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隅田川立坑(概説・現地写真) - 京葉線新東京トンネル(12)
公開日:2010年01月12日00:01
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■隅田川立坑:1km839m78~1km858m38(L=18.60m)
▼参考
京葉線工事誌 463~500・1020・1021ページ
工期:1968(昭和61)年5月~1988(昭和63)年3月(シールド工事は1990(平成2)年5月まで)
●概説
隅田川立坑の位置
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(平成元年)に筆者が加筆
京葉線は隅田川の下をくぐり終えると、隅田川西岸(中央区側)の直後に設置された隅田川立坑を通過する。この隅田川立坑は前回の記事で触れた通り、中央区新川地区の再開発・高規格堤防(スーパー堤防)整備用地の一部を利用して設置され、工事中は先述の隅田川トンネル上り線と本記事で後述する新川トンネル上下線の合計3本のシールドトンネルの発進立坑と隅田川トンネル下り線のシールドトンネル到達立坑として使用された。完成後は保守および非常用の階段を設置している。
この付近は地下の浅い部分に軟弱なシルト層が、深い部分に被圧地下水を持つ東京礫層などがそれぞれ分布している。そのため、立坑掘削時はまず立坑の外枠となる部分に予め地上で製作した板状の地中連続壁を打ち込み、強固な土留め壁を形成した。一方この時、立坑北側には隣接して東京住友ツインビル(地上24階・地下3階)が建設中であり、基礎および地下階の構築のため地表面下14.6mまで掘削が行われていた。この状態で立坑の地中壁を施工すると地盤にかかる荷重の違いから地中壁が東京住友ツインビル側に傾く恐れがあった。そのため、敷地境界部は円柱状の部材を並べて打ち込む柱列式地中連続壁(SMW)を追加し、地中壁を2重にすることで強度を維持した。また、この東京住友ツインビルの基礎杭先端は隅田川立坑の軌道階の中間(海抜-28m)に位置し、立坑躯体との離隔も2.5mと非常に接近している。そのため、この部分については杭先端を2.5~5.5m深くし、立坑掘削に伴う沈下を防止した(東京住友ツインビルに施工を委託)。
なお、立坑の設置位置としてこの場所が選ばれた理由には、再開発用地であることのほかに掘削残土の搬出がしやすいということがある。すなわち、目の前にある隅田川に専用の運搬船を通すことができるため、都心部の道路渋滞などを一切考慮することなくスムーズに残土の搬出ができるというわけである。なお、ここから搬出された3トンネル分の残土は羽田沖にある埋め立て処分場(=中央防波堤?)に廃棄している。
立坑内に設置された非常階段と制水門の構造
(京葉線工事誌487ページ・図3-6-19および1021ページ・図5-6-22を元に作成)
注:右図では制水門が下り線側にしか無いように描かれているが、実際は上り線側にも設置されている。
実はこの隅田川立坑、トンネル防災上とても大切な役割を果たしている。それはトンネル内への浸水を防止する制水門(防水扉)の設置スペースである。これは隅田川地下を横断する認可申請に対し、東京都建設局から設置を義務付けられたもので、隅田川下流部のゼロメートル地帯を通る他の地下鉄でも一部を除き脚注1設置されている。
この隅田川立坑では川面から軌道面まで34mと非常に深く、高水圧に耐える必要があることから防水扉1基の総重量は70トン(扉本体だけでも38トン)と極めて大きなものとなったため、従来用いられてきた開き戸ではなく扉本体が上下に動く方式を採用した。扉閉鎖時は動作範囲内にある架線が支障となるため、当初はこの部分を収納式の剛体架線脚注2とすることも考えられた。しかし、列車速度が制限されることや動作回数が非常に少ないことから通常のカテナリ吊架式架線とし、動作時は扉の重量で架線を切断することとした。
ちなみに、この防水扉は地上が大洪水となってトンネル内にその水が流入した際、トンネルを伝って被害が拡大するのを防ぐものであると広く言われている。もちろん、この隅田川立坑の防水扉はその役割も担っており、国土交通省の各種発表でもそのように謳われている。しかし、もう1つ別の役割も果たしている。それはトンネル天井に穴が開き、そこから川の水が直接流入した際それを遮断するというものである。人間の作ったものに絶対は無いとはよく言われることだが、このトンネル区間についても未知の活断層の存在や爆破テロによる人為的なトンネルの破壊などあらゆる可能性を考え、このような厳重な対策がなされているのである。なお、川の対岸には防水扉が無いが、これは都心方向へ水が流入した場合のほうが被害が大きくなること(都心方向は駅を介して他の地下鉄各線やビルの地下階と繋がっているため、いったん浸水が始まると無関係な施設まで被害が拡大する恐れがある)、対岸でトンネル内の流入水が地上に噴出する恐れがある箇所には全て防水扉が設置されていることから省略されたものである。
●現地写真
(すべて2009年8月16日撮影)
リバーシティ21新川の前にある隅田川立坑入口
トンネル建設時、隅田川立坑の周囲にはシールド用の坑外設備が設置されており、工事終了後はその跡地にUR(都市再生機構)の高層マンション「リバーシティ21新川」が建設された。立坑への出入口はその玄関前にあり、マンションの外観に合わせたデザインになっている。立坑本体は写真右側の公園地下にあるため、地上からその存在を知ることはできない。そのため、この入口だけを見ても倉庫か何かにしか思えないが、扉の脇にJRのマークが描かれた鉄道電話があることから、この施設が鉄道に関係するものであることが分かるだろう。
越中島駅上り線東京方に設置されている特殊信号機(丸で囲んだ部分。その右下は通知運転指示器。)
立坑本体は駅間にあるため一般人が見ることはできない。だが、立坑両隣の越中島・八丁堀の両駅端には概説の項で述べた防水扉が動作した際列車の進入を防止するため、写真のような特殊信号機(通称:トウモロコシ)が設置されており、この駅間に特別な施設があることを伺わせている。
▼脚注
脚注1:唯一の例外は当ブログで以前レポートした総武快速線隅田川トンネルである。
脚注2:「剛体架線(ごうたいかせん)」銅レールなどにトロリー線(パンタグラフが接触する部分)を固定したもので、スペースが削減できることから地下鉄で多用される。しかし、通常の架線のように柔軟性がないため、パンタグラフの追従性が悪く高速走行はできない。(2002(平成14)年に廃止された普通鉄道構造規則でも走行速度は90km/h以下と規定されている。)
▼参考
東京ゼロメートル地帯における地下鉄道開口部浸水対策の概要(国土交通省河川局ゼロメートル地帯の高潮対策検討会)
東京メトロの水害対策(内閣府主催 - 第4回大規模水害対策に関する専門調査会資料)
→東京メトロ・都営地下鉄のトンネル防水扉設置について
※2011年7月30日:概説の項目を一部修正
(つづく)
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