IT業界は定義が曖昧な言葉が多い。例えば「人工知能(AI)」は、どんな技術を使っているのか判断できない。深層学習を使っていればAIだと言う人がいれば、ルールエンジンを組み込んだシステムをAI搭載システムと呼ぶ人もいる。技術は関係なく、なにかを自動で判断するシステムならAIだと言う人もいる。

 人によって呼び方が違う製品やサービスを記事にする時は、どうやって表現しようかいつも悩む。この記事で取り上げようと考えたサービスも企業によって呼び方が違う。悩んだ結果、ここでは「専有クラウド」と表現することにした。

 筆者が専有クラウドと呼ぶのは、物理サーバーを特定の企業が専有して使うクラウドのことだ。一般的なクラウドは複数の利用者に共有の計算資源を提供するため、1台の物理サーバーを複数の利用者が同時に使う。専有クラウドはサーバーを専有するため、1台のサーバー上で動くシステムは契約している企業のサービスだけだ。専有クラウドやプライベートクラウドと区別するため、一般的なクラウドはパブリッククラウドとも呼ぶ。

 MM総研の調査によれば、この専有クラウドの市場が日本で拡大している。2015年度(2015年4月~2016年3月期)の国内クラウド市場は、専有クラウドを含むプライベートクラウドが7352億円で、パブリッククラウドの市場規模(2756億円)の2.7倍。専有クラウドの市場成長が著しく、プライベートクラウドの市場規模は2020年度(2020年4月~2021年3月期)に2兆7644億円となり、パブリッククラウドの2020年度市場規模(6238億円)の4.4倍になるとの予測だ。

専有クラウドのメリットが分からない

 市場規模が拡大すると判断して専有クラウドに注力する企業は少なくない。その1社がレッドハットだ。望月弘一社長は2017年4月20日の戦略発表で「プライベートクラウド領域に特に力を入れていきたい」と話した。同社は専有クラウドを「プライベートクラウド・アズ・ア・サービス」と呼び、サービスを運営したい事業者向けにIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)基盤の構築ソフト「OpenStack」やコンテナ基盤の構築ソフト「OpenShift」を売り込むという。

レッドハットの望月弘一社長
レッドハットの望月弘一社長
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 戦略発表に参加した筆者は、専有クラウドを使う理由が想像できなかった。レッドハットが専有クラウドを「インフラの管理を事業者に任せたプライベートクラウド」(望月社長)と表現したからだ。

 パブリッククラウドではなくプライベートクラウドを使う理由として筆者が最もよく聞くのは、個人情報などの機密データの管理を外部企業に任せられないというセキュリティポリシーだ。ところが専有クラウドではデータセンター事業者にインフラの運用を任せていて、パブリッククラウドと変わらない。

 専有クラウドを使う企業は何を求めているのか。コスト的メリットでは無いのは明らかだ。専有クラウドはサーバーを専有するためサービス利用料は割高になりがちだからだ。

 望月社長に疑問を投げかけると、専有クラウドは「セキュリティを高めやすい」との回答を得た。まるでパブリッククラウドのセキュリティに問題があるかのようにも聞こえる。これはクラウドを運営するベンダーにも聞いてみなければならない。