大宮日記 ラテン語、チョコザップ、漢文、大宮図書館

食べて飲んで、勉強して、本を読んで、運動して生きていく。ここ、さいたま大宮で。

【読了】ハン・ガン著、斎藤真理子訳『すべての、白いものたちの』河出書房新社

さいたま市立北浦和図書館所蔵

www.lib.city.saitama.jp

2024/10/23 大宮図書館より借入
2024/11/05 読書開始
2024/11/05 読了、大宮図書館へ返却

 

ノーベル文学賞受賞。あわてて取り寄せた。

白いものについて書こうと決めた。春。そのとき私が最初にやったのは、目録を作ることだった。
おくるみ
うぶぎ
しお
ゆき
こおり
つき
こめ
なみ
はくもくれん
しろいとり
しろくわらう
はくし
しろいいぬ
はくはつ
壽衣
単語を一つ書きとめるたび、不思議に胸がさわいだ。この本を必ず完成させたい。(P.8-9)

著者の姉、産まれてすぐに亡くなった姉。「彼女」「あなた」と「私」の物語。著者のファミリーヒストリーからどうしても溢れる「白いものたち」を「彼女」「あなた」に知ってもらうためのワルシャワの街とソウルもおそらく白い。

私はあなたの目で見るだろう。白菜のいちばん奥のあかるく白いところ、いちばん大切に護られた、稚い芯葉を見るだろう。
昼の空に浮かんだ、涼やかな半月を見るだろう。
いつか氷河を見るだろう。うねり、くねり、青い影をたたえた巨大な氷を、生命だったことは一度もなく、そのためいっそう神聖な生命のように見えるそれを、仰ぎ見るだろう。
白樺林の沈黙の中にあなたを見るだろう。冬の陽が入る静かな窓べで見るだろう。天井に斜めに差し込む光線に沿ってゆらめき光るほこりの粒子の中に、見るだろう。
それら白いものたち、すべての、白いものたちの中で、あなたが最後に吐き出した息を、私は私の胸に吸い込むだろう。(P.178)

本書の原題は『흰(ヒン)』。韓国語で白を表す言葉には真っ白を表す「하얀(ハヤン)」と様々なニュアンスの白を表す「흰(ヒン)」があるという。

私の母国語で白い色を表す言葉に、「ハヤン(まっしろな)」と「ヒン(しろい)」がある。綿あめのようにひたすら清潔な白「ハヤン」とは違い、「ヒン」は、生と死の寂しさをこもごもたたえた色である。私が書きたかったのは「ヒン」についての本だった。(「作家の言葉」P.182)

様々な「흰(ヒン)」を表現した装丁・ブックデザインの工夫があるすてきな一冊でもある。