風邪で会社を休む。2日ほど寝たら治ったが、せきだけが残っている──。そんな経験はないだろうか?風邪が治りきっていないのだろうと軽く考えがちだが、呼吸器の専門家である池袋大谷クリニック(東京都豊島区)の大谷義夫院長は、「2週間以上続くせきは風邪ではない」と指摘する。
風邪の原因は80~90%がウイルスで、残りが細菌による感染だ。ウイルスは2週間も生きられないので、それほど長く続くせきは風邪が原因ではない。長引くせきはいろいろな病気で起こるが、大谷院長は「最も多いのはせきぜんそくで半分以上を占める」と続ける。
風邪はのどより上の上気道に炎症が起こるのに対して、せきぜんそくは下気道の気管支に炎症が起きて過敏になっている状態。ちょっとした刺激で激しいせきが出てなかなか止まらない。
症状はせきだけで、胸に聴診器を当てても気管支ぜんそくのようなぜん鳴(ゼーゼーヒューヒューという音)は聞こえないが、「気管支ぜんそくの一歩手前の状態で、放っておくと30%は気管支ぜんそくに移行する」と大谷院長。気管支ぜんそくは発症すると完治しにくく、年間約1500人の死者も出る難病だ。
せきぜんそくが起こるきっかけは風邪だけに限らない。ほかにも花粉症、低気圧、疲労やストレスが原因で起こることもある。アレルギー性疾患の一種なので、花粉症やアトピー性皮膚炎などアレルギー体質の人は特になりやすいという。下のチェックリストは大谷院長が診察で使っているもの。一つでも該当すれば、せきぜんそくの可能性が高い。
せきぜんそく以外の可能性も
治療法は吸入ステロイド剤が基本だ。ステロイド剤といっても気管支にしか作用しないので安全性は極めて高く、妊婦にも処方される。通常、1カ月から半年程度で治ることが多い。
せきぜんそく以外でせきが長引く病気は、マイコプラズマ感染症やアレルギー性肺炎など。後者にはトリコスポロンというカビを吸い込んで起こる夏型過敏性肺炎、鳥の羽根やフンのアレルギーで起こる鳥関連過敏性肺炎があり、「羽毛布団が原因で起こることもある」(大谷院長)という。
喫煙者だとCOPD(慢性閉塞性肺疾患)も疑われる。長年の喫煙により肺胞が破壊される病気で、国内の推定患者数は530万人。自覚のない軽症者も含めると喫煙者の15~20%が発症する。気管支拡張薬などで治療するが、壊れた肺胞は二度と元には戻らない。厚生労働省の人口動態統計によれば、2015年には1万5756人が命を落とし、死因第10位。「禁煙は早いに越したことはないが、何歳でも遅すぎることはない」と大谷院長は話す。
ほかにもアレルギー性鼻炎、後鼻漏(鼻水がのどに流れ込む)、逆流性食道炎(胃酸の逆流による食道炎)などでせきが起こることもある。いずれにせよ、2週間以上せきが続いたら要注意。大谷院長は「一般の内科よりも専門の呼吸器内科に行ったほうがいい」と助言する。日本呼吸器学会の公式サイトに出ている「専門医一覧」などを参考に、最寄りの専門医を訪ねよう。
- 風呂場などで湯気を吸い込むとせきが出る
- 夜間(寝入りばな、深夜)にせきが出る
- 明け方にせきが出る(せきで目が覚める)
- 冷たい空気を吸い込むとせきが出る
- 会話をしたときにせきが出る
- 笑ったときにせきが出る
- 線香の煙を吸うとせきが出る
- 電車に乗ったときにせきが出る
- エアコンをつけた部屋でせきが出る
- 香水の匂いを吸うとせきが出る
- たばこの煙を吸うとせきが出る
- ラーメンを食べているときにせきが出る
- せきがいったん出始めると止まらない
- 息を吐いたときにせきが出る
- 過去に同じようなせきが続いたことがある
(作成:大谷院長)
(日経ビジネス2017年2月20日号より転載)
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