窓を叩く激しい雨の音に目が覚め、深い闇の中、ただ時計の針が進む微かな音が響く。
真夜中のはずなのに、異様な緊張感が部屋を包んでいた。
胸騒ぎがし、なにかに引き寄せられるようにベッドから起き上がると、窓の外に薄ぼんやりと人影が見えた。
「…誰かいるのか?」
そうつぶやいても返事があるわけもない。
だが、なぜかその影は視線を外せないほど、異様な存在感を放っていた。
そこに立っていたのは、見知らぬ女性だった。
ずぶ濡れの髪が雨に濡れて闇に溶け込み、ただ大きく見開いた目がぎらぎらとこちらを見つめている。
そのまなざしに囚われた瞬間、体が動かなくなった。
「助けて…」彼女が低い声で呟いた。唇が微かに震えていたが、それ以外に彼女の感情は読み取れなかった。
動けないまま、なぜかその声には抗えないものがあった。
ドアを開けると、彼女はふらりと室内に入り、ソファに崩れ落ちた。
薄いドレスに包まれた彼女の体は冷たく、触れた指先が驚くほどの冷気を帯びていた。
意識は朦朧としているのか、彼女はただぼんやりと空を見つめていた。
「…どうしてこんなところに?」
彼女は答えなかった。
細かな彫刻が施されたそのペンダントを手に取ると、不思議な既視感が湧き上がった。
「このペンダント…知ってる気がする」
突然、彼女がぼそりと囁く。「…あの夜、私もそう思った…」
奇妙な言葉に身震いする。まるでこの場にいるはずのない、彼女の存在そのものが、どこか歪んだ記憶の一部であるように思えてきた。
「あなたは…誰なんだ?」
彼女はぼんやりと笑みを浮かべ、目を細めた。「…ただ、戻ってきただけ」
心臓が跳ね上がった。
しかし尋ねようとするたび、彼女はただ微笑むばかりで、言葉を交わすことはなかった。
雨が止み、夜が明け始めると、彼女は薄れるようにその姿を失い、消え去った。
握りしめると、手の中に残る冷たい感触に彼女の存在が実在していたことを示しているようで、胸の奥に重く沈む何かが残された。
彼女は何者だったのか、何を求めていたのか。