社会状況
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 06:11 UTC 版)
非正規雇用者は極めて弱い立場にある。2000年代は輸出産業である製造業が好調だったが、人手不足は外国人労働者を含む派遣社員を中心に非正規雇用でまかなわれた。そのため、日本国外市場の減速が製造業を直撃した2008年秋頃からの解雇・雇止めの増加は、まず非正規雇用者から行われた。製造業の派遣社員は、派遣会社の提供している寮に入居している者が多く、職を失った多くの非正規雇用者たちが路上へ放り出された。また、製造業以外の職種でも非正規雇用労働者の解雇・雇止めが進んだ。経済学者の大竹文雄は「非正規社員を雇用の調整弁とすることを社会が容認している以上、非正規社員を雇い止めすることは企業にとっては完全に合理的である。また、非正規切りについて対策を求めず、賃上げを求める労働組合の行動も、正社員の代表という立場として正当化されるべきである。非正規社員を増やした段階で、不況になると非正規切りが起こるということは予測できたことである」と指摘している。 大企業と中小企業とでは、大企業の方が非正規雇用の割合が高い傾向にある。 男性と女性とでは、女性の方が増加傾向にある。特に若年層でその傾向がある。例えば、バブル景気前(1984年)とバブル崩壊とその後の景気回復(2006年)とを比べると、若年層に占める正規雇用の割合は、男性に比べて女性の方が低下幅が大きい。 非正規雇用で働いている人たちの多くは低賃金のため自活ができない。経済学者の岩田規久男は「アジアなどで生産される輸入品は、現地の未熟な低賃金労働者がつくっている。それに対処するために、非正規就業者の賃金は低い水準に抑えこまれている」と指摘している。 大竹文雄は「必要な手立ては、非正規雇用への規制強化ではなく、正規雇用の既得権益にメスを入れることである」と指摘している。大竹は「労働市場の二極化に歯止めをかけるために、非正規と正規の雇用保障の差を縮小させることである。非正規社員だけでなく、正規社員も景気変動リスクを引き受ける仕組みをつくる必要がある」と指摘している。経済学者の田中秀臣は「非正規雇用と正規雇用の待遇を同じにすれば問題は解決するという議論があるが、停滞が続く中でやっても単に失業者を増やすだけである」と指摘している。 経済学者の伊藤修は「財界の人たちや『多様な働き方の提供』という理屈で労働保護規制を壊している有識者は、自分の家族を非正規労働者にしたいとは思うのだろうか。自分が無理なものを他人に押し付けることは、人間としてのモラルに欠けるのではないか」と指摘している。
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