百年文庫(70)
第70巻は「野」(ツルゲーネフ・佐々木彰訳「ベージンの野」 ドーデー・桜田佐訳「星」 シラー・浜田正秀訳「誇りを汚された犯罪者」)
<道に迷いベージンの野と呼ばれるところへ出た私は、馬番の子供達と一晩をすごすことになった。やがて、子供たちのよもやま話が始まって…「ベージンの野」。純朴な羊飼いが、憧れのお嬢さんと二人きりで星空を見上げた一夜を清々しく描いた「星」。恋する女に貢ぐために盗みを働くようになった男の壮絶な転落の記録「誇りを汚された犯罪者」。貧しく、野に生きることを宿命づけられた人々の喜びと哀しみ。
「ベージンの野」は「猟人日記」に収録の一篇。狩猟に行った帰り道、道に迷い焚火を囲んでいる五人の馬の群れの番をしている少年たちに出会い、焚火にあたらせてもらいながら、彼らの話を聞く物語。自然描写が美しい。
「星」の著者ドーデー(1840~1897年)はフランスの作家。「鋭い観察眼を備えた写実主義の作家でありながら、弱者に対する深い愛情を持ち、人間の弱さや不完全さにも温かい眼差しを向けた」(「人と作品」)。私は初めて見る作家だったが、「最後の授業」という作品が教科書に掲載されて知られているらしい。だが、私の記憶にはない。
「誇りを汚された犯罪者」は、最初は恋する少女のために密漁を繰り返した少年が、何度かの逮捕と監禁を経ていつしか「太陽軒」と呼ばれる大盗人になっていく様を描いた作品。著者のシラー(1759~1805)は「人間の本質や普遍性を描き出すドイツ古典主義」を確立した作家で、ゲーテと親交が深かったという。ただ、今読むと古臭い感じがして、面白味はない。
<著者略歴
ツルゲーネフ Ivan Turgenev 1818-1883
ロシアの小説家。農民の姿を描いた『猟人日記』が高く評価され、長篇『ルージン』で作家としての地位を確立。長年パリに住みつつ、ロシア社会の問題を描いた。その他の代表作に『初恋』『父と子』など。
ドーデー Alphonse Daudet 1840-1897
フランスの小説家・劇作家。南仏ニームに生まれ、貧しい少年時代を送った後、17歳でパリに出て文筆活動に入る。深い観察力と弱者への温かい眼差しで、多くの人々に愛された。代表作に『風車小屋だより』『アルルの女』など。
シラー Friedrich von Schiller 1759-1805
ドイツの詩人、劇作家、歴史家。22歳で発表した『群盗』で成功を収める。その後、歴史学、カント哲学、美学を研究、ゲーテとともにドイツ古典主義を確立した。その他の代表作に『ヴァレンシュタイン』『オルレアンの少女』『ヴィルヘルム・テル』など。