルが減少することが分かりました。そして、被験者の脳の感度が鈍くなるほど、その次の実験回で利己的な行動をとる確率が高くなったそうです。

 

「ウソつきは泥棒の始まり」ということだなと思いました。不誠実な行動を一度してしまうと連鎖的に不誠実な行動をとってしまい、罪悪感すら感じなくなるということですね。

 

また、従業員が自分は不当に扱われていると感じた場合-例えば約束がいつも破られるなどー彼らは組織に対し、過剰な要求をすることで「仕返しする」傾向が格段に高くなるそうです。著者さんの研究でも、アカウンタビリティプロセス(意訳:上司の説明)に不公正さが見られると、従業員が嘘をつく、倫理的に不適切な行動を取る、自分の損得を一番に考えるといった傾向が4倍近く高まったそうです。

 

相手が不誠実だと、自分も不誠実で返す、自分が不誠実な行動を一度してしまうと、閾値が下がってもっと不誠実な行動をしやすくなるという「不誠実の連鎖」が起こるのだということがよく分かりました。

 

 

言葉と行動を一致させる

 

著者さんの研究によると、組織の在り方や目標を戦略的に明示し、それに伴う行動を起こしている企業では、従業員が真実を語り、公正な行動を取り、目的を持って働く傾向が3倍高くなることが分かったそうです。

つまり、言葉と行動に一貫性があること、組織が掲げる目標(パーパス)を組織全体に浸透させ、従業員一人ひとりの日々の仕事に織り込まなくてはいけません。

 

これは、「ブランド・プロデュース思考」(2022年)の本でも同じような内容が書いてあったと記憶しています。

 

 

「言葉と行動を一致させる」というのは案外難しいことで、できていない企業が多いのも事実です。例えば、カスタマーサービス窓口の職員がクレームに対してマニュアル通りの回答を指示される一方で、壁には「お客様第一、お客様に貢献しましょう」なんて書かれていたらどうでしょう。

 

パーパスは社会における組織の真の役割や存在価値を定義するものであって、そのパーパスが実行されなければ、つまり、組織が言葉通りに「行動」していないのであれば従業員の不信感やエンゲージメントの欠如を招き、組織の信用を失くすような嘘を報告したり、利己的な行動を取るようになってしまいます。

 

 

従業員の希望

 

労働人口の約70%が仕事にやる気がない、またはエンゲージする気がない(会社の成功を妨害しようとしている)のはビジネス書に頻出の話題ですが、この数値は調査が始まって以来ほとんど改善されておらず、2019年には多少改善したものの65%だったそうです。職員がエンゲージしていないということは、希望が失われているということだと著者さんは述べます。

アウシュビッツ収容所は極端な例ですが、本書にも「あきらめ症候群」が紹介されているように、希望というのは人間にとって不可欠な栄養素です。大きな希望を持っている人は、そうでない人と比べてゴール思考が強く、目標達成のためのモチベーションも高かったという研究もあります。

 

著者さんは

組織の改変期に必要なのは、約束を破られても希望をくじかれはしないと、従業員が自信を持つことである。

と述べます。

 

過去記事「ポジティブ・フリーダム」で、オードリー・タンが「怒りは蛍光ペン」と言っていたのを思い出しました。怒りを放置した後に来るのは「無力感」です。

 

ddh-book.hatenablog.com

 

組織がパーパスを確実に実行し、従業員にもそれを徹底させると同時に、従業員一人ひとりが希望をもって働ける環境を作らなければいけないということになります。

 

 

心理的安全性

 

従業員が希望を失い、怒りや声を上げない理由として最も多いのが「報復が怖い」または「声を上げても意味がない」というものだそうです。こうした懸念は、組織に対する帰属意識が欠けることで生まれ、リーダーに問題があります。しかし、従業員に心を開かせ、協力させ、真実を語らせるというのは容易ではありません。

 

本書では、経営陣一人ひとりに平社員のコーチをつけた ガイダント社の例が紹介されています。コーチとなった平社員は率直なフィードバックを集め、担当役員に提出します。お互いの信頼関係ができてくると、財務成績、商品開発の進捗、何が成功し、何が失敗しているのかといったことについてオープンな対話が行われるようになったそうです。さらに、経営陣チーム内で役員一人ひとりにフィードバックを与えるプロセスも構築しました。そこでは、チームの他のメンバーからどういった点を改善すべきか、どのように改善すればよいかを伝えられたそうです。

自分が役員の立場だったら…と考えると、とても恐ろしいシステムですが、お互いが相手の欠点を問いただす前に自分の欠点を認める必要があることを理解できるようになり、爆発的な業績改善がみられたということでした。著者さんの研究でも、心理的安全性の有無で従業員が真実を語り、公平な行動を取り、より大きなパーパスを掲げるかどうかに20~35%の差が見られたそうです。

 

心理的安全性というのはリーダーが「良い人」であるということではなく、誰かが気分を害したり、気まずい思いをしたりしない「安全な空間」を作ろうということでもなく、 「皆が自分の考えを自由に口にし、懸念点を指摘し、リスクの高いアイデアも共有し、軌道修正が必要な際や誰かの言動が許容できないものであった際に、率直にフィードバックできるような環境が整えられていることを示します。(エイミー・エドモンドソン)」

 

私も歯科衛生士として働いて、歯科衛生士の実習生を歯科医院に送り出していていつも感じていたことですが、リーダー(実習担当者)次第で働きやすさ(実習しやすさ)が全く違います。自身の非を一切顧みない威圧的なリーダーの下では何も言えなくなり、お金のため(卒業のため)だけに無で働くか、職場を離れるか(体調不良になり実習を休むか)ということになりますし、ホワイト企業過ぎて新人が辞めるように、リーダーが良い人で、誰も思ったことを言わない「安全な空間」であれば良いというものでもないということです。部下が気兼ねなく声を上げられる、心理的に安全な職場を作ることは、リーダーが絶対に心得なければいけないことであり、それが従業員の希望に繋がるのだと思いました。

 

 

まとめ

 

本書を読み始めた時、「誠実さ」なんて当たり前、松下幸之助も言っていたしね~なんて思っていましたが、研究結果や数々の事例を通し本書を読み終わった時には「誠実たれ!」と自分が全くの別人になったようでした(笑)

本書を読んで、やっぱり「心理的安全性」が一番大事だよねと再確認しましたし、心理学的安全性を確立させたエイミー・エドモンドソンの心理的安全性の定義を暗記するくらい自分の脳内にすり込もうと思いました。リーダーというのは怖くても辛くても他者からのフィードバックは受入れ、自分の欠点を改善する努力を行動で示すことのできる、成熟した人でなければいけないなと改めて確認しました。

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