「布基礎」方式は、「床下の空気が淀む」という「常識」は、すでに広く知れわたっている。
ところが建築関係者には、「木造建築は布基礎」という《常識》が行き渡っている。
この「常識」と《常識》の齟齬は、建築法令が根本的に見直されないかぎり、解消できない。
なぜなら、建築関係者は、「お上」に弱いからである。まさに「泣く子と地頭には勝てない」、「常識」は《常識》に勝てないのである。
土台と柱の関係については、必ず柱の引抜きを《懸念》して、補強が必要と言われる、だから、柱脚部をはじめ、各部位にかかる力を計算する方がいい、という方々が多数おられたのだが、私は賛意を表さなかった。
理由は簡単である。
たしかに、木造の設計参考書等を見ると、たとえば耐力壁に横力がかかると、柱にどれだけの引抜きの力がかかるか、あるいは、継手・仕口や各種金物はどれだけの力に堪えられるか・・といったデータが、実験値を基に載っている。
最近復権した土塗壁等の「壁倍率に係る技術解説書」に具体的な実験の様子が紹介されているが、あくまでもその実験は、当該部分だけの「試験体」に力をかけるもの。それによって「結果」が出るのはあたりまえ。
しかし「本当に知りたい」のは、あるいは、「知らなければならない」のは、「実際の架構体に外力がかかったとき、当該部にどのような力がかかるのか」、その実態のはずだ。
当該部に外力がもろにかかる、と考えるのはたしかに「安全側」ではある。しかし一方で「精密さ」を言いながら、当該部に実際にかかる力の「査定」となると一挙に「精密さ」を欠く。それを「安全率」というタクミナ語でゴマカシテいると言ってよい。「精密さ」あるいは「科学的」とはいったい何を言うのだ?
このあたりのいわば「ご都合主義」については、2月に数回連載した『「在来工法」はなぜ生れたか』で詳しく触れた。
註 先の「解説書」では、「差鴨居」も実験され壁倍率の答申がなされたが、
《壁式構造として評価できない》! として見送られた、とある。
参考書・教科書の類に出ている継手・仕口や金物の「耐力データ」は、数値が示されているゆえに《科学的》に見えるが、実は、ほとんどがこういう「仮定」の下で算定されているのであって「実態」とはかけ離れたもの(だから、そういうデータを基にした「在来工法」の材寸:特に横架材の材寸は、かつての建物に比べ異様に大きくなる)。
私には、このような《科学的データ》よりも、常に現場で「実態」と向い会いつつ仕事をしてきた人たちのつくりなした「結果」、つまり「実際の建物、特に、長きに亘り健在な建物の観察を通して得られるデータ」の方が、より「実態に即した科学的なデータ」と思える(これを「疫学的調査」によるデータと私は呼ぶ)。これが、「構造計算」に賛意を示さなかった理由である。
さて、やむを得ず布基礎方式にしているが、土台は極力基礎の天端から浮かすことにしている。いわゆるネコ方式だが、ここではネコ部以外を厚25㎜の形枠で蓋をし、一度に打ち込むことを考えている(実際に試みたことがあるが、精度よく仕上がる)。なお、基礎の天端幅を、目地棒により土台幅より小さくし、天端上に万一の際の雨水が滞留しないようにしている(25㎜は目地棒の寸法)。
アンカーボルトは、あくまでも軸組部の基礎からの外れ防止として理解している。
緊結して「地面と一緒に揺れなければならない理由」はないからである(架構が十分に組まれると考えられる場合には、ボルト孔の逃げを大きくとり、ナットも強く締めないことがある)。
註 中越沖地震に際し、ボランティアで柏崎を訪ねた人から、
砂質状地盤に建っている2軒並んだ住宅で、
片方は建物も傾き、屋内は家具が転倒していたのに、
もう一軒は、建物も健在で、屋内は家具一つ倒れていなかったという。
前者は布基礎方式。後者は礎石建てであったとのこと。
後者の場合、堅固に組まれた軸組の下で、地面が勝手に揺れた、
ということだろう。
写真を見せていただくことになっているので、その際あらためて報告。
なお、清水寺に代表される懸崖造は、その載っている礎石に不同沈下が
生じて束柱が礎石から浮いても、直ちに床面に歪みが生じることはない。
これは、基礎と軸組との関係を考える大きなヒントになるはずなのだが
完全に無視されてきている。
柱の引抜き対策については、上掲の「参考」頁に解説。
次回は、この続き。
・布基礎・土台・足固めでは床面が高過ぎるために足固めをあきらるということでよろしいでしょうか。
・ネコをコンクリートで打たれたこともあるとのことですが、そうすると落とし蟻の通し柱の木口がコンクリートに触れるのが少々気にかかりますがいかがでしょうか。
・管柱の根枘は長枘とはいえ、土台を貫通はしていないようです。貫通していれば万一枘穴に水が入ったときに安心という気がしますし、貫通していなければコンクリートを木口に触らせずにすむという点で安心という気がしますが、このあたりの判断はいかがでしょう。
・現行法令下の制限がないものとして、低い布基礎・土台・足固め・アンカーボルト無しを選択したとします。地震のときに土台が滑って力を逃がすようにするには基礎は低く、土台より広く作らねばならないように思います。しかしそうすると、基礎の上端の雨じまいが悪く土台に水がまわる気がします。
以上どのように考えますか。
布基礎の高さを低くして、土台を流し、柱を立て、足固めを入れる設計をなさった方がおられるようです。多分、確認申請時に「説得」したのだと思われます。都会でない地域の、経験のある方が窓口におられる所では、可能かもしれません(建築知識社刊「木造住宅 私家版 仕様書 架構編」に出ています)。
「ネコをコンクリートで・・・落とし蟻の通し柱の木口がコンクリートに触れる」のが気になる件、布基礎の上端に水がたまらなければよいと思います。そのあたりは、礎石に柱を据えるのと同じと考えてよいのでは。
「ほぞ孔は貫通がよいかどうか」の件、大工さんでも意見が分かれるようです。私は、「ほぞの長さ+α」でよいと考えています。水がたまる件は、以下にまとめて書きます。
礎石立てのときの柱の足元は、雨水のかかりやすいところです。法隆寺の回廊の柱では、特に内側の吹き放しの部分では、あれだけ軒を深く出していても、かなりの柱の根継ぎが見られます。しかし、根継ぎを必要とするようになるまでには、多分、百年オーダーの日数がかかっていると思います。つまり、簡単には腐朽しないということです。回廊の場合は、多分、柱外周部が風化、老化し、水を吸い込む度合いが増え、その結果腐朽も起きやすくなった、という過程があったのだと思います(垂木の軒先部が腐るようになるのと同じです)。
つまり、極力雨水があたらないようにし(軒を深く出す)、あたった水を溜めないようにすることで、腐朽を遅らせることができると考えられます。
そして、もしも腐朽が見つかったら、根継ぎのように、部分的修復が可能な工法でつくる、これが伝統工法のやりかただった、と思います。
布基礎内部の木部が腐りやすいこと、つまり、床下を閉じることがよくないことは、多分、塗り篭めの家屋で分っていたことだと思います。
土蔵などでは、1階の床組を、いつでも交換可能のようにしてあるようです(「近江八幡・西川家の土蔵」で触れたような気がします)。
「地震のときに土台が・・・の水はけ」の件、同様に、先ず雨が極力かからないようにすること、かかった水をたまらないようにすることです。古い建物では、相当に工夫しているように見受けられます。
なお、淡路島の布石上の建物では、横滑りは、あっても10~15cmほど、架構がしっかりしていると、布石から飛び出していても、本体が壊れることはないようです。ですから、基礎を大きくすることは、あえてしなくてもよいと思っています。
「ネコをコンクリートで・・・落とし蟻の通し柱の木口がコンクリートに触れる」のが気になっていた理由を申し上げますと、
・かつて西岡常一棟梁が石と木は良いがコンクリートと木は駄目だという内容のことを述べられていたこと
・土庇の柱の下に御影などの石を使うのはためらわないのにコンクリート基礎に柱を立てるのを良しとしない大工さんがいること
です。コンクリートと石の差が少し気になっていたのですが、あまり気にしなくても良いのかも知れませんね。
「ほぞ孔は貫通がよいかどうか」の件、大工さんでも意見が分かれることと、腐朽はあまり気にしなくてもよい(あまり腐朽しないし、取替え可能性が大事)ということ理解できました。
話がずれますが、下山先生の図面で「ほぞの長さ+α」を読み取ることはできたはずですが、私はうっかり単に貫通でないとしか読み取っておりませんでした。この機会に「ほぞの長さ+α」の主たる理由を考えて見ました。もし、「ほぞ孔の深さ」が「ほぞの長さ-α」である場合、細いほぞで土台に力を加えることになり土台に与えるダメージが大きくなってしまう。これを避けるために「ほぞの長さ+α」としておけば広い断面で土台に力が加わり、だんだん土台の上端がへこんできたところでほぞ先がほぞ孔の底に届くので合理的。本当の理由は別のところにあるのでしょうか。
「布石上の建物の横滑り」の件も、基礎を土台より広く作る必要性はほとんどないということが理解できました。
さて、現行法令化では難しい「礎石建て・足固め」に代わるものとして、自分としては「低い布基礎・土台・足固め」を考えて見たのですが、探して見ると、これが予想以上に見つかりません。
実は「布基礎」は「ベタ基礎でない布基礎」を考えておりました。お示しいただいた「木造住宅 私家版 仕様書 架構編」は持っており、まだ見直しておりませんが、「フラットヘッド」というベタ基礎に土台・足固め、というのが出ていたことは記憶しております。この本が先駆となったか、フラットヘッドベタ基礎・土台・足固めを実現しているものがネットでいくつか見つかりました。
http://www.minken.jp/pg26.html
http://www.tokairin.jp/dento/index.html#Gashigatame
これとは違って高基礎で足固めにしたものもあるようです。床下高120cmだそうです。
http://www010.upp.so-net.ne.jp/onhome/report/0202c.html#%E2%97%8F%E8%B6%B3%E5%9B%BA%E3%82%81
現行法令では難しいと思われる、「平屋でない礎石建て(石場建て)」は1つ見つかりました。地面はコンクリートでふさいでしまっています。
http://kino-ie.net/genba_111.html
http://shiga.webnavi.co.jp/tour_detail_619.html
珍しいものでは、低い布基礎・土台なし・足固めのものもあります。
http://kino-ie.net/genba_151.html
これは横滑りは大丈夫なのか少々気になります。