NHKスペシャル「日中戦争」を見ました(3)…逃亡兵=便衣兵と勝手に解釈してはいけないでしょう

http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20060814/1155505691での、南京事件の「便衣兵」をめぐるfinalventさんと私とのやりとりを転載します。
きっかけはfinalventさんの、NHKスペシャル「日中戦争」に対する要約の、以下の記述。

南京で便衣兵が多かったと解せる証言を出していたのはほぉと思った。虐殺はガチという線は強めていたがもちろん数には触れず。ただどのくらいかという暗示はあるにはあった。(注;その後finalventさんは一部語句を修正された)


以下、コメント欄でのやりとり。

# bluefox014 『番組中に「便衣兵が多かった」という証言はありませんでした。「日本軍は、民間人の服に着替えた中国兵が城内に多く潜んでいたと考えました」というナレーション、「青壮年はすべて敗残兵便衣隊とみなし、すべてこれを 逮捕監禁すべし」という戦闘詳報の記述は紹介されましたが。
正規兵は便衣に着替えただけでは「便衣兵」とはみなされません(ハーグ陸戦条規第1条は民兵・義勇兵への規定です)もちろん正規兵でも、便衣戦術で軍事抵抗した場合は「便衣兵」と見なされますが、そういう軍事抵抗があったという事実はほとんど確認されていないと思います。』

# finalvent 『bluefox014さん、ども。字義通りに「便衣兵が多かった」という証言はなかったかという意味ですか? そう解して妥当な証言であるように受け取りましたが。定義とその実態・活動について私は予断を持っていません。』

# bluefox014 『>字義通りに「便衣兵が多かった」という証言はなかったかという意味ですか? そう解して妥当な証言であるように受け取りましたが。

便衣兵とは、「便衣戦術をもって軍事行動する民間人」または「便衣戦術をもって軍事行動する正規兵」のことだと思いますが、いずれにせよ「便衣」であり「武器を持って軍事行動を企図していること」というのが必要条件だと思います。さて番組では小西さんと鍋島さんのお二人が証言されていますが、両名とも便衣に着替えた正規兵が「武器を持って」逃げ込んだ、潜伏したという証言はされていません。小西さんは「緊張した」と述べ、鍋島さんは兵士が民間人の服を着て「逃げ込んだ」とは述べましたが、「武器を持って」などとは述べていない。つまり、「便衣兵」という言葉をお二人が発していないのみならず、「便衣兵」と解して妥当であるような発言はお二人ともされていません。
finalvent さんは、お二人の発言を「便衣兵と解せる証言を出していた」と解釈されたようですが、私にはその解釈は妥当ではないと思います。特に鍋島さんの証言を素直に解釈するなら、「民間人の服に着替えた逃亡兵が多くいた」と要約すべきでしょう。』


補足すれば、中国兵がなぜ民間人に着替えて逃亡したか、という理由に留意する必要があるだろう。
この点については、seiryu95さんがhttp://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060808/1155021588コメント欄で適切に発言されている (2006/08/14 03:59)ので引用する。

まず、便衣兵については、軍服を脱いで攻撃を仕掛けるという意味での便衣兵は日本の記録にも存在していないことを指摘しておきます。敗走の過程で軍服を脱いで逃走した兵士は存在しましたが、それ自体は犯罪行為ではありません。特に日本軍が捕虜を殺害している(これは日本側の記録にきちんと残っています))状況では、日本側がそれを責めることはあまりにも勝手でしょう。


あらためて整理すると、逃亡兵=便衣兵ではない。
逃亡兵が民間人の服に着替えても正規兵であることに変わりはない(ハーグ陸戦条規第1条が民兵・義勇兵に適用される条項であることは、東中野修道氏ですら認めている*1
便衣戦術をとっていない逃亡兵を拘束した場合、「ハーグ陸戦条規」に鑑みれば捕虜として扱わなければならない。*2
捕虜として扱うべき者を殺害した場合は、不法殺害であり、「虐殺」と称されても仕方がないだろう。

*1:「月曜評論」2000年3月号所収、東中野修道「南京の支那兵処刑は不当か」。

*2:便衣戦術をとった正規兵が捕捉された場合、戦時重罪として処刑されることはあるだろうが