2025-07-23

ざらし抱き枕

おばあちゃんは孫のことと、お買い物が大好きな人だった。

おばあちゃんの家に行くと「暇だろうから」と言って近所のイオン的なところに連れて行ってくれていた。で、何かしらを買ってくれていた。買ってくれるものはだいたいお菓子だった。

ある日雑貨屋さんに並んだ海の生き物の抱き枕ペンギンとか、あざらしとか)が気になった私は店の前でぼーっと見ていた。そうしたらおばあちゃんが「買ってあげる」と言うので、我が家はあまりぬいぐるみ抱き枕を買う家ではなかったので、大喜びして、慎重に考えて、真っ白で、パイル生地で、触り心地よくて、つぶらな目がくりっとついたかわいいあざらし抱き枕を選んだ。一緒にいた妹はペンギンを即決していた。

喜ぶ私たちを見ておばあちゃんも嬉しそうだった。

家に連れて帰ってからそれを見た母は「いらないもの・・・」と言って良い顔をしなかった。ぬいぐるみが増えることを嬉しく思っていなかった。

その週のうちに、あざらしペンギン抱き枕ゴミ袋に詰められて天袋にしまわれた。

その月のうちに、ある日学校に行こうとしたら見覚えのあるゴミ・・・ペンギンとあざらし抱き枕が詰められたもの燃えるゴミ置き場に捨てられていた。

学校に行かないといけなかった私にはどうすることもできなくて、涙を流すこともできず、ゴミ袋が外に放置されているのをじっと眺めることしかできなかった。袋の中で悲しそうな目をしているあざらしと目が合った。

母はぬいぐるみが嫌いだったのか、モノが増えて片付かないことが嫌いだったのか、義理の母が買うモノが嫌いだったのか、義理の母が嫌いだったのか、あるいは全てかもはや分からない。

数年後おばあちゃんは亡くなった。お葬式で思ったのは、「あの日買ってくれたぬいぐるみ、実はすぐに捨てられちゃってごめんなさい。うちに来なかったら、もっと長く大事に愛されて使ってもらえたかもしれないのにね」。

それから何十年も経った。

今でも雑貨屋さんぬいぐるみがあるのを見ると、あの日の嬉しい気持ちと悲しい気持ちが襲ってきて、最終的には泣きたい気持ちになる。

この気持ちを消化するには、また同じような抱き枕ぬいぐるみを買ったらいいのかな?良い年して買うのはどうかと思いつつ。

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