2011年 05月 28日
インターネットの「春」再来? |
最近のインターネットIPOブームには、目を見張るものがあります。
5月19日にNYSEに上場した、プロフェッショナル・ネットワーキング・サイトのLinkedInの株価は、初値でIPO価格の$45を84%も上回る$83を付け、市場が閉まる4時までには、109%上昇して$94.25となって、時価総額は実に$8.9bn(約7200億円)に上りました。
LinkedInのIPOは、2004年のGoogleのIPO以来の大型案件として、ウォールストリートで注目を集めていました。その時価総額の大きさは、昨年の売上が$243m(約200億円)であったことと比較すると、実感できるのではないかと思います。今回はインターネットIPOブームと、その底流にある別のブームについて、少々書いてみたいと思います。

ご存知の通り、アメリカでは、これから更に、Facebook、Twitter、Grouponなども、上場を控えていると言われています。それらの中で一番最初に上場を果たしたLinkedInは、いわゆる「First Mover Advantage」を享受したという声が、金融メディアなどでは頻繁に聞かれます。(WSJの5月20日の記事「LinkedIn IPO Soars, Feeding Web Boom」など参照。以下同様)
そうした話や、売上に対する時価総額の比率(バリュエーション)だけを見ると、90年代後半のネットバブルの再来のように思えるかもしれません。
しかし、社名に「.com」や「e-」の文字さえついていれば、どんな企業でも破格のバリュエーションを享受できた当事と異なり、現在では業界内で相当な実績を上げ、また事業として成功している企業しか上場できなくなっていると言われています。その結果、少数の勝ち組上場銘柄に人気が集中している、という指摘もあるようです。
確かにLinkedInは、アメリカのプロフェッショナルの多くが、登録して利用している実感があります。ユーザー数は1億人を超えているそうで、Facebookの6億人と比べれば見劣りしますが、就職活動やネットワーキングという、ビジネス面に特化したSNSとしてLinkedInが最も成功している存在であることは間違いありません。そう考えると、今後、多くのビジネスチャンスが考えられ、そこに対する期待が高まっても、不思議ではないかもしれません。
そのFacebookは、昨年末に日本でも映画「ソーシャルネットワーク」が上映されるなどして、急速に人気を高めているようですが、IPO前のプライベートマーケットで、実に$70bn(5.7兆円)の価格がついています。これは、一年前のバリュエーションであった$35bnから比較しても倍の価格であり、Googleの時価総額$167bn(約13.5兆円)には及びませんが、Amazon.comの$88bn(約7.1兆円)に迫る規模です。
この「IPO前の・・・」という話が、最初に述べた「底流」の話なのですが、それは後で触れるとして、LinkedInの上場に話を戻すと、別の追い風もありました。それは、同社上場の前週に発表された、MicrosoftによるSkypeの買収です。
Microsoftが、ネット電話大手の同社に付けた値段は、$8.5bn(約6900億円)という額であり、同社創立以来、最大の買収案件となったそうです。コンピュータソフトの巨艦である同社が、ネットサービス業界の著名企業を買収する。この事も、インターネットの持つ価値を、再確認させる効果があったかもしれません。
新興国ネット企業の躍進
IPOに話を戻すと、前出のWSJの記事によると、2001年以来に上場したインターネット企業の初日の価格上昇率のトップは、以下のようになっているそうです。
Baidu.com 2005年8月4日 +354%
Youku.com 2010年12月7日 +161%
Qihoo 360 2011年3月29日 +134%
LinkedIn 2011年5月18日 +109%
お気づきかもしれませんが、このうち上位3位までは、中国のインターネット企業です。それぞれ、Baiduは「中国版Google」、Youkuは「中国版YouTube」、Qihooは「中国版インターネットセキュリティ」と言われる会社であり、そして今月(2011年5月)4日には、「中国版Facebook」と言われるRenRenも、アメリカのNYSEで上場を果たしました。

RenrenのIPO後の株価上昇率は、上記企業からは見劣りするものの、初値は日中に57%上昇、初日終値でも29%の上昇となりました。ニューヨークで開催されたRenRenのIPOロードショーに、参加する機会がありましたが、五番街にある高級ホテルSt. Regisの豪勢なレセプションフロアで開催された説明会は、部屋の後ろまで投資家で一杯で、壇上に上ったCEOが発する、期待と華やかさに溢れた言葉は、まさに90年代のテックバブルを彷彿させるものでした。
Renrenの昨年度の売上は、わずかに$77m(約62億円)で、営業利益は未だにマイナスです。そんな同社の初日の時価総額は、実に$7.4bn(約6000億円)に達しました。これは先に述べたFacebookの10分の1程度であるものの、アクティブユーザー数は1.2億人に達しています。中国のネット人口が5億人とも言われる中、期待が高まる理由が分からなくもない気がします。
この説明会に参加していた知人で、日本のインターネット業界を担当している投資家が、「成長ストーリーはMixiやCyber Agentとさほど変わらないのに、この人気度合いの違いは一体何なんだろう」とつぶやいていたのが、印象的でした。
同氏は、経営者の、ユーザーをマネタイズ(収益化)することへの積極性や、ストーリーを投資家に売り込む上手さが違いなのか、と分析していましたが、当然、日本と中国の差(潜在的成長性)も大きいと考えられます。2011年には、中国だけでも50社以上のインターネット関連IPOが出てくると言われており、「バブル」という言葉が多くの人の頭をよぎっても、不思議ではない気がします。
そして5月24日には、「ロシア版Google」と言われ、同国で市場シェアの64%を持つとされるYandexが、NASDAQに上場を果たしました。初日は日中に100%上昇した後、32%の上昇で引けたようですが、同社の時価総額は現時点で$11bn(約8900億円)となっています。同社の昨年の売上は125億ルーブル(約360億円)、営業利益は48億ルーブル(約140億円)であったそうです。
このように、インターネットIPOは、まさしく「春」と言える時代を迎えているように思います。その裏では、別の興味深いトレンドが進行しているようです。
プレIPO市場の拡大
ここ数年、ウォールストリート(や香港のセントラル)では、いわゆる「プレIPO市場」が、ちょっとしたブームになっているようです。
「プレIPO市場」は、広義にはベンチャー投資と言えるかもしれませんが、より具体的には、立ち上げ資金を出すエンジェル投資から始まり、ベンチャーキャピタルファンドやプライベートエクイティファンド、戦略投資家からの、何ラウンドにも渡る出資段階を経て、IPO直前に、成長資金確保やバリュエーションの確認を促す、プレIPOプレースメントまで、色々な段階があります。
ベンチャーキャピタルファンドとしては、1972年創業で、Apple、Oracle、Googleなどをシードしたことで知られるSequoia Capitalが有名です。シリコンバレーの中心地Menlo Parkの、VCが集中するSand Hill Roadに本拠を構える同社は、LinkedInの投資家でもあります。前出のWSJによると、2003年に$4.7m(約4億円)を投資した結果、現在LinkedInの17.8%(上場直後の時価総額で計算すると$1.6bn、約1300億円)を保有しているそうです。

MicrosoftによるSkypeの買収についても、テクノロジー業界に特化したプライベートエクイティファンドであるSilver Lake Partnersは、過去に$1bnを投じてSkypeの39%を獲得しており、今回の企業売却によって、3倍近い利益を得ることになったようです。WSJの5月11日の記事「Skype Investors Will Reap a Windfall(スカイプの投資家、棚ぼたを得る)」の中で、Silver LakeのEgon Durban氏は、「他の誰も投資をしていない時に、我々には同社に投資を実行するだけの、勇気と確信があった」と述べていました。
これらの先見性を求められるベンチャー投資に加えて、よりIPOに近いステージでのプライベートオファリングに参加する投資家の大半は、投資銀行やヘッジファンドであるようです。
Facebookについては、Goldman Sachsが2011年1月に、私募のファンド$1.5bn(約1200億円)を集めて同社に投資するという話が、大きな注目を集めました。また、中国のネットIPOについては、多くの米系ヘッジファンドが、プレIPOオファリングに参加して、大きな利益を得ていると言われています。
ちなみに日本からも、ソフトバンクが上記RenRenにプレIPOで合計300億円程度の投資をし、IPO前で40%、IPO後で34.4%という、大きなステークを保有しています。孫正義氏の先見性は、米Yahooへの投資の頃から始まって、中国のEコマース大手Alibabaグループの多くを所有するなど、今更言うまでもない気がします。

しかし、プレIPO投資が、一部の投資家だけに開かれた「クラブディール」であるのであれば、一般投資家としては残念な話です。その点について、Tech Crunchに掲載された、Clearstone Venture PartnersのWilliam Quigleyマネージングディレクターの話は、なかなか興味深いものでした。
2011年5月8日のその記事「The Next 10 Years Will Be Great For Both Founders And VCs(今後10年は創業者とVCの黄金時代)」によると、著名なインターネット企業の企業価値の上昇の、ほとんどの部分、それこそ99%が、上場後に起こっているそうです。
例えばAmazon.comの1997年の上場時点の時価総額は$440m(約350億円)であったそうで、現在の$88bn(約7.1兆円)に至るまでに、年利にして実に46%も上昇しています。よってQuigley氏は、わざわざアーリーステージ投資のリスクを取らずとも、上場時点で株価を購入しておけば、そのビジネスがAmazonやeBayのように成長し続ける限り、一般投資家でも大きな利益を得ることが出来ると、その記事の中で述べていました。
しかし、当然この話にはオチがあります。それは、Quigley氏によると、これからの時代は創業者やベンチャーキャピタリストにとっての「本当の黄金時代」である、つまり、一般投資家の黄金時代は終わった、というものです。その理由は、上場前に大きな価値創造が出来る環境が整ってきたため、だそうです。
その最初のカタリストとなったのがGoogleであり、同社のIPO時点での時価総額は、AmazonやeBay、Microsoftと比べ物にならない、$40bn(3.2兆円)という巨大なものでした。それでもQuigley氏は、当初GoogleのIPOをバブルだと判断した人は、6年後の2010年に、同社が$12bn(約9700億円)もの営業利益を稼ぎ出す潜在性を秘めていたことを見逃していた、と記事の中で述べています。
実際、Amazon.comのIPOバリュエーションは、翌年売上の1倍以下であったそうで、$650m(約530億円)のeBayのIPO時価総額は、翌年売上のたった3倍弱であったそうです。更に驚きなのは、1986年上場のMicrosoftのIPO時価総額は、Windowsが既にPCのOSとして事実上のスタンダードになっていたにもかかわらず、たった$640m(約520億円)で、バリュエーションは売上の約3倍であったそうです。
仮に、創業者やベンチャーキャピタルファンドが、このようなバリュエーションで、Amazon、eBay、Microsoft株を、IPOと同時に売却していたとしたら、失われた機会価値は計り知れません。これは、ベンチャーキャピタリストとしては、忸怩たる思いであろうと想像します。
しかし、先述の通り、Quigley氏はそのような状況は大きく変化したと述べています。そして、そして同氏は、Google以降のネット企業が、上場前までに大きな価値創造が出来るようになった理由について、3点挙げて説明しています。
一つ目はインターネットの大幅な普及であり、AmazonやeBayが上場した時点と現在では、インターネットビジネスの持つ潜在性に対する理解度が、大きくことなるという点です。そして、先に三つ目を挙げると、世界市場を席巻できるスピードが、経済のグローバル化の進展や途上国市場の急拡大により、以前と比べて遥かに速くなっているという点です。
これら二点によって、投資家にとってインターネット企業が将来的にどのような利益を生み出す可能性を秘めているかを見極めることは、大幅にたやすくなったと同氏は指摘しています。しかし、最も興味深い(少なくとも当ブログにとって)のは、二つ目に挙げられていた、2000年以降のヘッジファンド業界の成長、という指摘です。
Quigley氏によると、2000年代に入って大幅に投資残高を伸ばしたヘッジファンド業界は、多くのファンドがテクノロジーなど専門分野に特化していることから、インターネット企業の持つ潜在的価値についての理解がより深く、プレIPOやIPO時点で「正しいバリュエーション」を企業につけることが出来るようになったそうです。(以下グラフの単位は10億米ドル)

そして、かつてIPO前の価値創造の割合が、最終企業価値の1%程度であったのが、IPO時価総額(バリュエーション)の「正当な」大幅上昇により、2004年上場のGoogleでは25%程度、2006年に$12bn(約9700億円)で上場を果たしたVMWareの場合には3割程度まで上昇したそうです。そして同氏は、今後上場が見込まれるFacebookなどでは、その数値は50~75%にまで上昇するだろうと分析していました。
この記事は、最後に同氏が「過去10年の投資リターン低迷を受けて、最近ベンチャーキャピタルファンドから投資を引き上げた投資家は、この大きな変化を見落としている」という言葉に現されているように、投資宣伝の効果を狙ったものである面が否めません。しかしIPO時点での時価総額の拡大は事実であり、注目に値する考え方なのでは、という気がしました。
ともかく、これから2年程度の間は、インターネット企業の大型IPO案件から、目が離せなそうです。多くの企業が市場に出てくるということは、中には事業がしっかりしていないものや、収益性が見込めないものも、多く含まれている可能性があります。また、それらにつられて既存企業のバリュエーションが拡大したり縮小したりする可能性もあり、興味深い展開になりそうです。
5月19日にNYSEに上場した、プロフェッショナル・ネットワーキング・サイトのLinkedInの株価は、初値でIPO価格の$45を84%も上回る$83を付け、市場が閉まる4時までには、109%上昇して$94.25となって、時価総額は実に$8.9bn(約7200億円)に上りました。
LinkedInのIPOは、2004年のGoogleのIPO以来の大型案件として、ウォールストリートで注目を集めていました。その時価総額の大きさは、昨年の売上が$243m(約200億円)であったことと比較すると、実感できるのではないかと思います。今回はインターネットIPOブームと、その底流にある別のブームについて、少々書いてみたいと思います。

ご存知の通り、アメリカでは、これから更に、Facebook、Twitter、Grouponなども、上場を控えていると言われています。それらの中で一番最初に上場を果たしたLinkedInは、いわゆる「First Mover Advantage」を享受したという声が、金融メディアなどでは頻繁に聞かれます。(WSJの5月20日の記事「LinkedIn IPO Soars, Feeding Web Boom」など参照。以下同様)
そうした話や、売上に対する時価総額の比率(バリュエーション)だけを見ると、90年代後半のネットバブルの再来のように思えるかもしれません。
しかし、社名に「.com」や「e-」の文字さえついていれば、どんな企業でも破格のバリュエーションを享受できた当事と異なり、現在では業界内で相当な実績を上げ、また事業として成功している企業しか上場できなくなっていると言われています。その結果、少数の勝ち組上場銘柄に人気が集中している、という指摘もあるようです。
確かにLinkedInは、アメリカのプロフェッショナルの多くが、登録して利用している実感があります。ユーザー数は1億人を超えているそうで、Facebookの6億人と比べれば見劣りしますが、就職活動やネットワーキングという、ビジネス面に特化したSNSとしてLinkedInが最も成功している存在であることは間違いありません。そう考えると、今後、多くのビジネスチャンスが考えられ、そこに対する期待が高まっても、不思議ではないかもしれません。
そのFacebookは、昨年末に日本でも映画「ソーシャルネットワーク」が上映されるなどして、急速に人気を高めているようですが、IPO前のプライベートマーケットで、実に$70bn(5.7兆円)の価格がついています。これは、一年前のバリュエーションであった$35bnから比較しても倍の価格であり、Googleの時価総額$167bn(約13.5兆円)には及びませんが、Amazon.comの$88bn(約7.1兆円)に迫る規模です。
この「IPO前の・・・」という話が、最初に述べた「底流」の話なのですが、それは後で触れるとして、LinkedInの上場に話を戻すと、別の追い風もありました。それは、同社上場の前週に発表された、MicrosoftによるSkypeの買収です。
Microsoftが、ネット電話大手の同社に付けた値段は、$8.5bn(約6900億円)という額であり、同社創立以来、最大の買収案件となったそうです。コンピュータソフトの巨艦である同社が、ネットサービス業界の著名企業を買収する。この事も、インターネットの持つ価値を、再確認させる効果があったかもしれません。
新興国ネット企業の躍進
IPOに話を戻すと、前出のWSJの記事によると、2001年以来に上場したインターネット企業の初日の価格上昇率のトップは、以下のようになっているそうです。
Baidu.com 2005年8月4日 +354%
Youku.com 2010年12月7日 +161%
Qihoo 360 2011年3月29日 +134%
LinkedIn 2011年5月18日 +109%
お気づきかもしれませんが、このうち上位3位までは、中国のインターネット企業です。それぞれ、Baiduは「中国版Google」、Youkuは「中国版YouTube」、Qihooは「中国版インターネットセキュリティ」と言われる会社であり、そして今月(2011年5月)4日には、「中国版Facebook」と言われるRenRenも、アメリカのNYSEで上場を果たしました。

RenrenのIPO後の株価上昇率は、上記企業からは見劣りするものの、初値は日中に57%上昇、初日終値でも29%の上昇となりました。ニューヨークで開催されたRenRenのIPOロードショーに、参加する機会がありましたが、五番街にある高級ホテルSt. Regisの豪勢なレセプションフロアで開催された説明会は、部屋の後ろまで投資家で一杯で、壇上に上ったCEOが発する、期待と華やかさに溢れた言葉は、まさに90年代のテックバブルを彷彿させるものでした。
Renrenの昨年度の売上は、わずかに$77m(約62億円)で、営業利益は未だにマイナスです。そんな同社の初日の時価総額は、実に$7.4bn(約6000億円)に達しました。これは先に述べたFacebookの10分の1程度であるものの、アクティブユーザー数は1.2億人に達しています。中国のネット人口が5億人とも言われる中、期待が高まる理由が分からなくもない気がします。
この説明会に参加していた知人で、日本のインターネット業界を担当している投資家が、「成長ストーリーはMixiやCyber Agentとさほど変わらないのに、この人気度合いの違いは一体何なんだろう」とつぶやいていたのが、印象的でした。
同氏は、経営者の、ユーザーをマネタイズ(収益化)することへの積極性や、ストーリーを投資家に売り込む上手さが違いなのか、と分析していましたが、当然、日本と中国の差(潜在的成長性)も大きいと考えられます。2011年には、中国だけでも50社以上のインターネット関連IPOが出てくると言われており、「バブル」という言葉が多くの人の頭をよぎっても、不思議ではない気がします。
そして5月24日には、「ロシア版Google」と言われ、同国で市場シェアの64%を持つとされるYandexが、NASDAQに上場を果たしました。初日は日中に100%上昇した後、32%の上昇で引けたようですが、同社の時価総額は現時点で$11bn(約8900億円)となっています。同社の昨年の売上は125億ルーブル(約360億円)、営業利益は48億ルーブル(約140億円)であったそうです。
このように、インターネットIPOは、まさしく「春」と言える時代を迎えているように思います。その裏では、別の興味深いトレンドが進行しているようです。
プレIPO市場の拡大
ここ数年、ウォールストリート(や香港のセントラル)では、いわゆる「プレIPO市場」が、ちょっとしたブームになっているようです。
「プレIPO市場」は、広義にはベンチャー投資と言えるかもしれませんが、より具体的には、立ち上げ資金を出すエンジェル投資から始まり、ベンチャーキャピタルファンドやプライベートエクイティファンド、戦略投資家からの、何ラウンドにも渡る出資段階を経て、IPO直前に、成長資金確保やバリュエーションの確認を促す、プレIPOプレースメントまで、色々な段階があります。
ベンチャーキャピタルファンドとしては、1972年創業で、Apple、Oracle、Googleなどをシードしたことで知られるSequoia Capitalが有名です。シリコンバレーの中心地Menlo Parkの、VCが集中するSand Hill Roadに本拠を構える同社は、LinkedInの投資家でもあります。前出のWSJによると、2003年に$4.7m(約4億円)を投資した結果、現在LinkedInの17.8%(上場直後の時価総額で計算すると$1.6bn、約1300億円)を保有しているそうです。

MicrosoftによるSkypeの買収についても、テクノロジー業界に特化したプライベートエクイティファンドであるSilver Lake Partnersは、過去に$1bnを投じてSkypeの39%を獲得しており、今回の企業売却によって、3倍近い利益を得ることになったようです。WSJの5月11日の記事「Skype Investors Will Reap a Windfall(スカイプの投資家、棚ぼたを得る)」の中で、Silver LakeのEgon Durban氏は、「他の誰も投資をしていない時に、我々には同社に投資を実行するだけの、勇気と確信があった」と述べていました。
これらの先見性を求められるベンチャー投資に加えて、よりIPOに近いステージでのプライベートオファリングに参加する投資家の大半は、投資銀行やヘッジファンドであるようです。
Facebookについては、Goldman Sachsが2011年1月に、私募のファンド$1.5bn(約1200億円)を集めて同社に投資するという話が、大きな注目を集めました。また、中国のネットIPOについては、多くの米系ヘッジファンドが、プレIPOオファリングに参加して、大きな利益を得ていると言われています。
ちなみに日本からも、ソフトバンクが上記RenRenにプレIPOで合計300億円程度の投資をし、IPO前で40%、IPO後で34.4%という、大きなステークを保有しています。孫正義氏の先見性は、米Yahooへの投資の頃から始まって、中国のEコマース大手Alibabaグループの多くを所有するなど、今更言うまでもない気がします。

しかし、プレIPO投資が、一部の投資家だけに開かれた「クラブディール」であるのであれば、一般投資家としては残念な話です。その点について、Tech Crunchに掲載された、Clearstone Venture PartnersのWilliam Quigleyマネージングディレクターの話は、なかなか興味深いものでした。
2011年5月8日のその記事「The Next 10 Years Will Be Great For Both Founders And VCs(今後10年は創業者とVCの黄金時代)」によると、著名なインターネット企業の企業価値の上昇の、ほとんどの部分、それこそ99%が、上場後に起こっているそうです。
例えばAmazon.comの1997年の上場時点の時価総額は$440m(約350億円)であったそうで、現在の$88bn(約7.1兆円)に至るまでに、年利にして実に46%も上昇しています。よってQuigley氏は、わざわざアーリーステージ投資のリスクを取らずとも、上場時点で株価を購入しておけば、そのビジネスがAmazonやeBayのように成長し続ける限り、一般投資家でも大きな利益を得ることが出来ると、その記事の中で述べていました。
しかし、当然この話にはオチがあります。それは、Quigley氏によると、これからの時代は創業者やベンチャーキャピタリストにとっての「本当の黄金時代」である、つまり、一般投資家の黄金時代は終わった、というものです。その理由は、上場前に大きな価値創造が出来る環境が整ってきたため、だそうです。
その最初のカタリストとなったのがGoogleであり、同社のIPO時点での時価総額は、AmazonやeBay、Microsoftと比べ物にならない、$40bn(3.2兆円)という巨大なものでした。それでもQuigley氏は、当初GoogleのIPOをバブルだと判断した人は、6年後の2010年に、同社が$12bn(約9700億円)もの営業利益を稼ぎ出す潜在性を秘めていたことを見逃していた、と記事の中で述べています。
実際、Amazon.comのIPOバリュエーションは、翌年売上の1倍以下であったそうで、$650m(約530億円)のeBayのIPO時価総額は、翌年売上のたった3倍弱であったそうです。更に驚きなのは、1986年上場のMicrosoftのIPO時価総額は、Windowsが既にPCのOSとして事実上のスタンダードになっていたにもかかわらず、たった$640m(約520億円)で、バリュエーションは売上の約3倍であったそうです。
仮に、創業者やベンチャーキャピタルファンドが、このようなバリュエーションで、Amazon、eBay、Microsoft株を、IPOと同時に売却していたとしたら、失われた機会価値は計り知れません。これは、ベンチャーキャピタリストとしては、忸怩たる思いであろうと想像します。
しかし、先述の通り、Quigley氏はそのような状況は大きく変化したと述べています。そして、そして同氏は、Google以降のネット企業が、上場前までに大きな価値創造が出来るようになった理由について、3点挙げて説明しています。
一つ目はインターネットの大幅な普及であり、AmazonやeBayが上場した時点と現在では、インターネットビジネスの持つ潜在性に対する理解度が、大きくことなるという点です。そして、先に三つ目を挙げると、世界市場を席巻できるスピードが、経済のグローバル化の進展や途上国市場の急拡大により、以前と比べて遥かに速くなっているという点です。
これら二点によって、投資家にとってインターネット企業が将来的にどのような利益を生み出す可能性を秘めているかを見極めることは、大幅にたやすくなったと同氏は指摘しています。しかし、最も興味深い(少なくとも当ブログにとって)のは、二つ目に挙げられていた、2000年以降のヘッジファンド業界の成長、という指摘です。
Quigley氏によると、2000年代に入って大幅に投資残高を伸ばしたヘッジファンド業界は、多くのファンドがテクノロジーなど専門分野に特化していることから、インターネット企業の持つ潜在的価値についての理解がより深く、プレIPOやIPO時点で「正しいバリュエーション」を企業につけることが出来るようになったそうです。(以下グラフの単位は10億米ドル)

そして、かつてIPO前の価値創造の割合が、最終企業価値の1%程度であったのが、IPO時価総額(バリュエーション)の「正当な」大幅上昇により、2004年上場のGoogleでは25%程度、2006年に$12bn(約9700億円)で上場を果たしたVMWareの場合には3割程度まで上昇したそうです。そして同氏は、今後上場が見込まれるFacebookなどでは、その数値は50~75%にまで上昇するだろうと分析していました。
この記事は、最後に同氏が「過去10年の投資リターン低迷を受けて、最近ベンチャーキャピタルファンドから投資を引き上げた投資家は、この大きな変化を見落としている」という言葉に現されているように、投資宣伝の効果を狙ったものである面が否めません。しかしIPO時点での時価総額の拡大は事実であり、注目に値する考え方なのでは、という気がしました。
ともかく、これから2年程度の間は、インターネット企業の大型IPO案件から、目が離せなそうです。多くの企業が市場に出てくるということは、中には事業がしっかりしていないものや、収益性が見込めないものも、多く含まれている可能性があります。また、それらにつられて既存企業のバリュエーションが拡大したり縮小したりする可能性もあり、興味深い展開になりそうです。
by harry_g
| 2011-05-28 11:51
| 世界経済・市場トレンド