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【映画】『ロスト・ケア』(2023年) 42人を救ったのは、悪か、正義か――介護の闇が暴かれる衝撃のサスペンス! | ネタバレあらすじと感想

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◆映画『ロスト・ケア』の作品情報

【監督・脚本】前田哲

【脚本】龍居由香里

【原作】葉真中顕『ロスト・ケア』

【出演】松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、柄本明他

【主題歌】森山直太朗「さもありなん」

【配給】東京テアトル、日活

【公開】2023年3月

【上映時間】114分

【製作国】日本

【ジャンル】サスペンス

【視聴ツール】Prime Video

◆キャスト
斯波宗典:松山ケンイチ
大友亮介:長澤まさみ
牧村洋子:鈴木保奈美
町田達郎:戸田恵子
仁科賢太:岩本多代
三好和彦:坂本慶介

◆ネタバレあらすじ
本作、映画『ロスト・ケア』は、日本社会が直面する高齢化と介護問題を鋭く描いた社会派サスペンスです。物語は、大量殺人事件の捜査から始まり、その背後にある介護の過酷な現実が徐々に明らかになっていきます。
物語の舞台は、ある地方都市。物語は、警察が42人もの高齢者が亡くなるという大量殺人事件の捜査に乗り出すところから始まります。被害者はいずれも高齢者で、遺体には目立った外傷がなく、まるで安らかに眠っているかのように見えることが事件をより異様なものにしています。この事件で逮捕されるのが、介護施設で働く介護士、斯波宗典(松山ケンイチ)です。
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斯波は自らの罪をあっさりと認めますが、彼の供述は捜査当局を驚かせます。彼は「自分は彼らを救ったのだ」と語り、まったく罪悪感を抱いていない様子を見せます。斯波は、長年にわたり介護の現場で働いてきました。彼は、介護を受ける高齢者たちが抱える絶望や、家族に見放された孤独、そして介護する側が負う過重な負担に直面し、次第に精神的に追い詰められていきます。斯波は、高齢者たちの苦しみを目の当たりにする中で、「安楽死」こそが彼らを救う唯一の方法であると信じるようになり、彼の心は歪んでいきます。
大友亮介(長澤まさみ)はこの事件の担当検事です。
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彼女もまた、介護に関する個人的な苦しみを抱えていました。彼女の母親も長年介護を受けており、大友自身も介護の厳しさを身をもって知っています。しかし、斯波の行為を法の下で裁かなくてはならない立場にあり、彼女の主張に対して深い疑念を抱きます。大友は法に基づいた正義を追求し、斯波が本当に行ったことの真実を突き止めようと奮闘します。
捜査が進む中、大友は斯波の過去や、彼が関わった介護施設の実態に迫っていきます。施設の運営は常に過剰な負荷がかかっており、介護スタッフもまた、限界を超える労働環境にさらされていました。施設の同僚である牧村洋子(鈴木保奈美)や、被害者の家族である町田達郎(戸田恵子)などの証言が、大友に新たな視点を与えます。彼らの証言を通じて、斯波の行動が決して単なる狂気によるものではなく、現実の介護システムの問題や、そこに生じる倫理的な葛藤が背景にあることが浮き彫りになっていきます。
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斯波は、介護の現場で多くの高齢者たちが人生の最後に直面する過酷な現実を見続けてきました。家族から見捨てられ、社会から孤立し、日々の介護に苦しむ彼らの姿に耐えかねた斯波は、彼らを「救う」ために手を下したと語ります。彼の行為は「殺人」ではなく「救済」だと信じ込んでおり、これが彼にとっての「正義」でした。しかし、その「正義」は社会的な倫理や法の枠組みから大きく逸脱していることは明白です。
大友は、斯波の行為の裏に潜む深い動機を理解しながらも、それでもなお法の下で裁かねばならないという葛藤を抱えます。斯波が働いていた介護施設や被害者の家族、そして介護職員たちとの対話を通じて、大友は社会全体が見て見ぬふりをしてきた「介護」という問題の深刻さに直面します。介護される側と介護する側、その双方の苦しみが映画全体を通じて描かれ、どちらか一方の視点だけでは解決できない複雑な問題が提示されます。
やがて、斯波が法の裁きを受けることは避けられませんが、映画は彼の行動に対して一方的な断罪を行うことはありません。斯波の「救済」の意図と、大友が追求する「正義」が交錯する中で、観客は「本当の正義とは何か」「介護の現場で求められる倫理とは何か」といった問いを突きつけられます。
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映画『ロスト・ケア』は、単なるサスペンスや犯罪映画にとどまらず、介護の現実や社会が抱える問題を深く掘り下げる作品です。斯波宗典という一人の介護者の苦悩を通じて、日本社会の介護問題の深層に迫り、その重厚なテーマは観客に深い余韻を残します。

◆考察と感想
本作、映画『ロスト・ケア』を観終わった後、観客は重く、そして複雑な感情に包まれることになるでしょう。この映画は単なるサスペンスではなく、日本社会が直面する高齢化や介護問題の現実を鋭く描いた作品です。42人もの高齢者を「救済」という名の下に殺害した斯波宗典(松山ケンイチ)の行為は、倫理的・社会的に大きな問いを投げかけます。映画を通じて、介護の現実に直面する者の苦悩や葛藤、そしてその根底にある社会の問題が浮き彫りにされ、観客は「本当の正義とは何か」について深く考えさせられます。
斯波宗典の「正義」とは何だったのか
斯波は42人の高齢者を殺害しましたが、彼はそれを「救済」だと信じています。彼が働いていた介護の現場は、家族から見放され、希望を失った高齢者たちが日々の苦痛を耐え忍ぶ場所であり、彼らの生活は決して幸せとは言えませんでした。斯波は、介護する側としてこの現実を目の当たりにし、次第に「死」という選択肢が彼らを苦しみから解放する唯一の道だと考えるようになります。
彼のこの考えは、倫理的には許されないものであり、明確に犯罪です。しかし、映画が巧妙なのは、斯波の行為が単なる狂気や暴力ではなく、彼自身の信念や経験に基づいている点です。彼の「正義」は、自らが見てきた現実とそこから生じた苦悩から生まれたものであり、介護の過酷な現実を背景にしています。この「救済」という概念が一方的に否定されるのではなく、観客にも考える余地を与えることが、映画をより深いものにしているポイントです。
大友亮介の「正義」
一方で、検事の大友亮介(長澤まさみ)は法の側に立ちながらも、斯波の行為に対して単純な憎悪や断罪の感情を抱くわけではありません。大友もまた、介護に苦しむ母親を持ち、家族としての葛藤を経験しています。彼も斯波と同様に、介護の現実がいかに過酷であるかを知っています。しかし、だからといって斯波の行為を正当化することはできません。彼は、斯波の行動が介護の問題から生まれたものであったとしても、それを許してはならないという信念を持ちます。
大友の姿勢は、観客に対して「法による正義とは何か」を問いかけます。斯波が語る「救済」は一つの形での正義であるかもしれませんが、それは個人の解釈であり、社会全体としての法の枠組みを超えてしまっています。法は個人の感情や経験に基づいて変わるべきではなく、普遍的な価値観として機能するべきだという大友の主張は、観客にとっても重要なメッセージです。
介護の現実と社会的問題
映画が深く掘り下げるもう一つのテーマは、介護の現場が抱える現実です。斯波のように、介護の仕事に従事する者たちは、多くの場合、過重労働や精神的負担にさらされています。家族に見放された高齢者や、自らの存在が家族の負担になっていると感じる高齢者たちが、日々の介護の中で感じる絶望感は、斯波の行為を理解するための重要な要素となっています。映画は、介護を受ける側の苦しみと、介護する側の苦しみの両方を描くことで、問題の複雑さを浮き彫りにしています。
この映画が投げかけるのは、介護という現実をどう受け止め、どう解決していくべきかという問いです。家族や介護職員が過剰な負担を強いられる現状では、斯波のように追い詰められてしまう人が出てくるのも、悲しい現実として理解できます。しかし、それを是とするわけにはいかず、社会全体での介護支援の充実が急務であることを感じさせられます。
結末の余韻
映画のラストで斯波は法の裁きを受けますが、その裁きが完全な正義であるかどうかは、観客の判断に委ねられています。斯波の行為が間違いであることは明白ですが、彼の行為に至るまでの背景には、介護制度の欠陥や、社会全体が抱える高齢化問題が深く関わっています。映画はその問題に一面的な答えを与えるのではなく、観客に多くの問いを残して終わります。
『ロスト・ケア』は、ただの犯罪映画やサスペンスではなく、日本社会が直面する大きな問題に対する洞察を提供する作品です。観客は映画を観終わった後も、介護の現実や、社会における正義の在り方について深く考えさせられるでしょう。




評価点   85点
お薦め度  84点


2023年  114分  日本製作

 
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