ホーム > 情報セキュリティ > 日本のネット選挙はビッグデータの草狩り場になるか?

日本のネット選挙はビッグデータの草狩り場になるか?

 

ネット選挙:全面解禁へ

2013年2月5日の夕方以下のような報道が流れた。

ネット選挙:全面解禁へ 夏の参院選から適用
http://mainichi.jp/select/news/20130206k0000m010057000c.html

新経済連盟が参議院議員会館にて同日開催した「シンポジウム インターネットを使った選挙運動の解禁に向けて」の内容を受けての記事だったようだ。

シンポジウムの内容は以下のUstream Live(録画)で見ることができる。

新経済連盟主催「シンポジウム インターネットを使った選挙運動の解禁に向けて」
http://www.ustream.tv/recorded/29051348

録画の内容を見る限りは出席していない社民党をのぞき各党大筋賛成だが各論についての具体的な協議はこれからという印象を受けた。そのため上記毎日新聞の「インターネットによる選挙運動を全面解禁する公職選挙法改正案が今国会で成立する見通しになった。」は少し勇み足だと感じている。

個人的にはネットで選挙に関する十分な情報にアクセスできず不便と感じてきたので、この流れには全面的に賛成である。様々な課題はあると思うがぜひとも今年の選挙では実現して欲しいと思っている。

その実現に向けた具体的な調整はこれから行われると思うので早いうちに懸念事項などを洗い出しておく必要があるだろう。(法案を提示している各政党や団体ではすでに検討はされてはいると期待するが。)上記のシンポジウムでも懸念事項として、なりすまし、誹謗中傷、サイバー攻撃、サービス妨害などが挙げられプロバイダ責任制限法による対応などの議論が行われていた。ここ数日ちょうどネットを使った選挙運動が解禁されるとどういうことが起こりうるかということを考えていたので気になっていた事項でシンポジウムで触れられていなかった点について忘れないうちにアップしておく。

■ビックデータを活用した選挙運動

2008年の米国大統領選において当時ほぼ無名の新人上院議員であったオバマ氏が勝利を収めることができたのはSNSや動画サイト、電子メールなどインターネットと情報技術を巧みに利用した選挙戦略に負うところが大きいと言われている。当時のIT活用を中心とした選挙対策の様子は書籍「『オバマ』のつくり方 怪物・ソーシャルメディアが世界を変える」に詳しい。

「オバマ」のつくり方 怪物・ソーシャルメディアが世界を変える(ラハフ・ハーフーシュ (著), 杉浦茂樹, 藤原朝子 (翻訳) , 2009)
http://www.amazon.co.jp/dp/448409116X

専用のSNSサイト MyBOを立ち上げ支援者のコミュニティを構築。ゲーミフィケーションの要素を取り入れながらカジュアルに参加した市民を強力な支援者に育てていく。マイクロペイメントの仕組みを使ってより多くの人から10ドル単位で小額寄付を受け付け結果的に大規模な選挙資金を獲得する。コールセンターアプリケーションを支援者にインストールさせて知人への協力要請の電話を可視化して集中管理。郵便番号などの属性をもとに支援者のマイクロターゲティングを行い適切な時期に適切な地域の支援者に対する携帯メール送信を通じてイベントに動員するなど。ソーシャルメディアをはじめとする様々なテクノロジーを駆使したマーケティングの戦略と技術は5年前とは思えないほど洗練されていた。そのオバマ大統領が2012の大統領選で再選を果たしているがこの際にも2008年の選挙活動を支援したチームがさらにその手法を洗練させ、有権者に関するビックデータの分析により効率的な選挙戦運営を行ったと言われている。

バラク・オバマ版『マネーボール』 大統領選勝利の鍵はビッグデータの徹底活用(三国大洋, ZDNet Japan, 2012/11/08)
http://japan.zdnet.com/cio/sp_12mikunitaiyoh/35024226/

IT・選挙・戦略:内製のオバマ大統領、外注のロムニー候補(三国大洋, ZDNet Japan, 2012/11/22)
http://japan.zdnet.com/cio/sp_12mikunitaiyoh/35024785/

日本におけるネット選挙への対応について今後各政党や候補者がどこまで本気で取り組むか、上記の米国大統領選のようなテクノロジーを駆使した大規模マーケティングキャンペーンが行われるかは不明だが、こういった技術の応用が候補者や政党にとって大きくプラスに働くことは間違いないだろう。こういった活動についてはおそらくプライバシ上の懸念や個人情報の取扱といった問題が生じてくる。そこで気になるのが個人情報保護法の第五十条1項に示された個人情報取扱者に関する例外及び第三十五条の主務大臣の権限行使の制限に関する規定である。

■選挙運動で使用する有権者などのデータは個人情報保護法の対象外


個人情報の保護に関する法律(平成一五年五月三十日法律第五十七号)

http://www.caa.go.jp/seikatsu/kojin/houritsu/index.html

第五章 雑則  (適用除外)

第五十条 個人情報取扱事業者のうち次の各号に掲げる者については、その個人情報を取り扱う目的の全部又は一部がそれぞれ当該各号に規定する目的であるときは、前章の規定は、適用しない。
(略)
五 政治団体 政治活動(これに付随する活動を含む。)の用に供する目的

前章の規定とは「第四章 個人情報取扱事業者の義務等」の規定である。

第三十五条 主務大臣は、前三条の規定により個人情報取扱事業者に対し報告の徴収、助言、勧告又は命令を行うに当たっては、表現の自由、学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由を妨げてはならない。
2 前項の規定の趣旨に照らし、主務大臣は、個人情報取扱事業者が第五十条第一項各号に掲げる者(それぞれ当該各号に定める目的で個人情報を取り扱う場合に限る。)に対して個人情報を提供する行為については、その権限を行使しないものとする。

これらの条文によって選挙活動に使用する個人情報は個人情報保護法に定められた個人情報取扱事業者に対する制限や義務の対象とならないとされている。つまり選挙運動で使用される個人情報については実質的に個人情報保護法の枠組みからは外れた取扱が可能となってしまう。例えばある事業者が保有する個人情報を支援する政党に本人の同意無く提供したとしても、政党側の取得に関しては問題はないことになる。提供した事業者側には目的外利用や第三者提供などの問題があるように思われるが、これに対して行政機関の権限行使を行うことはできないとされている。他にも、ある政党や候補者を応援するスマートフォンアプリケーションを配布し、利用者の同意をとった上でスマートフォンの電話帳に登録されている第三者の個人情報である電話帳データを読み取り、政党の本部の支援候補者データベースに登録。その電話番号なりメールアドレスに対して支援や献金を求めるような要請が送られるなどといったことも法的には可能となる。

■選挙運動における個人情報およびプライバシの保護についてのルールが必要では?

今後ネットを使った選挙活動が活発化するということになれば意欲的な政党は有権者のデータベースを構築し個人のプロファイルと活動の履歴を継続的に維持管理し選挙の都度支援や投票の呼びかけに応用することも考えるかもしれない。
これまで個人情報やプライバシ保護の政策は選挙などの政治活動と切り離して考えられてきたと思われるが、候補者の支持政党や政治的な思想あるいはそれらに結びつくような情報は機微なプライバシ情報にあたるケースが多いこともあり、これらの取扱についてなんらかのガイドラインなり法的な枠組みが必要なのではないか。

先に挙げた「『オバマ』のつくり方 怪物・ソーシャルメディアが世界を変える」ではオバマ大統領の選挙戦対策のリーダーの一人の言葉として次の言葉が挙げられていた。

「オバマ」のつくり方 怪物・ソーシャルメディアが世界を変える(ラハフ・ハーフーシュ (著), 杉浦茂樹, 藤原朝子 (翻訳) , 2009)
http://www.amazon.co.jp/dp/448409116X

「選挙活動で重要なのは、短時間で何が何でも勝利を収めることだ。これは消費者と継続的な関係を築きたい企業と、明確な期限のある選挙活動の大きな違いだろう。」

カテゴリー: 情報セキュリティ タグ:
  1. コメントはまだありません。
  1. トラックバックはまだありません。

CAPTCHA