A4の宇宙

数学と物理をA4ノートに収まる範囲で。

電子の平均自由行程

目次に戻る

概要

動き回る物体が、別の物体と2回衝突する間に平均して進める距離のことを平均自由行程と呼ぶ。前回、濃厚接触の発生回数を人間の2次元平均自由行程から導いた。

 

多くの場合、平均自由行程は3次元空間と粒子で考えられ、飛行する粒子の平均自由行程は、気体やプラズマの性質を表す重要な指標となる。今回は飛行する電子 \mathrm{e}を考える。その空間には希ガス原子 \mathrm{g}がある密度 nで存在する。電子 \mathrm{e}の平均自由行程 \lambda_\mathrm{eg}を式で表す。

 

導出

飛び回る電子の大きさは非常に小さいとみなし、半径0の点と考える。それに対して的となる希ガス原子(以下、単に「原子」と書く)ははるかに大きく、ある半径 r_\mathrm{g}の球と考える。また、原子は電子と比較して非常に遅く、速度は0であると考える。これはプラズマ中や電子ビーム中で電子が高速に飛行し、気体分子に衝突する現象をモデル化する際によく用いられる近似である。図に衝突の模式図を示す。電子を赤、原子を青で示した。

f:id:dai-ig:20200607230627p:plain

立式

この時、電子と原子の中心間距離が、原子の半径 r_\mathrm{g}に等しくなった時に衝突が起こることが分かる。これは結局、電子の周りに半径r_\mathrm{g}の球を描き、原子の中心座標がその球殻に触れることと等価である。

 

等価な問題に置き換えた模式図を示す。電子が飛行したときに衝突が起こる領域をピンク色で示した。

f:id:dai-ig:20200607231145p:plain

図より、球の体積や厚さは関係なく、断面積だけで衝突の有無が決まることが分かる。この断面積は電子-原子間の衝突断面積\sigma_\mathrm{eg}=\pi r_\mathrm{g}^2と呼ばれる。

 

電子が平均自由行程 \lambda_\mathrm{eg}飛行する間に占有する衝突領域の体積は、次の図のように底面 \pi r_\mathrm{g}^2、高さ \lambda_\mathrm{eg}の円柱型をしている。この円柱の体積は \pi r_\mathrm{g}^2 \lambda_\mathrm{eg}である。

f:id:dai-ig:20200607231939p:plain

平均自由行程の定義により、この円柱の中には平均して 1個の原子(の中心点)が存在する。その時の密度は以下のように定式化される。

\begin{eqnarray}
n&=&\frac{1}{\pi r_\mathrm{g}^2 \lambda_\mathrm{eg}}\\
\lambda_\mathrm{eg}&=&\frac{1}{\pi r_\mathrm{g}^2 n}
\end{eqnarray}

式変形して \lambda_\mathrm{eg}を表す式に直した。

 

衝突断面積 \pi r_\mathrm{g}^2を \sigma_\mathrm{eg}で表すと、

 \lambda_\mathrm{eg}=\dfrac{1}{\pi r_\mathrm{g}^2 n}=\underline{\dfrac{1}{\sigma_\mathrm{eg} n}}

電子の平均自由行程 \lambda_\mathrm{eg}を表す式が導かれた。