注目コメント算出アルゴリズムの一部にLINEヤフー株式会社の「建設的コメント順位付けモデルAPI」を使用しています
一 信子は女子大学にゐた時から、才媛(さいゑん)の名声を担(にな)つてゐた。彼女が早晩作家として文... 一 信子は女子大学にゐた時から、才媛(さいゑん)の名声を担(にな)つてゐた。彼女が早晩作家として文壇に打つて出る事は、殆(ほとんど)誰も疑はなかつた。中には彼女が在学中、既に三百何枚かの自叙伝体小説を書き上げたなどと吹聴(ふいちやう)して歩くものもあつた。が、学校を卒業して見ると、まだ女学校も出てゐない妹の照子と彼女とを抱へて、後家(ごけ)を立て通して来た母の手前も、さうは我儘(わがまま)を云はれない、複雑な事情もないではなかつた。そこで彼女は創作を始める前に、まづ世間の習慣通り、縁談からきめてかかるべく余儀なくされた。 彼女には俊吉(しゆんきち)と云ふ従兄(いとこ)があつた。彼は当時まだ大学の文科に籍を置いてゐたが、やはり将来は作家仲間に身を投ずる意志があるらしかつた。信子はこの従兄の大学生と、昔から親しく往来してゐた。それが互に文学と云ふ共通の話題が出来てからは、愈(いよいよ)親しみが
2020/06/23 リンク