昔話 ダムに抗うウサギの里~その1~
- 2024/11/24
- 20:01
むかし、まだ選挙で議員や市長を選んでいたころのお話です。
ある村里にダムを造り水道水を確保しようという話が降ってきました。村里は水没するというのです。この頃、ダムなどの巨大事業は夕立のように突然に降ってくるのでした。しかも不思議なことに住民は誰ひとりあずかり知らないところで物事は決められていました。
なにしろ、あの気候変動パニックで国家が消滅する60年も前のことでしたから、まだ国単位で政治がおこなわれていました。
大きなことは国が決めて地方はそれに従っていた時代です。ダム計画などは夕立のように降ってくるのでした。
「さあ、あそんでおいで」
村里の少女はウサギのエチカを放してやりました。ダムを造るという小さな川のほとりです。そこにダムの測量をするという男たちがやってきて、
「帰れ、帰れ」と叫ぶ村里の住民とのあいだで揉みあいになりました。住民の大声にひるんだ測量隊は帰っていきましたが、帰りぎわにひとりの男がウサギのエチカを蹴りました。
まっ赤にみひらいたままの眼を閉じてやると、少女はエチカをカシの木の下に埋めました。そしてカシの幹に白い布をくるくると巻いて蝶結びにすると、
ひざまずいて誓いました。
「エチカ、これからここにいろんなものが降ってくるよ。稲妻、木の葉、小鳥さんの羽、星のかけら、それにちぎれた明日とか・・
でも安心して、ダムはつくらせないからね」
村里の人びとは市長に面会を求め、ダム計画の中止を訴えました。市長は県の決めた事だからと腰を浮かせます。知事に面会を求めると国が決めたことだからと、会ってもくれませんでした。町の水道需要が増えるという話も根拠がありませんでした。少女は首をかしげます。
「どうして、そんなにダムを造りたがるの?」
(ac-illust.comより拝借)
この選挙の時代、みんなが大事にしていたことが2つありました。自由と平等です。お金を稼ぐ自由、そして稼ぐチャンスは誰にも平等にあるというルールです。このルールに基づいて、いろいろな決まり事を中央のお役人が作りましたが、国の大きな事業計画(ダムなど)を考えるのもお役人でした。
お役人と政治家はしばしば手を結びました。 “利権”です。
国が消滅して地域ごとに住民がものごとを決める現在では、議員のほとんどがくじ引きで選ばれますから“利権”など生まれません。しかし、この時代の選挙は“利権”を生みました。
選挙で選ばれた人は、次の選挙(4年後の)でも選ばれたいと思います。そのためには次の選挙で票を集めてくれる人(例えば建設業者)に喜ばれることが大切でした。
新駅をつくります。
海をわたる橋を!
街の再開発を!
お祭りです、オリンピックを招致します。
港でカジノを開きます。
ひそかに、ダムを造りますなどとも囁きます。
お役人はそんな政治家の提案と手を結びました。それは政治家の後ろにいる業者とも手を結ぶことでした。お役人はそんな業者のところへ定年後に天下りができるからです。
そんなわけで、10年20年先にとって大切な温暖化対策などは、いつも先送りされました。
少女はウサギのエチカと夢で会いました。
「わたしは象の星にいます」
「まあ、すてきね。その星はどんな匂いがするの?」
「トゲトゲが匂いますよ」
「なんか痛そうね」
「象の背中に咲く花がトゲトゲです。うっとりする香りがします」
「あっ、ほんと。いい匂い」
「象の背中ってフワフワでしょう」
「うん、フワフワでふかふかだね」
象の背中は花園、そんな夢をみた少女はウサギを2匹飼いました。耳がピンと立ったウサギと耳が折れているウサギです。まもなくウサギは7匹の赤ちゃんを産みました。
少女は9匹のウサギを育てると、
「そうだ、ここをウサギたちとあそべる農園にしましよう」と、農園の名前を「ウサギ天国」と名付けました。
<ウサギ飛ぶ里であそぼうさみしい子 天国ってね ここにあるのよ>
こんな短歌を添えてSNSに投稿しますと、近くの里の子どもたちがやってくるようになります。
新聞に「ダムにあらがうウサギの里」という見出しで小さな記事が掲載されると、おとなも尋ねてくるようになり、少女にならってウサギを飼う家も増えました。
(EduTown HPより借用)
次の年、選挙で知事が代わりましたがダム計画は続行され、また測量隊がやってきました。村里の人びとが追い返すと、
ある朝、機動隊を引き連れてやってきて強引に測量をはじめました。機動隊ともみ合いになり怒号が飛び交います。
緊張したウサギたちはキイと低い声をあげ足をダンダン踏み鳴らしました。
「こんな国とは、おさらばしたいよなぁ」
村里の80所帯の人びとは毎晩のように集まり、とことん話し合いました。少女には難しい言葉も飛び交います。カイホウク、チイキジチ・・少女は「ようするに独立するってことよね」と受け止めました。
村里の自主評議会をつくろうということになり、さて、議員をどう選ぼうかと何日も話し合いが続きます。川下のお婆さんの「むかし、講の世話役はね、くじ引きで決めたんだよ」という話がきっかけとなり、
くじ引きで決めることにしました。
14歳以上から選ばれた15人は、男7人女8人、年齢は10代から80代までとほぼ村里の人口構成に比例していました。毎年議員の7人を入れ替えることにして、何か決める時は全員一致であることとしました。
そのため、何を決めるのにも時間がかかり、決まらないことも沢山あります。評議会の代表者などついぞ決まったことがないそうです。
すぐに決まったのは<立木トラスト>でした。村里の村有林を支援者に一本ずつ買い取ってもらい、ダム建設を阻止しようという委託運動です。500本ほどの立ち木は次々に売れます。エチカの墓の廻りの立ち木も、持ち主の名前を書いた赤や青のテープが巻かれてカラフルになりました。(立ち木は民法で不動産、所有権を譲渡できます。村里は一本800円で譲渡したそうです)
「そうだウサギたち、里親がいるといいよね」
少女はウサギの里親を募集。全国から里親の申し出があり、ウサギたちはそれぞれに名前がつきました。
そんな2年後、
自主評議会は村里の基本的人権ともいえる、住民が持つ<3つの権利>を決めました。少女にも分かりやすい権利でした。この3つ権利が評判になり村里の支援者が急増したそうです。
(以下は次回に続きます)
2024・11・24記 文責 山本喜浩