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吉田修一 『橋を渡る』

橋を渡る (文春文庫)
『週刊文春』連載作の書籍化。
「セウォル号沈没事故」「2014ワールドカップ」「東京都議会やじ問題」「iPS細胞」など当時の週刊誌を沸かせた話題を味付けに、どこにでもいるような一般人の人生の一部を切り取り描く。その描写のリアルさやリーダビリティの高さ、そしてある程度の狂気。春夏秋冬と分かれた章立ての中、少なくとも3章までは吉田修一の本領発揮と言える。さて最終章、冬は3章までの積み重ねを結実させる形だが、ここの配球は正直大胆過ぎる。よくこんな、台無しにし兼ねないような扱いをするものだ。好みが分かれるところであろう。
少なくともこの最終章を期に、自分の中の「傑作」の座から本作が滑り落ちたのは間違いない。ただ、「駄作」でもない。


以下は久しぶりにネタバレ感想とする。









最終章の未来への舞台移動と謙一郎のタイムスリップは物凄いアクロバット。SFへのチャレンジも吉田修一は恐らく初。
作劇上の都合(生き長らえている水谷の存在)に思える中途半端な70年後、技術の進歩はまだしも非現実的な倫理観などに突っ込み所はあるが、その事よりもむしろ夢オチという解釈も有り得るように書いた点は若干の逃げを感じる。
まぁしかし、70年後の未来の人間でも人造人間でも、語り口に何らかのリアルさを感じさせる手腕は凄いと思うと同時に、器用さが小憎らしい、とも思う。