誰がいつから使い出したのか分からないが、自分の居場所に立てこもって周囲と協力しない組織を指して「蛸壺」と呼ぶことがある。『広辞苑』を引くと「縦に深く掘った一人用の塹壕」と書いてあったから本来は個人に対して使う言葉のようだが、組織を蛸壺と呼ぶ場合、縦割り組織の弊害や縄張り争いあるいは組織間の断層と同じ意味になる。セクショナリズムと言ったり「サイロ状態」と評したり、片仮名で書く言い方もある。

 蛸壺の指摘は大抵の組織に当てはまる。情報システムを構築しようとすると蛸壺にすぐ突き当たる。営業部門、商品企画部門、製造部門いずれも自分の蛸壺に関する要求を一方的に述べるだけでシステムの仕様を調整する会議への参加を渋る。

 情報システム部門だけを見ても、本社の企画担当者、システム子会社の開発部門、運用部門、協力開発会社、いずれも蛸壺に入っている。運用部門だけを見ても、サーバーやルーターといったITインフラの担当者は、電源や空調設備やラックやビルのフロアーなどファシリティの担当者と連携が案外できていない。後者は総務部門あるいはビル管理会社など別の蛸壺だからである。