Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

なぜGMは転落したのか

2009-07-04 10:10:47 | æ›¸è©•
なぜGMは転落したのか―アメリカ年金制度の罠ロジャー ローウェンスタイン日本経済新聞出版社このアイテムの詳細を見る


カリフォルニアの財政危機でシュワルツェネッガーも大変らしい。
以前からそんなにハコモノ好きとも思えないアメリカの自治体がどうして財政危機に
陥るのか不思議だったが、本書を読んでそのカラクリが理解できた。
キーワードは“労組”だ。

本書は大きく3つに分かれる。労組の既得権が結局会社を食いつぶしたGMと、
公務員ストという武器を手にした労組により破産寸前まで追い込まれたニューヨーク。
そして、実際に破産状態に陥ったサンディエゴ。
なぜ、組織が崩壊するまで労組は強くなれたのか。労働者>資本家の時代が到来したのか。

鍵は、年金という存在にある。
公的年金制度の無いアメリカにおいて、老後の保障はとても魅力的な条件だ。
また経営者にとっても、短期の支払いを必要としない譲歩は魅力的である。
さらにこれが自治体になれば、労組はそのまま地区の有力な票田でもある。
(日本とまったく同じだ)
政治家は労組と対立するよりも、年金アップを約束しがちなのだ。
ツケは将来の世代が払うのだから。
こうして年金や医療保険は半ば空手形的に、野放図な拡大を続けた。

GM転落の理由は、いくつかの切り口がある。マーケットを読み誤ったとする説、
保護に頼って競争力を失ったという説。そして、単純に後発の新興国企業に敗れた
だけだという説。そのどれも正しいのだろうが、コストだけをみれば労組が最大の
お荷物だろう。なぜなら、末期には健康保険だけで一台あたり1500ドルものコスト
が上乗せされていたからだ。

トヨタが懸命にハイブリッド技術を開発している数年間、GMは70億ドルを退職者に
支払っていた。レイオフで自宅待機中のベテラン労働者は、景気が良くなっても
工場には戻らなかった。仕事なんてしなくても、給与はほぼ満額もらえたから。
(だからGMは別の労働者を雇わねばならなかった!)
ニューヨークの職員は、心臓疾患やHIV,肝炎といった病気を労災と認めてもらえる
ようになった。バスの運転手や清掃員は、民間の倍の給料を勝ち取った。
もちろん、すべて出所は税金だ。

ツケの先送りという傾向は、日本だけのお家芸ではないのかもしれない。
「まあいいか。どうせすぐ払うもんじゃないし」
という安易さと
「勝ち取った権利は死んでも手放さない」
という頑固さは、まんま日本の縮図を見るようだ。

著者は、長期的な視点を持たない労組のエゴこそ、GMその他の大企業から自治体
までを窮地に追い込む戦犯であるとする。民主党にとって耳が痛い内容だろう。
グーグルやウォルマートといった後発の大企業が、のたうちまわるGMに肝を冷やして
年金制度を拒否し続けているというのもよくわかる。
が一方で、その裏には他国のような充実した公的年金や医療制度のないアメリカ社会の
欠点を指摘し、そういった努力を一切してこなかった共和党も批判する。

きっと日本人の中には、強欲なGM労組を笑う人がいるだろう。そういった公的制度を
つくらなかったアメリカ自体を笑う人もいるかもしれない。
「やはり自由競争はダメだ!民営化もダメだ!」なんて、本書だけを読んで
思った人もいるはずだ。
でも、公的年金も国家財政も破綻しかけている日本は
本当にアメリカを笑えるのか。

ひょっとして20年後には、アメリカ人が日本を指差して笑っているかもしれない。
「GMがやらかしたことを、ジャップは国単位でやらかしたぞ!」
「へえ、自分たちが乗っている島を食いつぶすなんて、バカな連中だな!」

つまるところGMにおいては、現役からOBへの所得移転が行われていたわけだが
日本の場合は若年層から高齢者への移転が行なわれているわけだ。
著者が最後に提言するように、結局は「積み立てた分以上は支払うな」という
大原則しかないのかもしれない。

アメリカの課題は、年金や社会保障というシステムが国の制度としてハード化
されず、利用者のエゴで暴走してしまった点にある。
日本の場合、社会保障制度としてハード化はしたものの、調整ができずに
タイタニック化しつつあるといえる。
微調整するツールも含めてハード化するしかないのだろうが、完全な成功例は
寡聞にして知らない。※

そう考えると、「一銭も差っ引かないが年金もゼロだ」というグーグルが、
実は一番リベラルなのかもしれない。



※法律で拠出額を固定化、あるいは中央銀行のように独立した社会保障機関を
 作って世代間格差を監視させる等が考えられる