防御と攻撃
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/02 23:08 UTC 版)
防御と攻撃の関係についてクラウゼヴィッツはその行動の受動性と能動性から区分する。防御という戦闘行動とは敵の進撃の撃退であり、攻撃は逆に敵を積極的に求める戦闘方式である。戦争において一方的な防御はありえず、防御と攻撃は彼我の双方向の戦闘行動によって相対化する。ただし防御の目的とは攻撃の奪取に比較して維持であるため、その実施は容易である。そのためクラウゼヴィッツは防御形式は本来的に攻撃形式よりも有利であると考える。しかし攻撃を行わなければ敵の戦闘力を打倒するという戦闘の目的は達成することはできない。 つまり攻撃と防御とは交代しながら行われるものである。その理由には攻撃と防御のそれぞれの戦術的性質が異なっているだけでなく、戦闘力の一般的な性質からも考察できる。戦力の衰弱をもたらす要因としては、決戦後にも継続される戦闘、後方支援の確保、戦闘における損害、根拠地と前線の距離の増大、要塞の攻囲、労苦の増大、同盟軍の戦線離脱の要因がある。このような要因による戦闘力の総量の消耗は敵の精神的、物質的な戦闘力の損耗によって相対的に解消されるものであり、戦術的勝利はこの戦闘力の均衡において圧倒的な優位があるために獲得されるものである。 しかしながら戦争において勝利者が軍事的努力によって一名残らず殲滅できるとは限らないだけでなく、戦闘力は勝利後も既に述べたさまざまな要素によって次第に減退していくものである。攻撃を行うことは常に戦闘の目的である敵戦闘力の打破に寄与するものであるが、攻撃によって獲得した戦果は時間の経過とともに逓減していくものだと理解できる。ここで攻撃によってのみ得られる戦果の限界量を導入することが可能となり、これを攻撃の限界点とクラウゼヴィッツは命名する。この攻撃の本質的性格を考慮すれば、防御とはこの攻撃の内在的な欠点を補うため、つまり攻撃の限界点においてそれまで獲得してきた戦果を保存するため、状況に応じて選択される戦闘行動として位置づけることができる。
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