角川グループホールディングスは2008年1月25日,米Google Inc.傘下の米YouTube, LLCが運営する動画共有サービス「YouTube」で,広告配信などの新規事業を展開すると発表した(Tech-On!関連記事)。YouTubeに公式コンテンツを提供するだけでなく,ユーザーがアップロードしたコンテンツを積極的に利用する方針が他社と一線を画す。そのためにGoogle社とYouTube社が開発した動画識別技術を利用し,掲載の可否を判断する。
日経エレクトロニクスは2008年3月10日号に掲載した特集記事「コピーに自由を,生まれ変わるDRM」のために,この技術の開発に角川サイドから協力し,今後は実際の運用を担うことになる角川デジックス代表取締役社長の福田正氏に話を聞いた。日経エレクトロニクス2008年3月10日号に掲載したインタビュー「Googleと組んだのは黒船だから」の全文を2回に分けて掲載する(聞き手=竹居智久,山田剛良)。
-角川デジックスは2007年7月から,Google社らの動画識別技術を検証してきた。今回,Google社との提携と新規事業の開始を決断できたのは,識別精度が満足いくレベルに達したからなのか。
2008年1月25日の記者会見では「90%くらいの精度」と話しましたが,これはあくまでYouTubeに現在上がっているコンテンツで調べた結果。今後,コンテンツの種類が増えれば下がるかもしれません。
そもそもGoogle社から我々に提供されるシステムの完成度は,僕の理想を100とすると現状でようやく55くらい。ただし,ここから先の45は,机上で理論を積み重ねても埋まらない。実際にやってみて経験値を積んでいくしかない。ならばリスクを取って踏み出そうと考えました。
2007年7月の段階では完成度がもっと低くて,20もないほど。今は最低限の仕組みが整いました。ユーザーがアップロードした段階でコンテンツを自動検出して掲載を止める仕組み,コンテンツを角川が管理していることを示すマークの表示,それから広告や販売リンクなどで,著作者に利益を還元する枠組みの三つがそろったので始めてもよいだろうと判断しました。
角川のコンテンツのプロモーションのためだけなら,YouTubeが必要だと僕は思わない。他社のように単に公式コンテンツを提供するというだけの協力ならやらない。決断した根拠は識別精度ではないし,そもそも精度100%は求めていない。「次のステップ」に行くために,誰かがスタートしないといけないだけです。
YouTubeなどの動画共有サイトは今,著作権侵害の問題を抱えている。それで被害を受けている人もいる。一方でYouTubeを楽しんでいる膨大なユーザーがいる。すべてに「ノー」と言うんじゃなくて,未来を見据えて何をするべきか考えた方がいい。