「冬の巡礼」
「冬の巡礼」(志水辰夫)は、文庫本にしては珍しく後ろに解説がない。多分、志水さんの作品に不要かもしれない、解説は。
<「おふくろに届けてくれ」坂倉博光は、そう言い残して数日後、謎の死を遂げた。託されたのは位牌だった。鈴木克宏は遺言めいた品物を手に、坂倉の故郷を訪れた。ところが、そこで予期せぬ危険に晒される。鈴木は位牌に秘められた謎を求め、坂倉の過去を辿っていくのだが…。一度かぎりの過ちで滅びていく男たち。数え切れない哀しみを耐え忍ぶ女たち。立ちこめる雪煙の中で、人生を捨てた男が策謀の渦に身を投じていく長編ハードボイルド。>
「いつか浦島」(志水辰夫)は、五編の恋愛をテーマにした短編集。最後に収録された「虹物語」はシミタツさんらしくひねってあるが、あとはいずれもラストは明るく終わっている。裏切らざるをえない女の哀しみだけでなく、こういうものも書けるのだ、シミタツさんは。
<東京でサラリーマン生活を送る俊明は、入院した母親の見舞いに故郷・能登半島に戻る。そんな彼の前に現れたのは、叔父の会社に勤める節子だった。俊明の一目惚れともいえる状況だが、いまひとつ節子の反応は芳しくない。―表題作「いつか浦島」。ほか「きみにかぐや姫」「虹物語」などを収録。出会い、すれ違い、そして追いかけるとふっと消えてしまう女まで、男女の世界を志水節が謳いあげる。
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