2025-05

2009・5・19(火)マウリツィオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル

  サントリーホール

 前夜ツィメルマンを聴いたばかりなのに、続いて今日はポリーニを聴けるとは、東京の音楽界も凄いものである。

 来日もこれが16回目。1974年以降、2,3年おきくらいに来日を重ねて来たポリーニ。一頃は変貌の気配も感じられ、日本の聴衆を感心させたり、落胆させたりした時期もあったが、今日のリサイタルなどを聴くと、ポリーニぶしは健在であり、しかもきわめてバランスの良い芸風の域に達しているという感を強くさせられる。

 プログラムは、シューマンの「ピアノ・ソナタ第3番」(3楽章版)で開始された。冒頭のアレグロによるフォルテの下行動機を強靭に、かつ明晰に響かせ、さらに16分音符が上昇したあとの第7小節後半、第1主題が始まる直前の8分休符でハッと息を呑ませる呼吸の見事さ。かように――ポリーニの演奏が持つ引き締まった凄絶な緊迫感は、少しも失われていない。そのあとには、同じくシューマンの「幻想曲ハ長調」が続く。

 特に休憩後のシェーンベルクの「6つのピアノ小品」、ウェーベルンの「変奏曲Op.27」、ドビュッシーの練習曲6曲(第7~12番」と流れる音の組み立ては全く見事で、あたかもウェーベルンの断続する音たちを切れ目なく集約するとドビュッシーに変化するような――とまで感じさせてしまう、絶妙な移行の演奏であった。

 さらにアンコールでは、音楽の流れをドビュッシーの「沈める寺」で豪壮に変化させ、「西風の見たもの」では空間を上下左右自由奔放に飛翔するような凄まじさを聴かせ、最後にはリストの「超絶技巧練習曲第10番」(!)で聴衆を打ちのめし、熱狂させるポリーニなのである。
 アンコールの最後にかけてこのように煽りに煽る選曲と演奏を行なった彼を、私は今回初めて聴いたような気がする。今年67歳、ポリーニは健在だ。
 (KAJIMOTOの石川氏から聞いたところによると、ポリーニはこれまでもアンコールでこれらの曲をしばしば弾くことがあったそうである。私がたまたま聴いていなかっただけのことらしい)

 終演後のロビーは大騒動。ポリーニの煽り(?)に興奮したのか、ホールの出口のところにあるスプリンクラーが何だか誤作動を起こしたらしい。正面出口は水の「土砂降り」状態で、通行止めである。客たちはこれまで通ったこともないような出口からゾロゾロと迂回させられたが、天井からジャージャーと水が盛大に落下している正面玄関の光景を、めずらしがってわざわざ写真を撮りに行っている人もたくさんいた。

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