愛 一通の手紙
近藤富枝さんが著した「愛 一通の手紙」という本の中で、歌人斉藤茂吉が54歳のとき、27歳の永井ふさこに宛てた手紙が披露されている。それはこんな風だ。
<「ふさ子さん!ふさ子さんはなぜこんなにいい女体なのですか。どうか大切にして、無理してはいけないと思ひます。玉を大切にするやうにしたいのです。ふさ子さん、なぜそんなにいいのですか」「写真出して、目に吸ひこむやうにして見てゐます。何といふ暖かい血が流るることですか、圧しつぶしてしまひたいほどです。圧しつぶして無くしてしまひたい。この中には乳房、それからその下の方にもその下の方にも、すきとほって見えます、ああそれなのにそれなのにネエです。食ひつきたい!」>
フーッ、ため息がでませんか?54歳ですよ。私なんか逆立ちしたって、こんな手紙書けません。この少年のような瑞々しさ! こうでなければ人の心をうつ短歌は詠めないのかもしれません。嗚呼! と、感心していたら、茂吉さんもやはり「男」だったらしく、こんなだらしない姿をさらす。こんなこともあった。
<ある日ふたりは荻窪駅で待ち合わせる約束だった。ところが新宿の中央線ホームでばったり出会ってしまったのだ。ふさ子が近づくと、茂吉はどぎまぎして、何か聞き取れない言葉を呟き、唇をふるわせると、さっと逃げるようにホームの階段を下りていってしまった。「余り人をおそれすぎます」と、ふさ子はあとで抗議した>
笑ってはいけないが、これではまるで、人目をはばかるオフィスラブの上司と部下丸出しではないか。でも、びっくりしてどうしていいか分らなくなったんでしょうね、気の毒に。
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