少々皆さんの前提を整理したいと思うのですが・・・
ドゥロワーの山路です。
ネット上でも物議をかもしているTBSの件ですが、いろいろな方がそれぞれの感想をブログなどで発信されているようです。
しかしながら、実際に自転車がどのように製造されて消費者の手元に渡っているかという流れを正確に理解して発信されている方があまりにも少なく、この状態のままではそれらを視聴された方々の誤解に拍車がかかると思いましたので、その構造を一度お話すべきと思います。
やはり正しい情報の中でそれぞれの感想を持っていただくべきと思いますので、今日も少し長くなりますが、お付き合いいただけるとありがたいです。
それを簡単に整理すると、次のように大別することができます。
上流から説明していくと・・・
1.製造工場
2.販売会社
3.小売店
4.一般消費者
という感じです。
次に今回、責任を追及されている製造工場を分解していくと・・・
1.フレームメーカー
2.部品メーカー
3.アッセンブラー
となります。
一定の規模の工場では、フレームの製造からアッセンブルまでを一貫して行っているところもあり、ジャイアントやトレックといった大手はこのような手法になり、部品メーカーから指定の部品を購入して製造したフレームに組み付けて梱包します。
そういう意味では、国内にある自動車製造となんら変わりはなく、トヨタや日産もシャシーやエンジンを企画、開発、設計し、部品メーカーから各種の部品を購入して組み付けて製品にするという手法です。
自転車の場合、製造工場で組み立てられた後、製品を移動する必要がありますので、梱包しているわけですが、この時の状態は、自転車業界で一般的な「七分組み」と言われるもので、自転車に必要な部品の70%を仮組みの状態でフレームに取り付け、残り30%をバラの状態で小箱に詰めて、大きなダンボール製の箱に入れて梱包しています。
つまり、この状態では「半製品」 ということになります。
なぜ全部の部品を完全な状態組み付けて出荷しないのか?という疑問をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、ご承知のとおり90%以上が輸入車という特性からコンテナで日本に入荷しますので、それらの効率を考慮することはもちろんですが、スポーツをするための自転車ですので、乗車するライダーの体格や筋力、乗り方に合わせて組み立てを担当する小売店が「フィッティング」と呼ばれる調整作業を含めて組み立てを行いますので、つるしの状態で販売することを前提としていないために「半製品」 の状態で出荷となるのです。
もちろん製造工場では、製品を企画、開発する担当者が事前に指定された部品で組み立てられた完成品を多角的にチェックした上で量産するわけですが、日本で名の知れたブランドの製品に関して言えば、日本工業規格といわれるJIS規格の数十倍も厳しいそれぞれの独自基準で製品を企画し製造していますので、組み立てとアフターメンテナンスさえしっかりと行われていれば、とんでもない製品不良というものは最小限に留まるようになっています。
しかしながら、世の中絶対はありませんので、そのためにワランティーがあるわけですが、開発をしている人間というのは相当に物事を多角的に考えており、一般の方が思っているほど馬鹿ではないのです。
さて、今回の事故が発生したビアンキについて言えば、販売会社にあたる部分に日本の会社であるアキボウという会社が入ることになります。
ジャイアントやトレックといった製品は自社内で企画、開発、設計、製造までを一貫して行いますので、製品に関する責任の範疇が非常に明確で、何か問題があればすぐに改善できる組織となっています。
もちろんビアンキもイタリアで生産されているものに関しては、ジャイアントやトレックといったメーカー同様、自社内で一元管理されています。
しかしながら、いわゆる企画モノといわれるような製品、特にクロスバイクのように日本独自のセグメントとして、もともと欧米には存在しなかったタイプの自転車などは、各国に法人化されている販売会社がその国の市場に合わせて独自に企画する方法が当然のように行われています。
今でもそうですが、その国々の市場に合わせてローカライズされている製品の多くは、今回のビアンキのように本国で生産されているランナップとは別形態で製造されています。
一般的にはこのような企画商品でも、自社工場を使うことが多いのですが、価格設定などの要因により、自社工場が使用できない状況の場合、本国が認可する技術を持った協力工場で生産されることもあります。
今回の場合、ビアンキの協力工場の一つが台湾穂高ということになります。
そのような製品は、本国レベルではライセンス管理程度の把握で、実際にどんなものが製造されているかというのは、製造を委託される工場と実際に「スペッキング」と呼ばれる自転車の仕様を決めている販売会社(今回はアキボウ)が管理することになります。
放送の中でフレームを製造した台湾穂高とサスペンションを製造したRSTに対して、台湾で行われた展示会中に取材した場面が出てきましたが、展示会に出てきているような営業担当者に対して、なぜこのようなことが発生したのか教えてほしいという質問をしても、適切な回答を得ることができないのは容易に想像がつくと思うのでうすが、TBSとしてはそのようにするしか術がなかったのだと思います。
例えば、食中毒が発生した食品会社の工場に突撃取材と称して、ラインのおばちゃんに「なぜ食中毒が発生したのですか?」と聞いたとして、おばちゃんはなんと答えるでしょう?
きっと「私は言われたことをやっただけ」と答えるに決まっています。
つまり今回の台湾での取材は、なるべくしてなった回答であり、これをわかっていて意図的にやったとしたらTBSの取材はぞんざいであったと言えますし、逆にナチュラルでやったとしたら、子供の使いとしか思えないような取材となります。
いずれにしても、考えられるTBSの落ち度としては、しかるべき担当者にしかるべき手順を踏んで本質的な答えが出るようなシチュエーションを準備せずに取材を行ったということだと思います。
話を元に戻しましょう。
そのようにして企画、開発、製造、梱包され、無事日本に到着した製品は、いったん日本国内の販売会社や輸入代理店に入荷します。
そこで製品がチェックされ、販売できることが確認されると、日本全国の小売店(一般的には自転車屋)に販売されていきます。
ここからは、今回の放送では省かれていた小売店がどのようにして自転車を組み立て、消費者に販売し、その後のアフターフォローをしているかについてお話をしなければなりませんが、製造側の説明だけで相当な量になってしまいましたので、ここから先は次回にご説明していきたいと思います。
では、次の引き出しをお楽しみに。
| 業務日誌 | 15:25 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑
アキボウなのですか?
初めまして。 Bianchi Fretta に乗っている者です。
例の番組は見られなかったのですが、新聞報道などで動向は
気になっていました。
ビアンキの日本代理店(販売元)は、訴訟対象にもなった
サイクルヨーロッパジャパンだと思っていたのですが、
アキボウも関係しているのですか? 販売元がアキボウと
すると、なぜ今回はサイクルヨーロッパジャパンが訴えられたり
指導対象になっているのでしょうか?
| Ataru. | 2010/04/07 16:56 | URL |