『宇宙からのメッセージ』 面白さの秘密

宇宙からのメッセージ [DVD] 【ネタバレ注意】

 どうしてこんなに面白いんだろう!
 昔は好きだった作品なのに、今ではショボく感じてしまうことがしばしばある。だが、久しぶりに観た『宇宙からのメッセージ』は、はじめて観たときのままに――否、記憶していたものよりはるかに面白く、それどころか昔観たときは判らなかった良さを痛感して、これまで以上に感動した。日本映画界はこんなにも素晴らしい作品を生んでいたのだ。


■誰が誰のフォロワーなのか

 『宇宙からのメッセージ』は1978年4月29日に公開された。この年のゴールデンウィークの大作映画だ。前年に米国で大ブームを巻き起こした『スター・ウォーズ』(エピソード4『新たなる希望』)が同年夏に日本に上陸することになった。そこで「SF元年」と呼ばれたこの年の話題に便乗しようと、『スター・ウォーズ』に先行して公開されたのだ。
 このような経緯から、『宇宙からのメッセージ』は『スター・ウォーズ』の亜流、フォロワーだと思われている。マーク・クラーク著『STAR WARS FAQ』でも、『スター・ウォーズ』の影響を受けた作品の一つとして紹介されている。

 確かに、当時『スター・ウォーズ』に関する情報が米国から流入していたから、『宇宙からのメッセージ』を作るに当たって真似した点は少なくない。『スター・ウォーズ』で実物大のXウィングが作られたと聞けば、こちらも実物大のシロー号やアロン号、エメラリーダ号を作り、『スター・ウォーズ』でミレニアム・ファルコンのコックピットに現実の航空機のような機器を取り付けた聞けば(それまでのSF映画では、宇宙船の操縦席にあるのは現実離れしたつるつるピカピカの機器ばかりだった)、こちらも現実の機器を設置するといった調子である。
 そもそも『宇宙からのメッセージ』が企画されたのは『スター・ウォーズ』ブームあったればこそなのだから、亜流と位置づけられるのは致し方ないところだろう。

 けれども、スター・ウォーズ・シリーズの純然たるフォロワーとしてエピソード7『フォースの覚醒』がエピソード4『新たなる希望』を焼き直し、エピソード8『最後のジェダイ』がエピソード5『帝国の逆襲』を焼き直すのを目撃した後で改めて『宇宙からのメッセージ』を観ると、『スター・ウォーズ』との類似点より相違点が目に付くはずだ。
 とうぜんだ。『宇宙からのメッセージ』は、『スター・ウォーズ』を観て真似した作品ではないのだから。本作は『スター・ウォーズ』の日本公開に先んじて作られており、おそらくスタッフの多くは『スター・ウォーズ』を観ていない(当時『スター・ウォーズ』をすぐに観ようと思ったら、渡航費を工面して渡米しなければならなかった)。だから意外にも(!?)『スター・ウォーズ』にあまり似ていないのだ。
 それどころか、『スター・ウォーズ』に関する断片的な情報をヒントにしつつ、想像力を思い切り働かせて、『スター・ウォーズ』を凌駕しようと努めたものと思われる。

1/160 リアベ・スペシャル 宇宙からのメッセージ バンダイ だから面白いことに、本作は『スター・ウォーズ』と似て異なる作品として、『スター・ウォーズ』のフォロワーとは一線を画したポジションに収まっている。
 というのも、『スター・ウォーズ』のフォロワー作品が、少しでも本家『スター・ウォーズ』とは違うものを見せようとするとき、本作を手本にしていると思われるからだ。

 エピソード5『帝国の逆襲』に登場する戦闘機スノースピーダーは、本作の高速宇宙機アロン号(特に改造前)にそっくりだし、本作のクライマックス、狭いパイプを通り抜けて敵の動力炉を叩く流れは、エピソード6『ジェダイの復讐』(後に『ジェダイの帰還』に改題)に逆フィードバックをかけたのではないかと云われる。

 本作の惑星ジルーシア――惑星全体が要塞化され、本来の軌道を外れて雪に埋もれた極寒の星――が動力炉を破壊されて惑星ごと崩壊する様子は、そっくりそのままエピソード7『フォースの覚醒』のスターキラー基地――惑星全体が要塞化され、雪に埋もれた極寒の星――が内部のコアを破壊されて惑星ごと崩壊するシークエンスで再現されている。惑星ジルーシアが雪に覆われているのは、ガバナス帝国の移動要塞にされたからだが、スターキラー基地は恒星のそばに留まっていたのに雪に覆われている。惑星ジルーシアが元ネタと考えなければ説明がつかない(惑星全体を移動要塞と化すアイデアは、1940年代のレンズマンシリーズに遡れるが、移動惑星の表面は氷もしくは岩塊で覆われているのが一般的なイメージだろう。雪に覆われている要塞惑星を映像で見せたのは、『宇宙からのメッセージ』が嚆矢ではないか)。

 それに、エピソード8『最後のジェダイ』における洞窟内の宇宙船同士の追撃戦は、『宇宙からのメッセージ』序盤の宇宙暴走族と宇宙パトロールの追跡劇を彷彿とさせる。

 そういえば、ジルーシア人が悪党を討つために生まれ故郷の惑星を犠牲にして、自分たちは小さな宇宙船で脱出する展開は、2017年公開の『マイティ・ソー バトルロイヤル』でもやっていた。『宇宙からのメッセージ』の脱出民は、ガバナス帝国との長い戦いの末のわずかな生き残りだったから小さな宇宙船で収容できたのだが、『マイティ・ソー バトルロイヤル』ではそういった過程を端折って、全アスガルド人がいきなり宇宙船一隻に収まってしまった。『宇宙からのメッセージ』を知らない観客は、ビックリしたのではないか。


 『スター・ウォーズ』に関しては、もともとダース・ベイダーのデザインの元ネタが『変身忍者嵐』の血車魔神斎だとか、ストームトルーパーのデザインの元ネタは『イナズマンF』のマシンガンデスパーだと云われるほど、日本の特撮番組からの影響が見られる。
 それにしても、『宇宙からのメッセージ』の後続作品への影響の大きさは特筆すべきであろう。それもこれも、『宇宙からのメッセージ』が『スター・ウォーズ』に似てもいるけど異なってもいるという微妙な(後続作品のネタになりやすい)ポジションにある上に、できる限り『スター・ウォーズ』を凌駕しようと努めたことで『スター・ウォーズ』の発展形としての一つのビジョンを示したことにあるのではないか。
 たとえ、後続作品が『宇宙からのメッセージ』を直接参考にしたのではないとしても、これほどの類似があるということは、『宇宙からのメッセージ』が世界のSF映画を何年も何十年も先取りしていたことを示していよう。


スター・ウォーズ エピソードIV/新たなる希望 [Blu-ray]■評価を低めた二つの理由

 公開当時、『宇宙からのメッセージ』の評価は低かったようだ。
 その原因は、大きく二つあると思う。

 米国での『スター・ウォーズ』大ヒットのニュースは日本にも入ってきていたのに、日本公開は一年以上先になってしまった。そのため、日本では奇妙な現象が起きていた。
 氷川竜介氏は次のように解説している。
---
SWの日本公開は、1年遅れ78年まで延期されてしまった。当時雑誌媒体では著名人が渡米して見てきたコメントを載せ、事前情報を山のようにフカして回った。結果、SFファンたちの脳裏には膨らみまくったイメージによる華麗なるSW映像ができあがってしまった。ライトセイバーの光る玩具を始めとするグッズ先行販売も拍車をかけ、本物の映画が公開されると各自の中にできあがった「オレSW」よりはどこかしら劣る映像とのギャップに激しく悩んだ人も多かった。
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 一年も待たされるあいだに人々の妄想は膨らみ続け、本物の『スター・ウォーズ』でも埋められないほど大きな期待が寄せられるようになっていたのだ。
 そんなところに、従来の日本特撮のショボさを引きずった『宇宙からのメッセージ』が『スター・ウォーズ』に先駆けて公開されたら、「これじゃない」と反発されるのは必至である。『宇宙からのメッセージ』には野心的な試みも多々あったと思うのだが、「膨らみまくったイメージによる華麗なるSW映像が脳裏にできあがってしまっていた」SFファンは、美点に目を向けることができなかったのだろう。


 もう一つの原因は、科学的知見のお粗末さ――というか、常識のなさだろう。これは『宇宙からのメッセージ』に限らず、従来の日本の特撮の特徴でもあったのだが、とにかく宇宙が宇宙に見えない。宇宙の色が黒ではなく紺色で、星はまばらに光っているだけ。都会から見上げた夜空そのままなのだ。
 『スター・ウォーズ』が凄かったのは、大気のない宇宙であれば(光の散乱がないから)青みがかることはなく、光が遮られずに数えきれないほどの星が見えるはずという、小学生でも知っているようなことをちゃんと映像にしたことだった。2010年代の今から見れば全然凄いことではなさそうだが、『スター・ウォーズ』が世の中を席巻するまで、日本のアニメも特撮番組も宇宙は青かったのだ。

 宇宙ボタルのシーンもひどかった。主人公たちは光り輝く宇宙ボタルを捕まえようと、肌の露出した服にマスクを付けただけで宇宙に出て行き、素手でホタルを掴むのだ。
 人類初の宇宙遊泳は1965年のこと、アポロ11号の月着陸は1969年のことだ。宇宙服に身を包まなければ、宇宙で人間が生きられないことは誰でも知っているはずなのに、本作ではなぜか酸素マスクらしきものを付けただけで楽しく宇宙を漂っている。
 しかも、宇宙ボタルの正体は放射性廃棄物だという。化学反応を起こして光っている大量の放射性物質を素手で触りまくったら、体調を崩してガバナス帝国と戦うどころではないはずだ。

 さらには、ガバナス人もジルーシア人も日本語を話し、地球人と平気で会話できる始末。
 『スター・ウォーズ』でも異星人たちが英語を喋ったりしていたが、この作品は冒頭に「A long time ago in a galaxy far, far away....(昔々、はるか彼方の銀河で…)」というテロップを置くことで、これから地球の常識が通じないお伽話をはじめますよと宣言しているから、観客は受け入れることができた。劇中に地球の言葉とは異なる言語を混ぜることで、多様な言語の問題があることは承知していますよと弁解もしていた(とはいえ、大きさを表すのにメートル法を使ったのはどうかと思うが)。
 『フラッシュ・ゴードン』(1980年)でも、冒頭で異星人が使うオモチャのような装置に「HURRICANE」とか「HOT HAIL」といった英語が書かれていて、ここから先にリアリティはありませんと高らかに宣言していたから、安心して笑いながら観ることができた。
 しかし、『宇宙からのメッセージ』にはそういう配慮もなく、子供が見ても「そりゃないよ」と思うことのオンパレードだった。


 だが、振り返ってみれば、この「常識のなさ」については『宇宙からのメッセージ』ばかりが責められるものではないはずだ。
 本作公開の二年後に発表された『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』でも、小惑星の洞窟内を宇宙服を着ずに歩き回るシーンがあった。せいぜい数キロメートル程度の大きさの小惑星に、大気を留めるだけの重力があるはずはないのに。『帝国の逆襲』公開時は、ハリウッドの大作映画に『宇宙からのメッセージ』と同程度の描写を見せられて驚いたものだが、なんと2014年の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に至っても、主人公がマスクをしただけで宇宙に飛び出すシーンがあった。2017年の『エイリアン:コヴェナント』の宇宙船乗組員たちは軽装で未知の星に降り立ってしまうし、同年の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』ではマスクすら付けずに宇宙を漂い、無事に戻ってくるシーンがある。

 とどのつまりは、『宇宙からのメッセージ』を制作した日本の映画人が非常識なのではなく、「いつの世も」「世界中の」映画人が非常識なのだ。こういう映画を観続けると、「そりゃないよ」と思ってもグッと堪える耐性が身につくものだ。
 もちろん、科学的――どころか常識として当たり前のことをちゃんと表現してくれる映画のほうが観ていて気持ちがいいし、どの映画もそうあって欲しいけれど。科学的に裏づけられた深い考察があれば、より一層気持ちがいい

 もしかしたら、これらの作品には、宇宙服を着なくても無事でいられる不思議な裏設定があったのかもしれない。だが、劇中でそれを示唆できなければ表現者として失格だし、いずれにしろ『宇宙からのメッセージ』だけが非難される筋合いではない。

 何の断りもなく異星人と日本語で会話できることも、当時としては仕方のないところだろう。
 なにしろ、異星人が英語を話したり読み書きできることが物語上のキーでありながら、なぜ異星人の言語がよりによって英語なのか疑問に思わない映画『猿の惑星』(1968年)が名作として高く評価されるくらいなのだ(『猿の惑星』の原作小説では、異星人はとうぜん地球にはない言語を話している)。それを思えば、『宇宙からのメッセージ』でジルーシア人の美女エメラリーダが、とっさに「あなた方は?」と日本語で呼びかけるくらい、どうってことない。


〈ANIMEX 1200シリーズ〉 (57) 交響組曲 宇宙からのメッセージ (限定盤)■映画の面白さ

 それでは、『スター・ウォーズ』フィーバーの渦中における「これじゃない」感や、科学的なデタラメさを脇に置き、虚心坦懐に『宇宙からのメッセージ』を観てみたらどうだろうか。

 いやこれが面白いのだ。いま見ても掛け値なしに面白い。
 結局映画の面白さとは、厳密な科学考証でも、驚異的なVFXでも、目をみはるセットでもないのだ。それらも大事なんだけど、なんといっても映画の面白さは軽快なテンポと話運びの切れの良さに尽きる。
 ヤクザ映画やアクション映画で鳴らし、時代劇『柳生一族の陰謀』を大ヒットさせていた深作欣二監督と、数々の映画で深作監督と組んできた脚本家の松田寛夫氏、編集マンの市田勇氏らの手になる本作は、娯楽映画のお手本といえよう。

 とにかく話に無駄がない。少しでも会話が続くと、何かが飛び込んできて平穏が破られる。寄り道かと思われたエピソードが次の展開の呼び水となり、話が速度を増して転がっていく。
 『仁義なき戦い』シリーズでお馴染みのナレーションも効果的だ。説明のための描写なんか素っ飛ばして、冒頭の惑星ジルーシアの状況や中盤の地球連邦の動き等を名ナレーター芥川隆行さんがきびきび語る。物語が矢継ぎ早に、スピーディーに進んでいくから、退屈する間がまったくない。

 吹き替えもそうだ。本作にはビック・モローはじめ外国人俳優が多数出演しており、日本での公開に当たってはセリフが声優によって吹き替えられている。ところが深作監督は、外国人俳優のみならず、日本人のサンダー杉山さんの声までわざわざ声優に吹き替えさせている。これは、滑舌の良さと勢いのあるセリフ回しを重視したためだろう。こうまでしてテンポの良さにこだわった演出は、見事というしかない。

 私は、スター・ウォーズ・シリーズの一作目『スター・ウォーズ』は傑作だと思うが、冒頭の20分は砂漠をてくてく歩いたり、農作業について話し合ったりしていてスピーディーとは云い難い。後の展開を素早く見せるための"溜め"なのだろうが、二作目以降でもただ歩くシーンや落ち着いた会話のシーンが見受けられる。云ってみれば、派手な展開の前の「待ち時間」だ。
 ところが、『宇宙からのメッセージ』にはそういう"溜め"がない。『仁義なき戦い』シリーズのあのノリで、圧倒的なスピード感で突っ走る。
 『宇宙からのメッセージ』の上映時間は105分。『仁義なき戦い』シリーズは97~102分、大傑作『県警対組織暴力』は100分だから、軽快な映画にはこれくらいの尺がいいのだろう。映画のスピード感とは、乗り物が高速で動くことではないのだ。ちなみに、スター・ウォーズ・シリーズは最短のオリジナル版『スター・ウォーズ』でも121分、特別篇で129分。以降はどんどん長くなる。


 『宇宙からのメッセージ』のベースになっているのは、曲亭馬琴の伝奇小説『南総里見八犬伝』だ。安房国(あわのくに)の里見家の下に、霊玉を持つ八人の犬士が集まって活躍する『八犬伝』は、本作の聖なるリアベの実を持つ八人の勇者の物語に置き換えられ、一人また一人と勇者が加わる旅とガバナス帝国の地球侵攻が並行して描かれる。

 何もないところから手探りでストーリーを紡ぐのではなく、(『スター・ウォーズ』が『隠し砦の三悪人』等を換骨奪胎したように)しっかりした先行作品をベースにしたのは堅実だが、『八犬伝』のパターンには特有の問題がある。勇者の登場と集結までの面白さに比べて、集結後のストーリーがパッとしなくなりがちなのだ。
 『七人の侍』のように、侍たちが結集する前半が面白い上に、身分違いの農民と侍の共闘という骨太のテーマに貫かれた後半も面白い傑作だってときには存在する。一方で、山田風太郎著『八犬傳』のように、八人の犬士が集まるまでは丁寧に描かれたのに、集まった後は駆け足で、もっぱら曲亭馬琴の執筆生活の描写に軸足が移ってしまう作品もある。本宮ひろ志著『男一匹ガキ大将』も、万吉一家28人衆が揃うまでがもっとも面白かったと思う。

 『宇宙からのメッセージ』が上手いのは、八人の勇者が集まるまでと、ガバナス帝国と戦ってジルーシア人を解放する部分を分けなかったことだ。ガバナス帝国の侵攻のスピードが早く、勇者が八人集まる前に主人公たちは最終決戦に臨まざるを得なくなる。こうして、残る勇者は誰なのか、いつ姿を現すのかという謎を残したまま、映画はクライマックスを迎える。
 この構成によって中弛みが排除され、いよいよスピード感が増している。


映画パンフレット 「宇宙からのメッセージ」■スペースオペラの面白さ

 『宇宙からのメッセージ』は東映京都撮影所で撮影され、製作には東映、東北新社とともに東映太秦映画村が名を連ねている。このことからも判るように、本作は時代劇の宇宙版だ。しかも、宇宙暴走族やらチンピラ連中が主人公格であるところから、ヤクザ映画の宇宙版でもある。これぞ日本ならではのスペースオペラのあり方だろう。

 「スペースオペラ」という呼び名は、舞台を宇宙にしただけで、その内実は安っぽいメロドラマの「ソープオペラ」や、安直な西部劇の「ホースオペラ」のようなものという意味で付けられた蔑称だが、安っぽい西部劇の宇宙版で上等だ。スペースオペラファンとしては、それで全然構わない。安っぽくても作品が量産されてこそ、傑作も生まれ得るというものだ。
 したがって、米国のスペースオペラが西部劇の宇宙版と目されてきたのなら、日本のスペースオペラは堂々と時代劇の宇宙版やヤクザ物の宇宙版を標榜すべきだ。

 それに、ジョージ・ルーカスは黒澤明監督の時代劇映画を下敷きにスター・ウォーズ六部作を撮り、ライアン・ジョンソン監督は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のストーリー作りの参考に五社英雄監督の『三匹の侍』をスタッフに観せたくらいだから、時代劇の本家本元たる日本の映画会社こそスペースオペラ作りに打ってつけといえよう。

 ただし、単に時代劇を宇宙に持って行っただけではスペースオペラにはならない。さすがに異星人が羽織袴を着るわけにはいかない。
 そこで『宇宙からのメッセージ』をよく見ると、ガバナス帝国関連の美術にはフィリップ・ドリュイエ風の意匠が凝らされていることに気づく。つまり、バンド・デシネ(フランスやベルギーのマンガ)に学んで異世界風味を出しているのだ。

Salammbô, L'intégrale (フランス語) AlbumSalammbô, L'intégrale (フランス語) Album フィリップ・ドリュイエはフランスのマンガ家で、異世界を描く独特のタッチで知られる巨匠である。日仏文化サミット'85だったと思うが、日本からマンガ家代表として手塚治虫氏が参加した際に、フランスのマンガ家を代表したのがフィリップ・ドリュイエだった。風忍氏はフィリップ・ドリュイエの影響を受けてマンガ『地上最強の男 竜』を描いたというし、テレビアニメ『ゴワッパー5 ゴーダム』(1976年)の地底魔人側の美術もフィリップ・ドリュイエ風だったように、日本のマンガ・映像関係への影響は決して小さくない。

 米国発の『スター・ウォーズ』に対抗するため、日本の時代劇の様式とヨーロッパのマンガ独特の美しさを融合させたのが、『宇宙からのメッセージ』だったのだ。これはもう、『スター・ウォーズ』の亜流どころの話ではない。


■宇宙からのメッセージ

 そのメッセージも感動的だ。

 『南総里見八犬伝』の八犬士が「仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌」の八つの徳目(仁義八行)の霊玉を一つずつ持ち、それぞれ優れた人格者であるのに対し、リアベの勇者となるアロン、シロー、メイアは宇宙パトロールをきりきり舞いさせて喜ぶ宇宙暴走族だ。ジャックはどうしようもないチンピラで、アロン、シローと組んでエメラリーダを売り飛ばしてしまう。はみ出し者が改心してヒーローになる話はよくあるが、人身売買までする人間のクズは珍しい。
 そんな彼らにもリアベの実は現れてくれて、人間はどこまで堕ちてもやり直せることを教えてくれる。

 さらにガバナス帝国の皇位継承者でありながら皇位を簒奪され追放されていたハンス王子と、堕落しきった地球連邦軍に愛想を尽かしたゼネラル・ガルダにもリアベの実は現れる。ジルーシア人を助けるリアベの勇者に彼らが加わることで、本作は「ジルーシア人対ガバナス人」という民族対立でもなく、「地球連邦対ガバナス帝国」という国家間の戦争でもなく、圧制(ガバナス帝国)と腐敗(地球連邦)を嫌う者たちが自由のために立ち上がる物語になっていく。これは当時大ブームを起こしていた『宇宙戦艦ヤマト』の「地球人対ガミラス人」「地球対ガミラス帝国」という図式を打ち破るものであった。

 また、聖なるリアベの実が勇者の許に出現したり、リアベで編んだ輪でガバナス要塞の弱点を突き止めたりすることから判るように、ジルーシアの文明はガバナスや地球の機械文明とは大きく異なる。それは自然と調和し、自然のもたらす力に支えられた、精神文明のようなものだ。本作の原案者・石ノ森章太郎氏が好んだ対比法だが、本作においてはこの二つが大和民族(和人)とアイヌらとの隠喩であることは容易に知れよう。だからガバナス帝国の皇帝ロクセイア12世や太公母ダークは、西洋風の名前にもかかわらず、「いざ、地球征服の詔(みことのり)をお出しなされ」などと朝廷のような話し方をする。そして、彼らの野望の前に立ちはだかるのは、団結した「まつろわぬ民」なのだ。


 戦い終わって、リアベの勇者とジルーシアの人々を歓迎するという地球連邦評議会議長の言葉を振り切り、彼らは新しい国作りのために宇宙の彼方へ旅立つ。
 革命で古い政権を倒し、新しい国作りに邁進する、そんな時代の残り香が漂う1970年代らしい終わり方だろう。当時は「地上の楽園」と謳われた国への「帰国事業」が行われていた時期でもある。

 21世紀に生きる私たちは知っている。どんなに旅を続けても、理想の国はないことを。「地上の楽園」はどこにもなかった。
 だからこそ、いま70年代のメッセージが胸に響く。地球に戻れば勲章を貰えたかもしれない、その誘惑を退け、新しい国を作ろうとする素朴な理想主義に心を打たれる。その国は宇宙の彼方にあるのでないのだ。それは私たちの心の中にあるのだ。腐敗への誘惑を断ち切り、理想を掲げ、自分たちで作っていくのだ。それが難しいことを知ればこそ、それでも理想を掲げる心意気が感動的だ。
 ゼネラル・ガルダは云う。「我々はちっぽけな存在にすぎないが、せめて夢だけは無限でありたい。」
 夢と希望を詰め込んだお伽話の形で語りかけるもの、それが『宇宙からのメッセージ』なのだ。


宇宙からのメッセージ [DVD]宇宙からのメッセージ』  [あ行]
監督・原案/深作欣二
脚本・原案/松田寛夫  原案/石森章太郎、野田昌宏
出演/ビック・モロー 志穂美悦子 フィリップ・カズノフ ペギー・リー・ブレナン 真田広之 岡部正純 千葉真一  成田三樹夫 天本英世 佐藤允 織本順吉 丹波哲郎 三谷昇 サンダー杉山 中田博久 小林稔侍 林彰太郎 ウィリアム・ロス
日本公開/1978年4月29日
ジャンル/[SF] [アクション] [ファンタジー]
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【genre : 映画

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200万光年の彼方、アンドロメダ星雲の惑星ジルーシアから、奇跡の願いをこめて放たれた8つの「リベリアの実」をうけて、8人の勇者は立ち上がった。
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