祭りが好きでさ、彼女ともよく一緒に行ってた。屋台の雰囲気とか、あの独特の活気が好きなんだよな。で、祭りに行くと結構な確率でフランクフルトを買ってた。あのジャンクな感じがいいんだよ。
買うたびに「これ、高いよなー」って言うのは、まあ口癖みたいなもんだった。別に本気で文句言ってるわけじゃなくて、祭り価格だよな、ってくらいの意味合い。彼女も「ほんとだよねー」みたいに笑って聞いてると思ってた。
この前の祭りも、いつものように二人で出かけたんだ。そろそろ小腹も空いたし、フランクフルトでも買うかーなんて歩いてたらさ。
中には、家で茹でてきたであろう、ふにゃっとしたフランクフルトが数本。
一瞬、何が起きたか分からなかった。頭が真っ白になったっていうか。
「え? これ…?」って聞いたら、「だっていつも高いって言うから! 業務用スーパーで安く買ってきたよ!」って、得意げなんだよな。
周りには他の客もいるし、屋台の人もこっち見てるし。なんだこれ、って。
あのな、俺が祭りでフランクフルト買うのは、あの雰囲気の中で、熱々の焼きたてを食うのがいいわけよ。別に家から持ってきた冷めたフランクフルトが食いたいわけじゃない。しかも、わざわざ人のいる前でタッパーから出すって…デリカシーなさすぎだろ。
「高い」って言ったのだって、別に本気で節約しろって意味じゃない。ただの会話のきっかけみたいなもんだ。それを真に受けて、こんな行動に出るって…。
なんていうか、もう無理だなって思った。こういう、人の気持ちとか場の空気とかを全く考えずに、自分の「良かれ」だけで突っ走るところ。前々からそういう節はあったけど、この一件で完全に冷めた。
多分、俺はすごい顔してたんだと思う。なんて言ったか正確には覚えてないけど、「無理だわ、そういうとこ。別れよう」みたいなことを言って、その場を去った。
悪気がないのは分かるんだよ。俺のために、良かれと思ってやったんだろう。でも、それが致命的にズレてる。もう、この先一緒にいるのは無理だと思った。
あのフランクフルト、結局どうしたんだろうな…。