新型コロナウイルスの感染予防

みんなの医療ガイド

新型コロナウイルスの感染予防

世界で猛威を振るう新型コロナウイルス

 WHOは、2020年3月11日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミック(世界的な大流行)に至っていると発表しました。新型コロナウイルスは世界中で猛威を振るい、今なお収束の兆しを見せていません。
 日本では、2020年1月に国内で最初の新型コロナウイルスの感染症例が確認されて以来、水際対策や保健所による疫学調査を強化するとともに、3次にわたる緊急事態宣言を発出して感染拡大の防止に取り組んでいます。海外の主要国と比べると、日本の人口当たりの感染者数、死亡者は低い水準にとどまっています。

新型コロナウイルスとは

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、コロナウイルスの一種であり、感染しても多くの人は無症状あるいは軽症ですが、高齢者や基礎疾患のある人は重症化のリスクが高いことがわかっています。
 重症化したり、死亡する人の割合は、年齢によって異なり、高齢者は高い傾向があります。重症化する人の割合は、全体では約1.6%ですが、50歳代以下では0.3%、60歳代以上で8.5%です。また、死亡する人の割合は、全体では約1.0%ですが、50歳代以下では0.06%、60歳代以上では5.7%となっています(2020年10月22日第11回アドバイザリーボード資料より)。

発症前からウイルスを排出

 新型コロナウイルスに感染しても多くの人が無症状や軽症である一方、咳や発熱の症状が現れる前からウイルスを排出し、他の人を感染させる可能性があり、このことが感染予防を難しくしています。発症してからマスクをつけるのではなく、日常的にマスクをつけることが感染予防のために必要とされています。
 重症化のリスクとなる基礎疾患には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満があります。また、妊婦や喫煙歴がある人も注意が必要とされています。
 新型コロナウイルスに感染した人が他の人に感染させる可能性がある期間は、発症の2日前から発症後7〜10日間程度で、発症直前から直後は特にウイルスの排出量が高まります。
 感染者が他の人に感染させている割合は、2割以下とされます。感染者がマスクを着ければ、接触した人が吸い込むウイルスの量は減少します。人と接する時はマスクを着用し、体調が悪いときは外出を控えることが大切です。
 なお、感染力が強いとされるイギリス型やインド型の変異株が国内でも確認され、増加の傾向にあることから、警戒が必要とされています。

クラスターを繰り返して感染が拡大

 新型コロナは、1人の感染者が何人もの人を感染させてしまうクラスター(集団感染)を形成しながら流行することがわかっています。クラスターに共通する因子は、①換気の悪い密閉空間②多数が集まる密集場所③間近で会話や発話をする密接場面であり、これらの3密(密閉、密集、密接)を避けることが感染予防のポイントとなります。
 そのほか、飲酒を伴う懇親会、大人数や長時間におよぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わりなど、感染リスクが高まる「5つの場面」に注意が必要です。

第12回新型コロナウイルス感染症対策分科会資料より

クリックして拡大

(2020年10月23日 第12回新型コロナウイルス感染症対策分科会資料より)

感染の経路

 新型コロナウイルス感染症は、飛沫感染と接触感染によって感染します。
 飛沫感染は、感染者の咳やくしゃみを直接浴びる、またはエアロゾルを吸入することで感染します。エアロゾルは、水分量が少なく、飛沫より小さな粒子です。飛沫は1~2メートルで落下するのに対し、エアロゾルは条件によっては遠くまで漂うため、感染を防ぐためにこまめな換気を行う必要があります。
 接触感染は、汚染された物に触れた手で、口、鼻、目に触れることで感染します。対策としては、こまめな手洗いにより手指を消毒することや、居室やドア、家具などを消毒することが有効です。
 家族間の感染を防ぐためには、家庭内にウイルスを持ち込まないことが大切で、帰宅後の手洗いが大切です。

発熱などの症状がある場合

 発熱や咳などの症状がある人は、まず、かかりつけ医などの身近な医療機関に直接、電話相談し、医療機関を受診してください。診察をした医師によって、感染が疑われると判断された場合には、新型コロナウイルス感染症の検査を受けることができます。
 また、相談する医療機関に迷う場合には、「受診・相談センター」に電話して相談してください。地域によって相談機関の名称や受付方法が異なりますので、お住いの自治体の情報をご確認ください。
 症状への不安など、一般的な相談を行いたい方は、都道府県等が設置している電話相談窓口へご相談下さい。

過度の受診控えは要注意

 新型コロナウイルスの感染の懸念から、過度に受診を控えることは健康上のリスクを高めてしまう可能性があります。
 定期的に飲んでいる薬を切らすと、持病が悪化してしまう恐れがあります。慢性疾患の症状が悪化すると、新型コロナなどのウイルスに抵抗できない状態になることもあります。
 早期のがんなど自覚症状が現れにくい病気も少なくありません。定期的な健診やがん検診を受けることで、生活習慣病の予防やがんの早期発見・治療につなげることができます。赤ちゃんの予防接種は、接種のタイミングを遅らせると、免疫の獲得が遅れ、重い感染症になるリスクが高まります。
 かかりつけ医と相談しながら、自らの健康を管理していくことが、新型コロナウイルス対策として重要です。
 医療機関や健診会場は、換気や消毒により、感染予防対策を行っています。日本医師会では、自主的なガイドラインにより感染防止対策に取り組んでいる医療機関に「安心マーク」を発行していますので、参考にしてください。

新型コロナウイルスの検査法

 新型コロナウイルス感染症の検査としては、PCR検査、抗原定量検査、抗原定性検査等があり、いずれも体内にウイルスが存在し、ウイルスに感染しているかを調べるための検査です。
 新たな検査手法の開発により、鼻咽頭ぬぐい液だけでなく、唾液や鼻腔ぬぐい液を使うことも可能になっています。
 なお、抗体検査は、過去に新型コロナウイルス感染症にかかったことがあるかを調べるもので、検査を受ける時点で感染しているかを調べることはできません。

検査の対象者 PCR検査(LAMP法含む) 抗原検査(定量) 抗原検査(定性)
鼻咽頭 鼻腔 唾液 鼻咽頭 鼻腔 唾液 鼻咽頭 鼻腔 唾液
有症状者 発症から9日目以内 〇※1 〇※1 ×
発症から10日目以降 × × △※2 △※2 ×
無症状者 × × × × ×

※1 発症2日目から9日目以内に使用  ※2 陰性の場合は鼻咽頭PCR検査等を実施

新型コロナウイルス感染症の治療法

 軽症の場合は経過観察だけで自然に軽快することも多いのですが、必要な場合は解熱剤などで対症療法を行います。呼吸不全を伴う場合は、酸素投与やステロイド薬、抗ウイルス薬を投与し、改善しない場合は、人工呼吸器などによる集中治療を行うことがあります。治療法の確立により、新型コロナウイルス感染症で入院した人が死亡する割合は低くなっています。

感染状況の指標と対策

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、昨年8月、都道府県ごとの感染状況を判断するため、次の4段階のステージを定めています。

4段階の感染状況

ステージⅠ 感染者の散発的発生
ステージⅡ 感染者の漸増
ステージⅢ 感染者の急増 【対策】ガイドラインを遵守しない飲食店の休業要請、イベント開催の見直し
ステージⅣ 爆発的な感染拡大 【対策】緊急事態宣言など強制性のある対応の検討

 また、感染状況を判断するための指標として、①病床の逼迫具合②人口10万人当たりの療養者数③PCR検査の陽性率④人口10万人当たりの新規感染者数⑤感染経路不明割合―の5つをあげ、具体的な数値基準を示しています。このうち、病床の逼迫具合には、病床利用率、入院率、重傷者用病床の使用率の3つの項目があります。
 例えば、人口10万人当たりの新規感染者数が1週間で15人以上ならステージⅢ、25人以上ならステージⅣとしています。
 ステージごとの対応策も示しています。ステージⅢは感染対策の指針を守らずに酒類を提供する飲食店への休業要請やイベント開催の見直しが必要としています。ステージⅣは、「緊急事態宣言などを検討せざるを得ない」状況で、外出自粛や県境を越える移動自粛の要請、集会の人数制限などが必要としています。

感染状況を判断する5つの指標

ステージⅢの指標 ステージⅣの指標
病床の逼迫具合 病床使用率 20%以上 50%以上
入院率 40%以下 25%以下
重傷者用病床使用率 20%以上 50%以上
人口10万人当たりの療養者数 20人以上 30人以上
PCR陽性率 5%以上 10%以上
人口10万人当たりの新規感染者数 1週間で15人以上 1週間が25人以上
感染経路不明割合 50%以上

ワクチン

 政府は昨年の臨時国会で予防接種法を改正し、新型コロナウイルスのワクチン接種に向けて準備を進めてきました。2月14日に、米国ファイザーのRNAワクチン「コミナティ筋注」が国内初の新型コロナウイルスのワクチンとして承認され、医療従事者を対象に先行接種が始まりました。
 4月から65歳以上の高齢者を対象に接種が始まり、今後、基礎疾患を有する人、高齢者施設の従事者、一般の順で、接種が進められる予定です。
 ワクチン接種が進むことにより、感染者数が減少するとともに、感染しても重症化する人が少なくなることが期待されています。

全日本病院協会の取組み

 国内で新型コロナウイルスの感染症例が確認されて以来、全日病の会員病院は、治療方法や対処方法が明らかでない中で、未曾有の感染症に立ち向かってきました。
 急性期の病院は、経営面で大きなダメージを受ける中で、新型コロナ患者を受け入れ、治療に尽力してきました。また、新型コロナ患者に対応する病院をサポートする周辺の医療機関では、収入減が続く中で、新型コロナ以外の救急患者の受け入れや入院患者の転院受入れなど、地域の実情に応じた役割を果たしています。
 下図は、公立・公的等・民間別の新型コロナ患者受入可能医療機関及び受入実績の有無を示したものです。受入可能医療機関及び受入実績のいずれにおいても、民間病院は公立・公的等を上回り、新型コロナ患者の医療において大きな役割を担っています。
 この図で集計の基礎となっているのは、2018年度の病床機能報告制度において、高度急性期・急性期の機能を有すると報告した医療機関です。民間病院の多くは、急性期医療以外にも、回復期や慢性期など、多様な機能を担っているため、公立や公的等と比べてコロナ患者の受入病院の比率は低くなっています。

【引用文献等】

厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の“いま”についての10の知識(2021年3月時点)
厚生労働省 医療機関の新型コロナウイルス感染症患者の受入状況等について(補足資料)
内閣官房  新型コロナウイルス感染症対策ホームページ
内閣官房  新型コロナウイルス感染症対策分科会資料