2009-12-30(Wed)
WHITE ALBUM #26 僕達は一緒に座っている、一晩中、動くこともなく
ビーナス音楽祭本番。
空白の記憶も蘇っての最終回です。
理奈の復活も間に合わぬままついに開幕したビーナス音楽祭、ピアノへ向かって歩み寄る由綺の描写で引いた前回から、今回はピアノの前で演奏を始めることもなく佇む由綺の姿へ。時系列の前後を意識させるように挿入される様々なカットが続き、この時点でナニゲに見ているだけの視聴者は置いてけぼりになってしまうでしょうね。というわけで最終回の冒頭は夕方と夜の二元中継で展開が進みます。
ピアノの前で動きを見せない由綺をステージ袖から心配そうに見守る弥生さん。彼女はヘッドホンをかけて練習に打ち込んでいた由綺を思い出しています。エレピに向かって練習を続ける由綺を後から見て「何を練習しているのか」に気付き、おそらく由綺がこのステージに何を求めているのかも気付いていたのでしょう。このアバンはシャッター前に座り込む影武者ちゃんへの「聞かせてよ!」からの見せ方が素晴らしかった。冒頭っからさぶいぼ立ちまくりです。
Aパートはシーン変わって入院中の理奈の病室。夕暮れの窓に向かって自己否定を続ける冬弥へ声を出せない理奈が必死に訴えかけようとしています。筆談の紙に殴り書いては破き…「女神たちが悲しくなる理由」を叫びたいけれど声に出せず、背中を向ける冬弥には届きません。あちらへふらふらこちらへふらふら「女神思想」の名の下に女性へいい顔をし続けた冬弥は、決して浮気性ではなく本心から「女神へのお礼」をしていたのですね。しかし冬弥がお礼=好意を向けることによって女神はみんな不幸に、悲しくなってしまう、だから「自分は人を愛してはいけない」と結論付けた。
そんな話を聞いた背後の理奈、つまり「女神」に位置付けられた者はそう感じていませんでした。女神たちが悲しくなるのはみんな冬弥を愛しているから。しかしどれほど愛しても「冬弥は本心から振り向いてはくれない」ことをみな感じていたのでしょう。冬弥の心の中には絶対的な誰かが存在し、自分はその身代わりとして好意を向けられているだけと。だからみな悲しんだ。
涙を落とし拳をギュっと握り締めた理奈はついに思いの丈を叫びます。服毒のショックで声を出せなかった理奈を動かした衝動、理奈の本気度を十二分に描いたこのカットは奈々さんの熱演もあって心に響きました。
長い沈黙の後、由綺はビーナスのステージにてピアノ演奏をスタート。しかし延々とイントロを弾くばかりで歌へ進みません。それがエントリー曲の「恋色空」ではないことに気付いた中継スタッフ、頭を抱えるディレクターの慌てようにも目をくれず、由綺は1音1音を愛おしむように、まるで何かを待っているかのようにイントロを弾き続けます。するとギターの音がピアノに重なり…由綺の思いはバンドメンバーにも通じたのでしょうか、演奏中断を逃れて弥生さんもホッと一息の様子。絶妙なカット割りで弥生さんの心境まで描写する芸の細かさは凄い。
そして理奈との日々を回想しながら由綺は歌い始めます。この歌い始めの演出も見事でした。理奈との共演を夢見て、同じステージに立つことを目標に走ってきた日々、由綺はその思いを乗せた歌を一人で歌い続け…曲がBメロに差し掛かると突然理奈の歌声がステージに響いての登場、なんとドラマチックな共演のスタートでしょう。
その立役者はもちろん冬弥でした。声を取り戻した理奈を特急で送り届けた冬弥は息を切らしていますね。ちなみに理奈の登場シーンを「理奈がテレポートwww」と勘違いしている気の毒な人が結構いるようですが…理奈が声を取り戻したのは夕陽の射す病室、そしてこのステージはすっかり日が落ちた夜なので理奈の会場入りは何の不自然さもありません。冒頭から時系列の移動を何度も見せているのはこの演出のためであることに気付いていただきたい。
由綺へ「私、ずっとフェアだったよ」と語りかける理奈の清々しい表情、その言葉を受けて振り返った由綺も「知ってる」とこれまた清々しい表情を見せます。やはり由綺はずっと信じていた。思えば19話にて由綺が取り乱した時も理奈は正直に話していましたし、心細さから冬弥に縋っても卑怯な手を使うことはありませんでした。
「ごめんね英ちゃん」
「貸しにしときます」
早々に釈放された英二を待ち構えるマスコミ。手下のやらかした騒動の証言に現れたのでしょうか、マスコミの列を割って登場の神崎とすれ違い様に交わす一瞬の会話は二人の完全和解を感じさせます。腹をくくって非を認める神崎、それをクールに返す英二が格好良すぎ。
ステージ袖から抜け出した弥生さんは警察署へ。釈放騒動の波が引いた警察署前のガランとした様子は時間経過を感じさせ、刑事から渡されたミニのキーから置き手紙、そして飛び立つ飛行機影は英二が海外へ飛び立つことを想像させます。
「成田空港より生中継」「緒方英二氏の目的は?」とテロップが入ったTV中継の画面、これが出国なのか帰国なのかわかりませんが、どちらにしてもビーナスの日以降の後日談でしょう。その画面からパンして映るストリートミュージシャンを囲む人々、もちろんその中心は影武者ちゃんであり、映っている客の顔ぶれからしてこれは冒頭から何度か入った影武者ちゃんの様子。つまりこの映像は英二が空港にいる日、ビーナスとは別の日ということになります。ほんと凝った見せ方、普通だったら時系列に沿った電車道編集でしょうに。
めのうの仮面を脱ぎ捨て、自分の顔で自分の歌を歌い始めた影武者ちゃん。その姿を遠くから見守り、独り立ちに祝福の涙を落とすめのうの優しさ。影武者ちゃんに対して始終素っ気なかっためのうでしたが本心は案じていた、これでめのうも思い残すこと無く普通の生活に戻れそう。
さてステージの由綺&理奈を袖から見ていた冬弥はついに封印された記憶を蘇らせます。前回見せた10年前のめのうとの会話、その直前に交わされためのうのセリフが重大な意味を持っていました。
「みんな忘れちゃうのよ。いじめっ子のことも、虫みたいにくっ付いているあの嫌な女の子のことも」
「そう、あの子、影でいつも君のこと見てて笑ってる」
「あの子」とはもちろん由綺のこと。由綺に対し悪意満々のめのう…両親の離婚で別れ別れになったマナをたまに見に来ていためのうは、マナが慕う由綺に嫉妬を感じていた? 冬弥の前に突然現れためのうお姉さん、女神思想の発端となった彼女の言葉は強い影響力を持ち、その言葉どおり由綺のことを忘れてしまった。
ステージの目映い光に重なるように蘇る記憶の中で光を放つ何か。これこそが冬弥と由綺の隠された過去を紐解くキーアイテムでした。
緑色のロングヘアーの女の子ははるか…今よりも女の子っぽい?(笑。とはいえお転婆のはるかは同い年の冬弥より体力も元気もあるようで、その対比は幼い冬弥の弱々しさを強調しています。
野山を駆け回る冬弥&はるかを追ってくる幼い由綺、すると場面はいじめっ子に囲まれるはるかに変わり…気の小さい冬弥は体の大きいいじめっ子たちを前に身動きできず固まってしまい、しかし彼より小さい由綺は勇ましくも立ち向かっていく。そんな由綺を見ながら固まったままの冬弥は失禁し、泣きながら汚れた両手を差し出していじめっ子を撃退。これが父親曰く「冬弥なりの戦い方」なのですね。力が無い者は無いなりの戦い方がある、そんな冬弥を遠くから見守る父ちゃんの図は以前見せたとおりで、そのとき傍らの由綺は逃げ出したように映されましたが…なるほど冬弥をほめるため、例のメダルを用意しに戻ったのでしょう。
とはいえ幼い冬弥にその思いは通じませんでした。みっともない姿を晒してしまった男の子に残されたプライド、いじめっ子たちに立ち向かっていった女の子から「よくできました」と言われる屈辱感など冬弥の立場で考えれば反射的に投げ捨ててしまうのも無理はありません。
冬弥は投げるポーズをステージの由綺へ、その姿から全てを察した由綺が返した笑顔は何と素敵な表情か。もし冬弥が思い出せなかったら離れていってしまうかもしれない、18話にて意味深に語られた「封印された記憶」を冬弥が思い出したのは心からこの笑顔を望んだからかもしれません。冬弥と会うとき由綺の心はいつも泣いていた。幼い日の思いごと忘れ去られてしまった悲しみは由綺の心に影を落とし、しかしその記憶が蘇った今は曇りのない笑顔を向けてくれるようになった。
シーン変わってエコーズへ。思い出した記憶の続きを話す冬弥を分析する春原は探偵よりもカウンセラーが似合うかも?(笑。投げ捨てたメダルを「拾ってきなさい」と叱られ、涙目で必死に捜すもついに見つからなかった。これまで幾度となく映された「何かを捜す幼い冬弥」が捜していたものは由綺からのメダル、その経過中にめのうと出会ったことで全てを忘れ、そして以降の「女神」への流れが始まるのでした。なるほど。
受験の終わったマナは一人テーブルにてまんがを読みつつ冬弥を気遣うツンデレセリフを一言二言、さらに話がめのうのことになると「ゲロゲロ」とか。そういやマナのゲロゲロも久しぶりだなあ(笑。ほどなくめのうが登場、まんがの好みも飲み物もさすが姉妹の血は争われませんね。ミルクティをオーダーしての「まねっこ」「どっちが?」のやりとりも微笑ましいです。
店の奥から姿を消したフランキー。はてさて彼はどこへ?
用事があるとエコーズを出た冬弥の行き先は由綺のマンション。このマンションが建っている場所は第4話で語られたように元々山でした。由綺が冬弥と初めて会い、そしてもちろんメダル騒動の現場です。なるほどマンション前の階段に幼い冬弥たちが駆け上った坂道(?)の面影がありますね。ここで待ち合わせたはるかから例のメダルを受け取る冬弥。冬弥が投げ捨てはるかが拾ったその場所にてメダルの返還とは…これまで幾度となく提示されてきた断片情報が一気に集約する作りにさぶいぼが止まりません。
はるかは件のメダルを持っていた、捜す冬弥より先に拾って持っていたのです。メダルを投げ捨て走り去る冬弥を見送った後に由綺と向き合ったはるか、それは冬弥の心境を悟っての行動か、または幼い嫉妬によるものでしょうか。第8話にて森の夢を見たはるかの記憶はこのシーン、その夢のラストにマナが現れたのは「女神」と重なっていたから?
成長し高校生となったはるかはもちろん由綺に気付き、ここでもまた同じように対峙しています。由綺のこれまでの描写からしてメダルの件をわざわざ口止めする必要は無さそうですが…それに関連する一切の事柄、由綺とはるかが知り合いであったことすら口外しないよう釘を刺したのかな。
弥生さんから手渡された由綺からのメモ書き。これは第5話でも使われましたが懐かしのポケベル暗号で、「01004」とは「待ってます」の意です。小学生からケータイ持ってるような今の子にはわからん世界でしょうね(笑。その伝言どおり由綺の部屋にはシャンパンと2つのグラスが用意されていました。しかしそこに由綺の姿はありません。
由綺&理奈のデュエットが終わったステージはアンコールの声援が響き…番組がめちゃくちゃになってしまったことで二人は失格に。その後 楽屋へ顔を出した冬弥を待っていたのは理奈からの別れが書かれたルージュの伝言、ステージでの由綺を見て身を引くことを決意したのか潔い引き際でした。ドレッサーの前に貼り合わせた由綺の手紙とクリスマスコンサートのチケット、その下にあるのは渡せなかったチョコレートかな。あの手紙とチケットを冬弥へ渡すのは理奈なりのケジメなのでしょうね。
「行くの? 行かないの? 行けば?」
はるかに促されて由綺の部屋を見上げる冬弥。視線の先は灯りが消えているような感じですが…ここで本編終了でEDへ。黒バックにテロップが流れるEDのラストに電話をかけるキャラたちの顔が次々と現れ、しかしラストに現れた冬弥は一人の後ろ姿です。まったく最後まで視聴者の想像力を揺さぶる作りは憎いなあ。
いよいよ大詰めのCパートは神崎家の引っ越し風景でした。引っ越しにめのうが参加していることから行き先は元旦那の家? 神崎と元旦那はこの顛末を乗り越えてよりが戻ったのでしょう。マナとめのうはすっかり姉妹に収まって、めのうに対しマナが「お姉ちゃん!」と呼び、対するめのうもきちんと妹扱いしている風景は何と微笑ましいことか。彼女たちもまた自分の居場所を見つけたようで一安心です。思えばこの作品にて冬弥に絡んだ女神たちは自分の「居場所」が揺らいでいる女性ばかりでした。みなさんそれぞれ私生活に問題を抱えもがいていた。そこへ現れた冬弥によって(経過はいろいろあったにせよ)最終的に居場所を得て、と同時に冬弥の元を卒業していった。ひょっとしたら表題の「ホワイトアルバム」とは女神たちを含めた「居場所の無かった時間(空白の時間)」をも表したものかもしれません…というのは深読みしすぎか(笑
「あなたが落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
マナ初登場の第4話にてバスの中で交わした会話がここで再び。あの時は「金の斧くださいって言えないからって鉄の斧ばっか集めているケチなイソップ」と言われてましたが…はたして最終回の冬弥は心理テストと勘違いして「銅!」と的外れなお答え(笑。「金の斧」とは冬弥が本当に欲しかったもの=由綺の心からの笑顔、反して「鉄の斧」は現実に則した代替=「真実を知る前の女神たち」のことでしょうか。ううむこの解釈は難しい。受験科目に無い数学を勉強していたのは…冬弥が問題を作ってくれたからですね。ああかわいいなあああ。
東証平均株価は21705円。第1話(前年11月初頭)での株価は16804円なので約5ヶ月で5000円も上がっていますね。ここからさらに株価は上昇して最終的には38000円越えまで上がるバブル経済の入口、シーマやクラウンがカローラよりも売れていた時代です。現状の日本からすると時の経過以上に遠い昔の話のような気がします。その後の崩壊を知る身としては馬鹿な懐旧ですが…あの頃は良かったなあ。
さて事務所が潰れた二人の歌姫は「Daddy-Longlegs Record」にて出直したようです。所属事務所とレコード会社は関係ないような気がしますがそれはそれ、事務所倒産とTV局への損害によってレコード契約が解除されたのでしょうきっと。言うまでもありませんがこのレーベル名の和訳は「あしながおじさん」、すなわち二人のためにフランキーが立ち上げたレーベルなのでしょう。二人のあしながおじさんとしてこれからもがんばってください(笑
ラストショットは歩道橋から待ち合わせ相手へ手を振る冬弥。誰に向かって手を振っているのか映さないままの終劇も憎い演出です。いつまでもお幸せに。
この作品は事前の作品イメージ(エロゲ史上最強のヘタレ主人公、ドロドロの愛憎修羅場展開、これがあの女のハウスね!などなど)からしてあまり良いものではなく、さらにバブル前夜の風俗を散りばめた舞台設定もおっさん世代には懐かしいものでも若い世代には…でしたし、いざ始まってみても超絶わかりにくい映像表現からパッと見で判断する人たちにほとんど受け入れられず、レビューを覗いてみても酷評以外を見つけることがかなり難しい状態でした。確かに放送を1度見ただけでは映像の意味がわからず、その結果先入観も相まって冬弥へのマイナスイメージばかり先行し、さらに相当の「読み取る努力」を強いる凝りまくった編集も視聴者を選ぶ原因となったと思います。他人がどう評価しようと私は全力で楽しませていただいたのでどうでもいいのですけれども、この作品が現代のアニメファンにほとんど受け入れられなかったのは残念に思います。
第1話からほぼ全話を使って巧みに張り巡らされた伏線が今回の最終回でほぼ全て回収される見事な構成、登場した全ての「女神」が誰も傷付くことなく綺麗に収まった最終回は何とも鮮やかな結末でした。年末年始で第1話から見直して再びさぶいぼに包まれようと思います。年内に書き上がってよかった(笑
1期2期共に奈々さん歌唱の主題歌も素晴らしく、また彼女が初出場するNHK紅白歌合戦にて「深愛」が歌われるとのこと…あの大舞台でホワイトアルバムの主題歌が歌われるとは両方のファンとしてこれ以上の感動はありません。
ではこれにてホワイトアルバムのレビューも閉幕です。お疲れさま。
↓記事が役立ったら一票どうぞ。
空白の記憶も蘇っての最終回です。
理奈の復活も間に合わぬままついに開幕したビーナス音楽祭、ピアノへ向かって歩み寄る由綺の描写で引いた前回から、今回はピアノの前で演奏を始めることもなく佇む由綺の姿へ。時系列の前後を意識させるように挿入される様々なカットが続き、この時点でナニゲに見ているだけの視聴者は置いてけぼりになってしまうでしょうね。というわけで最終回の冒頭は夕方と夜の二元中継で展開が進みます。
ピアノの前で動きを見せない由綺をステージ袖から心配そうに見守る弥生さん。彼女はヘッドホンをかけて練習に打ち込んでいた由綺を思い出しています。エレピに向かって練習を続ける由綺を後から見て「何を練習しているのか」に気付き、おそらく由綺がこのステージに何を求めているのかも気付いていたのでしょう。このアバンはシャッター前に座り込む影武者ちゃんへの「聞かせてよ!」からの見せ方が素晴らしかった。冒頭っからさぶいぼ立ちまくりです。
Aパートはシーン変わって入院中の理奈の病室。夕暮れの窓に向かって自己否定を続ける冬弥へ声を出せない理奈が必死に訴えかけようとしています。筆談の紙に殴り書いては破き…「女神たちが悲しくなる理由」を叫びたいけれど声に出せず、背中を向ける冬弥には届きません。あちらへふらふらこちらへふらふら「女神思想」の名の下に女性へいい顔をし続けた冬弥は、決して浮気性ではなく本心から「女神へのお礼」をしていたのですね。しかし冬弥がお礼=好意を向けることによって女神はみんな不幸に、悲しくなってしまう、だから「自分は人を愛してはいけない」と結論付けた。
そんな話を聞いた背後の理奈、つまり「女神」に位置付けられた者はそう感じていませんでした。女神たちが悲しくなるのはみんな冬弥を愛しているから。しかしどれほど愛しても「冬弥は本心から振り向いてはくれない」ことをみな感じていたのでしょう。冬弥の心の中には絶対的な誰かが存在し、自分はその身代わりとして好意を向けられているだけと。だからみな悲しんだ。
涙を落とし拳をギュっと握り締めた理奈はついに思いの丈を叫びます。服毒のショックで声を出せなかった理奈を動かした衝動、理奈の本気度を十二分に描いたこのカットは奈々さんの熱演もあって心に響きました。
長い沈黙の後、由綺はビーナスのステージにてピアノ演奏をスタート。しかし延々とイントロを弾くばかりで歌へ進みません。それがエントリー曲の「恋色空」ではないことに気付いた中継スタッフ、頭を抱えるディレクターの慌てようにも目をくれず、由綺は1音1音を愛おしむように、まるで何かを待っているかのようにイントロを弾き続けます。するとギターの音がピアノに重なり…由綺の思いはバンドメンバーにも通じたのでしょうか、演奏中断を逃れて弥生さんもホッと一息の様子。絶妙なカット割りで弥生さんの心境まで描写する芸の細かさは凄い。
そして理奈との日々を回想しながら由綺は歌い始めます。この歌い始めの演出も見事でした。理奈との共演を夢見て、同じステージに立つことを目標に走ってきた日々、由綺はその思いを乗せた歌を一人で歌い続け…曲がBメロに差し掛かると突然理奈の歌声がステージに響いての登場、なんとドラマチックな共演のスタートでしょう。
その立役者はもちろん冬弥でした。声を取り戻した理奈を特急で送り届けた冬弥は息を切らしていますね。ちなみに理奈の登場シーンを「理奈がテレポートwww」と勘違いしている気の毒な人が結構いるようですが…理奈が声を取り戻したのは夕陽の射す病室、そしてこのステージはすっかり日が落ちた夜なので理奈の会場入りは何の不自然さもありません。冒頭から時系列の移動を何度も見せているのはこの演出のためであることに気付いていただきたい。
由綺へ「私、ずっとフェアだったよ」と語りかける理奈の清々しい表情、その言葉を受けて振り返った由綺も「知ってる」とこれまた清々しい表情を見せます。やはり由綺はずっと信じていた。思えば19話にて由綺が取り乱した時も理奈は正直に話していましたし、心細さから冬弥に縋っても卑怯な手を使うことはありませんでした。
「ごめんね英ちゃん」
「貸しにしときます」
早々に釈放された英二を待ち構えるマスコミ。手下のやらかした騒動の証言に現れたのでしょうか、マスコミの列を割って登場の神崎とすれ違い様に交わす一瞬の会話は二人の完全和解を感じさせます。腹をくくって非を認める神崎、それをクールに返す英二が格好良すぎ。
ステージ袖から抜け出した弥生さんは警察署へ。釈放騒動の波が引いた警察署前のガランとした様子は時間経過を感じさせ、刑事から渡されたミニのキーから置き手紙、そして飛び立つ飛行機影は英二が海外へ飛び立つことを想像させます。
「成田空港より生中継」「緒方英二氏の目的は?」とテロップが入ったTV中継の画面、これが出国なのか帰国なのかわかりませんが、どちらにしてもビーナスの日以降の後日談でしょう。その画面からパンして映るストリートミュージシャンを囲む人々、もちろんその中心は影武者ちゃんであり、映っている客の顔ぶれからしてこれは冒頭から何度か入った影武者ちゃんの様子。つまりこの映像は英二が空港にいる日、ビーナスとは別の日ということになります。ほんと凝った見せ方、普通だったら時系列に沿った電車道編集でしょうに。
めのうの仮面を脱ぎ捨て、自分の顔で自分の歌を歌い始めた影武者ちゃん。その姿を遠くから見守り、独り立ちに祝福の涙を落とすめのうの優しさ。影武者ちゃんに対して始終素っ気なかっためのうでしたが本心は案じていた、これでめのうも思い残すこと無く普通の生活に戻れそう。
さてステージの由綺&理奈を袖から見ていた冬弥はついに封印された記憶を蘇らせます。前回見せた10年前のめのうとの会話、その直前に交わされためのうのセリフが重大な意味を持っていました。
「みんな忘れちゃうのよ。いじめっ子のことも、虫みたいにくっ付いているあの嫌な女の子のことも」
「そう、あの子、影でいつも君のこと見てて笑ってる」
「あの子」とはもちろん由綺のこと。由綺に対し悪意満々のめのう…両親の離婚で別れ別れになったマナをたまに見に来ていためのうは、マナが慕う由綺に嫉妬を感じていた? 冬弥の前に突然現れためのうお姉さん、女神思想の発端となった彼女の言葉は強い影響力を持ち、その言葉どおり由綺のことを忘れてしまった。
ステージの目映い光に重なるように蘇る記憶の中で光を放つ何か。これこそが冬弥と由綺の隠された過去を紐解くキーアイテムでした。
緑色のロングヘアーの女の子ははるか…今よりも女の子っぽい?(笑。とはいえお転婆のはるかは同い年の冬弥より体力も元気もあるようで、その対比は幼い冬弥の弱々しさを強調しています。
野山を駆け回る冬弥&はるかを追ってくる幼い由綺、すると場面はいじめっ子に囲まれるはるかに変わり…気の小さい冬弥は体の大きいいじめっ子たちを前に身動きできず固まってしまい、しかし彼より小さい由綺は勇ましくも立ち向かっていく。そんな由綺を見ながら固まったままの冬弥は失禁し、泣きながら汚れた両手を差し出していじめっ子を撃退。これが父親曰く「冬弥なりの戦い方」なのですね。力が無い者は無いなりの戦い方がある、そんな冬弥を遠くから見守る父ちゃんの図は以前見せたとおりで、そのとき傍らの由綺は逃げ出したように映されましたが…なるほど冬弥をほめるため、例のメダルを用意しに戻ったのでしょう。
とはいえ幼い冬弥にその思いは通じませんでした。みっともない姿を晒してしまった男の子に残されたプライド、いじめっ子たちに立ち向かっていった女の子から「よくできました」と言われる屈辱感など冬弥の立場で考えれば反射的に投げ捨ててしまうのも無理はありません。
冬弥は投げるポーズをステージの由綺へ、その姿から全てを察した由綺が返した笑顔は何と素敵な表情か。もし冬弥が思い出せなかったら離れていってしまうかもしれない、18話にて意味深に語られた「封印された記憶」を冬弥が思い出したのは心からこの笑顔を望んだからかもしれません。冬弥と会うとき由綺の心はいつも泣いていた。幼い日の思いごと忘れ去られてしまった悲しみは由綺の心に影を落とし、しかしその記憶が蘇った今は曇りのない笑顔を向けてくれるようになった。
シーン変わってエコーズへ。思い出した記憶の続きを話す冬弥を分析する春原は探偵よりもカウンセラーが似合うかも?(笑。投げ捨てたメダルを「拾ってきなさい」と叱られ、涙目で必死に捜すもついに見つからなかった。これまで幾度となく映された「何かを捜す幼い冬弥」が捜していたものは由綺からのメダル、その経過中にめのうと出会ったことで全てを忘れ、そして以降の「女神」への流れが始まるのでした。なるほど。
受験の終わったマナは一人テーブルにてまんがを読みつつ冬弥を気遣うツンデレセリフを一言二言、さらに話がめのうのことになると「ゲロゲロ」とか。そういやマナのゲロゲロも久しぶりだなあ(笑。ほどなくめのうが登場、まんがの好みも飲み物もさすが姉妹の血は争われませんね。ミルクティをオーダーしての「まねっこ」「どっちが?」のやりとりも微笑ましいです。
店の奥から姿を消したフランキー。はてさて彼はどこへ?
用事があるとエコーズを出た冬弥の行き先は由綺のマンション。このマンションが建っている場所は第4話で語られたように元々山でした。由綺が冬弥と初めて会い、そしてもちろんメダル騒動の現場です。なるほどマンション前の階段に幼い冬弥たちが駆け上った坂道(?)の面影がありますね。ここで待ち合わせたはるかから例のメダルを受け取る冬弥。冬弥が投げ捨てはるかが拾ったその場所にてメダルの返還とは…これまで幾度となく提示されてきた断片情報が一気に集約する作りにさぶいぼが止まりません。
はるかは件のメダルを持っていた、捜す冬弥より先に拾って持っていたのです。メダルを投げ捨て走り去る冬弥を見送った後に由綺と向き合ったはるか、それは冬弥の心境を悟っての行動か、または幼い嫉妬によるものでしょうか。第8話にて森の夢を見たはるかの記憶はこのシーン、その夢のラストにマナが現れたのは「女神」と重なっていたから?
成長し高校生となったはるかはもちろん由綺に気付き、ここでもまた同じように対峙しています。由綺のこれまでの描写からしてメダルの件をわざわざ口止めする必要は無さそうですが…それに関連する一切の事柄、由綺とはるかが知り合いであったことすら口外しないよう釘を刺したのかな。
弥生さんから手渡された由綺からのメモ書き。これは第5話でも使われましたが懐かしのポケベル暗号で、「01004」とは「待ってます」の意です。小学生からケータイ持ってるような今の子にはわからん世界でしょうね(笑。その伝言どおり由綺の部屋にはシャンパンと2つのグラスが用意されていました。しかしそこに由綺の姿はありません。
由綺&理奈のデュエットが終わったステージはアンコールの声援が響き…番組がめちゃくちゃになってしまったことで二人は失格に。その後 楽屋へ顔を出した冬弥を待っていたのは理奈からの別れが書かれたルージュの伝言、ステージでの由綺を見て身を引くことを決意したのか潔い引き際でした。ドレッサーの前に貼り合わせた由綺の手紙とクリスマスコンサートのチケット、その下にあるのは渡せなかったチョコレートかな。あの手紙とチケットを冬弥へ渡すのは理奈なりのケジメなのでしょうね。
「行くの? 行かないの? 行けば?」
はるかに促されて由綺の部屋を見上げる冬弥。視線の先は灯りが消えているような感じですが…ここで本編終了でEDへ。黒バックにテロップが流れるEDのラストに電話をかけるキャラたちの顔が次々と現れ、しかしラストに現れた冬弥は一人の後ろ姿です。まったく最後まで視聴者の想像力を揺さぶる作りは憎いなあ。
いよいよ大詰めのCパートは神崎家の引っ越し風景でした。引っ越しにめのうが参加していることから行き先は元旦那の家? 神崎と元旦那はこの顛末を乗り越えてよりが戻ったのでしょう。マナとめのうはすっかり姉妹に収まって、めのうに対しマナが「お姉ちゃん!」と呼び、対するめのうもきちんと妹扱いしている風景は何と微笑ましいことか。彼女たちもまた自分の居場所を見つけたようで一安心です。思えばこの作品にて冬弥に絡んだ女神たちは自分の「居場所」が揺らいでいる女性ばかりでした。みなさんそれぞれ私生活に問題を抱えもがいていた。そこへ現れた冬弥によって(経過はいろいろあったにせよ)最終的に居場所を得て、と同時に冬弥の元を卒業していった。ひょっとしたら表題の「ホワイトアルバム」とは女神たちを含めた「居場所の無かった時間(空白の時間)」をも表したものかもしれません…というのは深読みしすぎか(笑
「あなたが落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
マナ初登場の第4話にてバスの中で交わした会話がここで再び。あの時は「金の斧くださいって言えないからって鉄の斧ばっか集めているケチなイソップ」と言われてましたが…はたして最終回の冬弥は心理テストと勘違いして「銅!」と的外れなお答え(笑。「金の斧」とは冬弥が本当に欲しかったもの=由綺の心からの笑顔、反して「鉄の斧」は現実に則した代替=「真実を知る前の女神たち」のことでしょうか。ううむこの解釈は難しい。受験科目に無い数学を勉強していたのは…冬弥が問題を作ってくれたからですね。ああかわいいなあああ。
東証平均株価は21705円。第1話(前年11月初頭)での株価は16804円なので約5ヶ月で5000円も上がっていますね。ここからさらに株価は上昇して最終的には38000円越えまで上がるバブル経済の入口、シーマやクラウンがカローラよりも売れていた時代です。現状の日本からすると時の経過以上に遠い昔の話のような気がします。その後の崩壊を知る身としては馬鹿な懐旧ですが…あの頃は良かったなあ。
さて事務所が潰れた二人の歌姫は「Daddy-Longlegs Record」にて出直したようです。所属事務所とレコード会社は関係ないような気がしますがそれはそれ、事務所倒産とTV局への損害によってレコード契約が解除されたのでしょうきっと。言うまでもありませんがこのレーベル名の和訳は「あしながおじさん」、すなわち二人のためにフランキーが立ち上げたレーベルなのでしょう。二人のあしながおじさんとしてこれからもがんばってください(笑
ラストショットは歩道橋から待ち合わせ相手へ手を振る冬弥。誰に向かって手を振っているのか映さないままの終劇も憎い演出です。いつまでもお幸せに。
この作品は事前の作品イメージ(エロゲ史上最強のヘタレ主人公、ドロドロの愛憎修羅場展開、これがあの女のハウスね!などなど)からしてあまり良いものではなく、さらにバブル前夜の風俗を散りばめた舞台設定もおっさん世代には懐かしいものでも若い世代には…でしたし、いざ始まってみても超絶わかりにくい映像表現からパッと見で判断する人たちにほとんど受け入れられず、レビューを覗いてみても酷評以外を見つけることがかなり難しい状態でした。確かに放送を1度見ただけでは映像の意味がわからず、その結果先入観も相まって冬弥へのマイナスイメージばかり先行し、さらに相当の「読み取る努力」を強いる凝りまくった編集も視聴者を選ぶ原因となったと思います。他人がどう評価しようと私は全力で楽しませていただいたのでどうでもいいのですけれども、この作品が現代のアニメファンにほとんど受け入れられなかったのは残念に思います。
第1話からほぼ全話を使って巧みに張り巡らされた伏線が今回の最終回でほぼ全て回収される見事な構成、登場した全ての「女神」が誰も傷付くことなく綺麗に収まった最終回は何とも鮮やかな結末でした。年末年始で第1話から見直して再びさぶいぼに包まれようと思います。年内に書き上がってよかった(笑
1期2期共に奈々さん歌唱の主題歌も素晴らしく、また彼女が初出場するNHK紅白歌合戦にて「深愛」が歌われるとのこと…あの大舞台でホワイトアルバムの主題歌が歌われるとは両方のファンとしてこれ以上の感動はありません。
ではこれにてホワイトアルバムのレビューも閉幕です。お疲れさま。
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