日本のIT業界には「SE(システムエンジニア)」と称する不思議な職種がある。こう書き出すと、「何をバカなことを言っているのか」と笑う読者と「また、あの話か」と呆れる読者もいることだろう。だが、少しお付き合いいただきたい。そして、あなたが「SE」と名乗っているのなら、エンジニアなのか、ワーカーなのか自問してほしい。本当はどちらでもなかったりして。

 SEという職種の不思議さについては、以前この「極言暴論」で言及したことがある(関連記事:技術者をプロジェクトマネジャーにするな)。「何をバカなことを言っているのか」と思う人はそちらも参照していただきたいが、その話を簡潔に言えば、SEは日本でしか通用しない職種であるということだ。しかも、その日本ですら正式な職種としては認知されていないのだ。

 米国などの技術者に会う機会があれば、試しに「私の仕事はSEです」と言ってみるとよい。おそらく相手は怪訝な顔をするだろう。「アーキテクトやプログラマー、プロジェクトマネジャーなら分かるが、SE、システムエンジニア(英語風に言えばシステムズエンジニア)って何だ」。きっとそんな質問が返ってくることだろう。

 「米国では職種の専門分化が進んでいるから、SEという大くくりの職種が無いだけじゃないの」。そう思った読者は半分正しい。だが日本でも、そうした大くくりな職種は正式には存在しない。経済産業省が定めるITSS(ITスキル標準)を読んでみるとよい。アーキテクトやプロマネなどの職種については役割やスキルが記載されているが、SEに関する記載は無い。

 しかも噴飯モノなのは、下請け専門のITベンダーなどでは、コンピュータサイエンスを学んだことの無い文系の若者にまともな技術者教育を施さず、SEの肩書きを与えて客先に送り出している。よくそんな詐欺同然のことができるな、と呆れてしまう。だが噴飯モノと書いたが、実は大手ユーザー企業のIT部門やIT業界の大半のSEも似たようなものではないか、と私は思っている。