大宮日記 ラテン語、チョコザップ、漢文、大宮図書館

食べて飲んで、勉強して、本を読んで、運動して生きていく。ここ、さいたま大宮で。

【読了】遠藤美幸『戦友会狂騒曲』地平社

さいたま市立大宮図書館所蔵

www.lib.city.saitama.jp

2024/12/15 大宮図書館より借入
2024/12/21 読書開始
2024/12/22 読了
2024/12/23 大宮図書館へ返却

 

ボランティアで戦友会(第二師団勇会)の「お世話係」を二十年間務めるという稀有な体験をした著者・遠藤美幸氏。ただの物好きなおばさんかと思いきや、筋金入りの戦史研究家であった。なにしろ雲南・拉孟の全隊玉砕の戦場跡まで足を運び、ある「確信」を得て帰ってくるような人であったのだ。失礼しました。
そんな著者が経験したことの数々が教えてくれるのは、軍隊という組織が人間関係の複雑な塊を本音としながらも強固な建前で成り立つどうしようもないものだったということだ。
それにしても腹立たしいのは、第二次安倍内閣成立に便乗した浅薄な歴史修正主義者の跋扈である。

第二次安倍内閣の時期(二〇一二年末―二〇一四年九月)から、戦後七〇年に向けて、勇会有志会には怪しげな保守系右翼団体の人たちが大勢押し寄せてきた。「従軍慰安婦はいない」と訴える人々、子どもたちに「正しい歴史」を教えようと靖国神社併設の戦争博物館(遊就館)に足しげく通っている人々、「英霊にこたえる会」や保守系の歴史勉強会の所属者も多くやってきた。
二〇一三年から一四年にかけて磯部憲兵軍曹の紹介で多くの「若者たちB」が勇会有志会に大勢来襲した。彼(女)らの入会が、その後の勇会有志会をとんでもない方向に「変容」させる原因となった。(P.45)

地獄のガダルカナル戦、ビルマ戦線を生き抜いてきた元兵士に向かって、戦争も知らない若造が「あなたがたの戦ってきた戦争を卑下しないでください」などと言い放つ無神経ぶりに腹が立ってしょうがない。
結局、勇会は有志会となり、そして「若者たちB」を排除するために自ら解散を決め大団円を迎える。
当事者がもういなくなっていく「戦友会」。

それぞれの戦友会の内実を知るには、その戦友会がどのような「共通体験」の集まりなのかを詳細に検討しなくてはならない。必ずしも共通の「戦場体験」をもっている集まりでない戦友会もあるが、戦友でなければわからない(時にわかり合えない)「戦場(共通)体験」を共有している集まりが戦友会なのだ。よって戦友会を知るには八十数年前の「戦場体験」と戦後の歩みを詳細に調査し検討する必要がある。木下中尉がなぜ戦友会から排除されたのか、なぜ戦友会を嫌う元兵士がいるのかは、彼らの「戦場体験」の検討なくしてはわからなかった。そのためには長期にわたる忍耐強い聞き取りと、戦場跡に立って感じる身体的な体験が不可欠であった。(P.131)

「戦場体験を聴いてあなた(私)はどうしたいのか」。木下さんの言葉はいつも私の心で響いている。戦場体験を聴くことは、つまるところ私自身の生き方が問われているのだ。(P.131)

「戦友」とは何か、戦争とは何か、そして戦争を知らない私たちはそれらを今現在どのような視座をもって見返すべきなのか、さらには自身がどう生きるのかについて考えさせられる好著である。