2025-05

2013・8・28(水)ザルツブルク音楽祭(3)
ヴェルディ「ドン・カルロ」 パッパーノ指揮、カウフマン他

    ザルツブルク祝祭大劇場  1時(マチネー)

 スペインの王子ドン・カルロにヨナス・カウフマン、父王フィリッポ2世にマッティ・サルミネン、王妃エリザベッタにアニア・ハルテロス、エボリ公女にエカテリーナ・セメンチュク、ロドリーゴ侯爵にトマス・ハンプソン、宗教裁判長にエリック・ハルフヴァーソン、修道僧&カルロス5世に懐かしやロバート・ロイド――と、主役歌手陣のネームヴァリューは充分である。

 人気の的は、何と言っても、新時代のスーパースター(!)カウフマンだ。ドイツ・オペラのレパートリーにおけるようなはまり役のイメージではないけれど、それは彼のような歌手だからこそ言える贅沢であって、知的な歌唱、微細な演技(この舞台では純粋だが世間知らずの王子のイメージをよく感じさせた)など、文句のない題名役ぶりであった。

 ハルテロスも、気品ある舞台姿と歌唱で好演。特に第5幕でのアリアは、ここぞ聞かせどころという気魄で歌い、見事に映えた。
 セメンチュクも「美しいサラセンの」と「むごい運命よ」などで熱演したが、もしかしたら、この大劇場のアコースティックには未だ慣れていないのかもしれない。

 老練サルミネン。「独り静かに眠ろう」のアリアなどでは、細かい感情の揺れを巧く表現して声を補う。あのトシでよくあそこまで歌えるものだなと感心させられる。イタリアの歌手のような朗々たる声の国王とは行かないが、だからといってブーイングされるのはちょっと気の毒だ。

 トマス・ハンプソンは、往年の声の輝きこそ薄れたものの、歌唱表現力と風格と存在感はさすがベテランの貫禄を示して立派なもの。あの広大な(に過ぎる?)祝祭大劇場の舞台では、それがないと、なかなか目立たないのである。
 その点、ハルテロスにしてもセメンチュクにしても、歌はいいのだが、そこに彼女がいる――という意識を観客に与えるようになるまでは、やはり経験を待たなければならないだろう。
 なお、久しぶりに聴くロバート・ロイドが、幕開き直後の修道僧の歌で、嬉しいことに重量感たっぷりの力を聴かせてくれた。

 演出はペーター・シュタイン。この人の群集の扱い方は天下一品、昔この劇場で観た「モーゼとアロン」での怒涛のような凄まじい大群集の動きには心底、息を呑まされたことがある。したがって今回も期待していたのだが、――やはりかつての冴えは失われたか。
 それだけでなく、演技を含めた演出全体にも、特に目新しいものはない。歯に衣着せずに言えば、平凡な部類の演出だろう。だから、ハンプソンのようなベテランならともかく、若いハルテロスやセメンチュクのような歌手を引き立たせるような微細な演出は、シュタインにはもう無理なのかもしれぬ。カウフマンだって、演出家に人を得れば、もっといい動きが出来たのではないか? まあ、これは素人目の繰言だが。
 フェルディナント・ヴェーゲルバウアーの舞台装置はシンプルなもの。冷たくて、寒々とした雰囲気がこのドラマの本質を表現していた――と言えないこともなかろう。

 指揮は、アントニオ・パッパーノ。さすがに「持って行き方」が巧い。オーケストラを豪快勇壮に響かせ、しばしば歌をかき消すくらいの大音響を出すが、肝心な個所では歌のパートをスッと浮き上がらせ、イタリア人のいない(?)主役歌手陣を巧妙に引っ張って行った。スケールの大きな「ドン・カルロ」の演奏という点では、以前ここで聴いたカラヤン、マゼール、ゲルギエフらの指揮に比べても、引けはとらないだろうと思う。
 ウィーン・フィルが、またあの独特な音色で(これが何よりの魅力だ)、よく鳴ること、鳴ること。昨夜の「マイスタージンガー」でもそうだったが、このオケの響きが、名状しがたい温かな雰囲気を醸し出してくれるのである。

 5幕版で、しかもしばしばカットされる個所もちゃんと演奏されたので、30分ほどの休憩2回を挟み、終演は午後6時5分頃になった。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

https://concertdiary.blog.fc2.com/tb.php/1723-252d33bd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

Category

News

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中

毎日クラシック・ナビ「東条碩夫の音楽放談」連載中

・朝日カルチャーセンター(新宿)毎月第2木曜日13時よりオペラ講座実施中  4~6月は「ワーグナーのオペラをより深く知るために」最終シリーズ

プロフィール

管理者用