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          僕は普段裸眼で生きている。 学生の頃から視力は2.0のままで、一定遠くの文字も、夜道の標識も、はっき... 僕は普段裸眼で生きている。 学生の頃から視力は2.0のままで、一定遠くの文字も、夜道の標識も、はっきり見える。 月に一度ほど、理由もなくメガネをかけて出かける。 どこの駅に行くかは決めていない。 降り立った場所の空気を嗅ぎ、通りすがりの灯りに導かれるように、バーを見つけて扉を押す。 そこにいる誰も、僕を知らない。 そして僕も、誰も知らない。 ただ「メガネをかけた男」として、その場の風景に混ざり込む。 声をかけてくる人がいれば、少し話す。 仕事の話、恋人の話、他愛のない噂話。 この夜、僕はほんの一瞬だけ、別の誰かになる。 翌朝、彼らはもう僕を覚えていないだろう。 名前も知らない。職業も、住んでいる場所も知らない。 ただ、記憶のどこかに、メガネをかけた見知らぬ男が立っているかもしれない。 メガネの僕の秘密を、裸眼の僕の秘密を、知っているのは世界で僕ひとりだけだ。 他の誰も知らない、僕自身の小さ
2025/10/28 リンク