Joe's Labo

バスに乗ると、なんだか居心地の悪さを感じた。
見回すと、乗客にはどうやら２種類のグループがいるようだ。
一方は普通の東アジア人。もう一方は顔立ちも服装も全然違っていて、
中には金髪に近い人もいる。
彼らは線でも引いたかのように綺麗に分かれて座っていて、そしてどうやら
あまり仲がよろしくはないらしい。

居心地の悪い理由はすぐにわかった。普通の東アジア人である僕が、
後者のエリアの真ん中に座っていたためだ。

その町では諸事そんな調子で、２つのグループはけして交わってはいなかった。
場所は中国新疆ウイグル自治区のカシュガル、２つのグループとは漢人とウイグル人だ。
（当時は圧倒的にウイグル人が多かったが）

面白いことに、僕が日本人だとわかると、ウイグル人はとたんに笑顔を見せてくれる。
どうやら共産党の反日教育の副産物らしい。
もう十年以上昔の話だが、溝は埋まるどころか深まっていたようだ。

ウイグル人にとっての不幸は、抑圧者が世界経済を背負って立つほどに強力かつ貪欲で
そして国連常任理事国であるという現実だろう。
サダムに対しては国連も制裁してくれたし、最後は（頼まれてもいないのに）
アメリカがぶっ潰してくれたが、中国をとめられる者なんて地球上に存在しない。
そこそこ真面目に共産主義に取り組んでいたソ連は“空虚な帝国”だったが、
中国は単純に「共産主義と言う看板を掲げた漢帝国」なのだろう。

ＩＴとグローバリゼーションのおかげで、“島国”という地理的条件は意味を
失いつつある。
ウイグルの惨状がやけにリアルに感じられるのは、メディアの技術進歩のおかげだろうか。
それとも、帝国との距離が縮まっているからだろうか。

中国を追われたウイグル人―亡命者が語る政治弾圧 (文春新書)水谷 尚子文藝春秋このアイテムの詳細を見る