Apple社が2008年2月に発売した薄型ノート・パソコン「MacBook Air」は,キーボードの固定に多量のネジを使うなど,コストのかさむハードウエア構成を採っている。その目的は,極薄に見えるデザインを実現したり,キーボードの打鍵感を高めたりすることとみられる。ハードウエアのコストよりもデザインや質感を優先することは,iPhoneにも共通する,Apple社ならではの姿勢である(以下の本文は,『日経エレクトロニクス』,2008年2月25日号,pp.11-13から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

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 最厚部19.4mm,最薄部4.0mmを誇る,米Apple Inc.の超薄型ノート・パソコン「MacBook Air」。筐体の底面はわずかに湾曲しており,中央は厚く,端に行くほど薄くなる。この特徴的なデザインが,筐体の薄さを数値以上に際立たせている。Ethernet端子やPCMCIAカード,光ディスクといった物理インタフェースをことごとく取り払ったことで,継ぎ目がほとんどないシンプルな曲面を実現した。

 本誌は,国内大手パソコン・メーカーの技術者の協力を得てMacBook Airの内部構造を解析した。その結果明らかになったのは,技術者をして「これまで見たどのノート・パソコンとも違う」と言わしめた,Apple社ならではの設計思想だった。

 Apple社がコストをいとわずに作り込んだとみられるのが,筐体のデザインや質感,キーボードの打鍵感,タッチ・センサの剛性,フタの開閉時の感触といったユーザーの感性に訴える個所である。これらの個所におけるApple社のこだわりは,他のパソコン・メーカーの常識を大きく逸脱していると,分解に参加した技術者は唸った。「こんなにコストが高くつく設計,ウチなら設計レビューで絶対にはねられますよ。工場に見せようものなら,どんな文句を言われることか…。恐らく,Apple社は工場からのフィードバックを受けず,トップダウンで設計したんでしょう」(技術者)。

コスト高の要因が随所に

 まず,最厚部19.4mmという薄さの実現に大きく貢献したとみられるのが,Liポリマ2次電池セルを用いた薄型モジュールである(図1)。このモジュールは最厚部で6.8mmほど注1)。かなり特殊な部品とみられ,「一般的なノート・パソコンと比べ,電池モジュールの部材コストはかなり高くついたはず」(技術者)。この電池モジュールはメイン基板と重ならないように同基板と隣り合わせに配置し,狭い筐体内に収めている。

注1) ノート・パソコン向け2次電池の主流は,重さ当たりの電池容量が最も高いとされる円筒形の18650型Liイオン2次電池である。ただし,18650型は電池セルだけで厚さが18mm以上あるため,同セルを採用した筐体の最厚部は20mmを大きく超えてしまう。
図1 面積の過半を占めるLiポリマ2次電池モジュール 「MacBook Air」の下部筐体の実装スペースの過半を占めるのが,Liポリマ2次電池モジュールである。MacBook Airを薄くできたのは,この電池モジュールの採用によるところが大きいとみられる。同モジュールの厚さはわずか6.8mmほどしかない。メイン基板は同モジュールに隣接して配置している。
図1 面積の過半を占めるLiポリマ2次電池モジュール 「MacBook Air」の下部筐体の実装スペースの過半を占めるのが,Liポリマ2次電池モジュールである。MacBook Airを薄くできたのは,この電池モジュールの採用によるところが大きいとみられる。同モジュールの厚さはわずか6.8mmほどしかない。メイン基板は同モジュールに隣接して配置している。 (画像のクリックで拡大)