いまさらながら・・・

http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51470094.html
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51470094.html

「自分は果たしてシベリア抑留についてどの程度のことを知っているか?」と自問してみれば*1、そんなに騒ぐようなはなしでないことはすぐにわかるじゃん。というのが第一印象だったんで大して気にもとめていなかったのですが、いろいろと反響を起こしているようです。
http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20090528/p1
http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20090530/p1
(関連して)http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20090529/1243606377
すっかり出遅れてしまったわけですが、D_Amonさんのエントリにもコメントしている shivashanti氏の主張は先日の眞鍋かとり氏のそれと同様の問題をはらんでいますので、遅まきながらとりあげておきたいと思います。

南京事件を否定している人々は南京事件がどういう事件かすら知らない人だったりするわけです。
南京事件を否定してしまうのは入門知識すら身につけてない証 - 模型とキャラ弁の日記

と書いている本人が「南京事件とは何か」という問いに答えられない。

引用にあたって D_Amonさんのエントリへのリンクは省略しました(トラバがダブるので)。これは以下のやりとりを前提としています。

shivashanti 2009/05/29 09:55
D_Amonさんはどういう事実が明らかになれば南京事件を否定しますか?
肯定側の方々にも聞きます。 どういう事実が明らかになれば南京事件を肯定しますか?


どうせ何が「南京事件」で何がそうでないかの区別すらついてないんじゃないかと思いますが。


shivashanti 2009/05/29 09:55
あ、2行目「否定側の方々」でした。


D_Amon 2009/05/29 12:47
shivashantiさん、数々の日本側の記録が全て偽造だったとか、実際に体験した日本軍兵士の記憶も全て何らかの手段で書き換えらたものだったとか、数々の歴史学的証拠とされるものが全て否定されればですかね。
多分、shivashantiさんはどういうことが南京事件とされるてるのかすら知らないからそういうことを書き込めるのではなんて思いますね。


shivashanti 2009/05/29 13:37
> shivashantiさんはどういうことが南京事件とされるてるのかすら知らないからそういうことを書き込めるのではなんて思いますね。
恥ずかしながら全く持ってその通りです。
「何」が「南京事件」なのか知らないのです。 おそらく大多数の方々がそうではないでしょうか?


肯定者で一致していることは「日本軍が南京で非戦闘員を殺した」ということだけです。
その事実のみが南京事件であるのなら、それは「南京事件はあった」と言えるでしょう。
ですが、皆さんが論争されているのはそういうことじゃあないですよね?
どんなにアホなネトウヨもそこに反論はしないでしょう。


ただ、肯定論者によって南京事件の定義が明らかにされたところも見たことがありません。
南京事件であるもの と 南京事件ではないもの の区別がどこに引かれているのかさっぱりわかりません。


まずはD_Amonさんの考える「南京事件」をもっと知りたいので、「日本側の記録」「実際に体験した日本軍兵士の記憶」「数々の歴史学的証拠」について質問させてください。


記録というのは何の記録をさすのでしょうか?
体験とは何の体験でしょうか?
証拠とは何の証拠でしょうか?
(http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20090528/p1#c)

「知らないこと」は弁護可能でも「知らないくせに知ったかぶりをしてテキトーなことを言うこと」は弁解の余地がありません。この人の場合、まずは「肯定者で一致していることは「日本軍が南京で非戦闘員を殺した」ということだけです」という一節に無知が露呈しています。彼が「肯定論者」の主張を真面目に読んだことなどないことは明白です。南京事件の場合「非戦闘員」の殺害よりも捕虜の殺害についての方がより多くのことが明らかになっているのですから。捕虜の殺害を否定する「肯定論者」を私はただの一人も知りません。さらにこの人は2009/05/29 13:37のコメントでも「ただ、肯定論者によって南京事件の定義が明らかにされたところも見たことがありません」と書いています。そりゃああんたは見たことないかもしれないけど、それってそもそも「肯定論者」の主張をまともに読んだことない、ってだけのことだろ? 笠原十九司、『南京事件』、岩波新書、214-218ページ。藤原彰、『南京の日本軍』、大月書店、68-70ページ。秦郁彦、『南京事件』、中公新書、187-193ページ。代表的な3冊の概説書でもちゃんと「定義」は扱われている。ついでに言うと「どんなにアホなネトウヨもそこに反論はしないでしょう」というのも否定派の実情を無視してますな。
南京事件というのは「殺害」という犯罪類型だけに限っても小は1人から、大は1万人以上を殺害した数多くの出来事の複合体です。その複合体を構成する個別の事件についても「どの程度確実か」「どの程度詳細がわかっているか」は様々なのであって、こうした複雑さを承知している者にとっては「どの事実が否定されたら南京事件が否定されるのか」という問い*2自体がナンセンスです*3。敢えて答えるとしたら「これまであったとされてきた個別のケースの多くが実はなかったと判明したら」という、ほとんど意味のない漠然とした答えしか返しようがない。眞鍋かとり氏についても言えることですが、南京事件のこのような複合性をきちんと理解していない人にはまずもってその複合性を理解してもらうのが先決なんですね。そういうことは実は南京事件それ自体については無知であったとしても、大量虐殺という事態についてのある程度の知識と想像力があればわかるはずのことなんですけどね。


なお「また、私はGoogleで検索したのだが、何の資料も見つけることができなかった」という記述から「ネット検閲か」などと短絡してしまった人も見かけましたが、単純に「調べ方が悪かったんじゃないの?」「Googleでなんでもわかると思ってる方が悪いんじゃないの?」とは思わなかったんでしょうか。

*1:「米国人の友人」のふるまいについて言えば、「自分は果たしてオスマン・トルコによるアルメニア人虐殺についてどの程度のことを知っているか?」と自問してみれば。

*2:ttp://d.hatena.ne.jp/shivashanti/20090529

*3:もう一つ、日本軍の公文書や高級将校の日記に記録されている捕虜殺害を積み上げるだけでも数万に達することを知っている人間にしてみれば、それ以外のなにがどうひっくり返っても「南京事件はなかった」などという事態になりはしないことが明らかなので、この意味でもこの問いはナンセンスなのです。