医療費の仕組み

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医療費の仕組み

医療保険と医療費

 私たちは、病気やけがをしたときには病院や診療所などの医療機関や調剤薬局などで診察・投薬・治療その他必要な医療サービスを受けることができます。この場合にかかった費用が医療費です。私たちは、医療保険制度があることによって、患者として病気やけがをしたときにかかったこの医療費を、全額自分で負担しなくても済んでいます。私たちが患者として負担する医療費の割合は、原則的には、かかった医療費の3割となっています。ただし、義務教育就学前の子どもでは2割、70歳以上75歳未満の被保険者は所得に応じて2割または3割、75歳以上の後期高齢者医療制度の被保険者は所得に応じて1割または3割となっています。
 また、このように医療保険制度によって医療費の一部を負担するだけで済んでいるとはいっても、病気やけがなどの内容によっては自分で負担すべき医療費の額がかなり高額になってしまう場合もあります。そこで、医療費の自己負担分が過重なものとならないように、医療保険には、医療費の自己負担分に対して一定の上限を設ける高額療養費制度というしくみがあります。これは、医療機関や薬局での自己負担額が月単位で一定額を超えた場合に、その超えた金額を医療保険から支給するもので、その自己負担の上限額は年齢や所得によって異なっています。
 さらには、同じ世帯内で同じ医療保険に加入している人については、1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)にかかった医療保険と介護保険の自己負担額を合計し、一定の基準額を超えた場合に、その超えた金額を支給することで加入者の負担の軽減を図る高額医療・高額介護合算療養費制度というしくみが設けられています。

診療報酬制度

 医療保険制度の加入者である被保険者が患者として医療機関などで医療サービスを受けたときにかかった医療費は、医療機関の側にとっては、提供した医療サービスに対する対価となるものです。医療機関などは、この対価を診療報酬という形で支払いを受けることになります。診療報酬には、技術・サービスの評価と物の価格評価が含まれています。
 この診療報酬は、医療保険制度の加入者である被保険者と保険者から支払われることになります。医療機関などは、被保険者からは医療費の一部を患者負担額として直接支払いを受けますが、保険者からは、診療報酬の請求を審査支払機関に対して行うことによって診療報酬の支払いを受けることになります。
 診療報酬は、医療機関が行った診療行為などの医療サービスの対価として支払われるものであり、保険医療の範囲・内容を定める品目表としての性格を持つと同時に、個々の診療行為の価格を定める価格表としての性格も持っています。具体的には、診療報酬は、医療機関が実施した診療行為ごとにそれぞれの項目に応じた点数が加えられ、1点の単価は10円として計算されています。
 たとえば、胃がんで入院した場合、初診料、入院日数に応じた入院料、胃がんの手術料、検査料、薬剤料などが加算されて、医療機関は、その合計額から患者の一部負担金を差し引いた額を審査支払機関から受け取ることになります。保険者は、審査支払機関の審査済請求書に基づいて審査支払機関に対して医療費の請求金額を支払います。
 診療報酬は2年に1度、厚生労働大臣が厚生労働省に設置した中央社会保険医療協議会(中医協)において改定の必要性について審議された後に、諮問・答申を経て、厚生労働大臣が定めることになっています

医療費の種類

 医療費には、医科診療や歯科診療にかかった診療費、薬局調剤医療費、入院時食事・生活医療費、訪問看護医療費などがあります。医療費は、医療保険による給付、後期高齢者医療制度や公費負担医療制度による給付、そしてこれらに伴って医療機関などを受診した人が自己負担などによって支払った医療費を合計したものとなります。
 医療費は、制度区分別、財源別、診療種類別に見ることによって次のように整理できます。
 まず、医療費を制度の区分別に見てみると、①健康保険組合・全国健康保険協会(協会けんぽ)、国民健康保険、共済組合等その他の医療保険適用者に対する給付としての医療保険等給付分、②後期高齢者医療制度に対する給付としての後期高齢者医療給付分、③生活保護法の医療扶助や公害健康被害の補償などの給付としての公費負担医療給付分、そして④患者等が自己負担する患者等負担分に分けることができます。
 次に、医療費を財源の負担別に見てみると、①医療保険制度等の加入者である被保険者と事業主が負担すべき保険料、②国庫負担金と地方公共団体の負担金である公費、そして③医療機関などにかかった患者の自己負担額(公害健康被害などの原因者負担額も含む)に区分することができます。
 さらに、医療費を診療種類別に見ると、①医科診療にかかる診療費(医科診療医療費)、②歯科診療にかかる診療費(歯科診療医療費)、③処方箋により保険薬局を通じて支給される薬剤等の額(薬局調剤医療費)、④入院時食事療養費、食事療養標準負担額、入院時生活療養費および生活療養標準負担額の合計額(入院時食事・生活医療費)、⑤訪問看護療養費および基本利用料の合計額(訪問看護医療費)、そして⑥健康保険等の給付対象となる柔道整復師・はり師等による治療費、移送費、補装具等の費用(療養費等)に区分することができます

医療保険の各制度の財政状況

 医療保険の各制度の財政状況は、加入する被保険者の違いを反映して、それぞれの制度によって異なっています。
 まず、健康保険組合の場合には、加入者の平均年齢が他の医療保険制度と比べると比較的低いために1人あたりの医療費は相対的に低い一方で、加入者の平均所得が比較的高いために保険料収入は比較的安定しています。
 これに対して、国民健康保険の場合には、加入者の平均年齢が他の医療保険制度と比べると比較的高いために1人あたりの医療費は相対的に高くならざるを得ず、その反面で平均所得が比較的低いために保険料収入が相対的に不安定になっています。特に一般のサラリーマンなどの被用者は、退職すると健康保険組合や協会けんぽなどから国民健康保険に加入し、所得も現役のときよりは低くなっていることが多いため、国民健康保険自体は、財政的に厳しい状況となっているのが現実です。
 このように、比較的所得が高く医療費の低い現役世代の多くは健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入する一方で、退職して比較的所得が低く医療費の高い高齢者になると国民健康保険に加入するという構造的な問題が生じています。
 このため、高齢者医療を社会全体で支えるという観点から、75歳以上の後期高齢者については現役世代からの支援金と公費で約9割をまかなうとともに、65歳~74歳の前期高齢者については保険者間の財政調整を行うしくみが設けられています。また、他の医療保険制度と比べて相対的に財政基盤が脆弱な国民健康保険については、平成27(2015)年度から低所得者対策強化のため、保険料の軽減対象となる低所得者数に応じた自治体への財政支援の拡充が行われています。さらに、平成27(2015)年5月に成立・公布された法律「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律」に基づいて、平成30(2018)年度以降は、医療費の適正化などを進める保険者等に対し、さらに財政支援を行うこととされています。
 平成30(2018)年度からは、国民健康保険の財政運営の責任主体が市区町村から都道府県に変わることになり、都道府県が安定的な財政運営や効率的な事業の確保等の国民健康保険の運営に中心的な役割を担うことになっています。

国民医療費の現状

 平成27(2015)年度の国民医療費は42兆3,644億円で、前年度(平成26(2014)年度)の40兆8,071億円に比べて1兆5,573億円、3.8%の増加となっています。人口1人あたりの国民医療費は33万3,300円、前年度の32万1,100円に比べ1万2,200円、3.8%の増加となっています。国民医療費の国内総生産(GDP)に対する比率は7.96%(前年度7.88%)、国民所得(NI)に対する比率は10.91%(同10.79%)となっています。

<制度区分別国民医療費>

 国民医療費を制度区分別に見ると、公費負担医療給付分は3兆1,498億円(構成割合7.4%)、医療保険等給付分は19兆8,284億円(同46.8%)、後期高齢者医療給付分は14兆255億円(同33.1%)、患者等負担分は5兆2,042億円(同12.3%)となっています。また、対前年度増減率を見ると、公費負担医療給付分は3.6%の増加、医療保険等給付分は3.7%の増加、後期高齢者医療給付分は4.7%の増加、患者等負担分は2.7%の増加となっています。

<財源別国民医療費>

 国民医療費を財源別に見ると、公費は16兆4,715億円(構成割合38.9%)、そのうち国庫は10兆8,699億円(同25.7%)、地方は5兆6,016億円(同13.2%)となっています。そして保険料は、20兆6,746億円(同48.8%)、そのうち事業主は8兆7,299億円(同20.6%)、被保険者は11兆9,447億円(同28.2%)となっています。また、その他は5兆2,183億円(同12.3%)、そのうち患者負担は4兆9,161億円(同11.6%)となっています。

<診療種類別国民医療費>

 国民医療費を診療種類別に見ると、医科診療医療費は30兆461億円(構成割合70.9%)、そのうち入院医療費は15兆5,752億円(同36.8%)、入院外医療費は14兆4,709億円(同34.2%)となっています。また、歯科診療医療費は2兆8,294億円(同6.7%)、薬局調剤医療費は7兆9,831億円(同18.8%)、入院時食事・生活医療費は8,014億円(同1.9%)、訪問看護医療費は1,485億円(同0.4%)、療養費等は5,558億円(同1.3%)となっています。対前年度増減率を見ると、医科診療医療費は2.7%の増加、歯科診療医療費は1.4%の増加、薬局調剤医療費は9.6%の増加となっています。