大地震の発生後、Twitterをはじめネット上では「自分にいま支援できることはないだろうか」という空気が満ちていた。焦りにも似た気持ちを抑えながら机に向かって編集作業を続けていると、「日本Androidの会 関西支部 チャリティーアイディアソン 被災者がんばれ!一般の人のアイディアをデベロッパへ託せ!」といったTwitterの“つぶやき”が流れてきた。地震発生の3日後のことだ。Androidに興味を持つユーザーが集まるコミュニティ「日本Androidの会」関西支部のメンバーが、被災者支援のためのAndroidアプリのアイデアを出し合おうと提案したものだった。
同様な動きがグーグル界隈からも発生していた。ITによる被災地支援プロジェクト「Hack for Japan」だ。「復興支援のための開発者イベント“ハッカソン”を実施しようと企業の枠を越えたエンジニア間で自然と話が持ちあがってきた」(中心となって活動した及川卓也氏)。3月15日から知り合い伝いに輪が広がり始め、Twitterで公開したころから一般の人々も賛同者として加わった。3月19日と20日の2日間、被災者支援のためのサイトやサービスを作るアイデアを出し合う「アイディアソン」を開催し、80件超のアイデアが捻り出された。自分は書籍編集の締め切りに追われていて、何もできずにこれらの活動をオンラインでただ眺めていたのだが――。
日本Androidの会関西支部が中心となったチャリティーアイディアソンの活動はHack for Japanと合流し、既に成果物も現れている。4月6日時点で、AndroidアプリケーションやWebサイトなどを構築する約50件のプロジェクトが立ち上がり、少なくとも6件は実際に使えるものとして公開されている。
例えば、Androidアプリの「WiFiMap(ワイファイマップ)」。被災地にいるAndroidユーザーが無線LANアクセスポイントの強度を調べて歩くと、無線LANが利用可能な場所を自動で地図上に記録するものだ(写真1)。
同じくAndroidアプリである「デマだったー」はTwitterクライアントの「twicca」のプラグインで、デマと思えるつぶやきに対して、ほかの人からデマ報告が何件あるかを確認できるようになっている(写真2)。デマ報告する機能もあり、報告実績を集約したデマ・ランキングも表示する。
こうしたボランティアの人たちが作っているものは、ある意味、情報システムだ。サーバーにデータを蓄積して必要に応じてクライアントに表示でき、多くのユーザーが使えるものになっている。だが、開発コストは、ボランティアの方々の工数や持ち出しの費用が主で、ほかはゼロに近い。その工数も、WiFiMapでは開発者3人が1週間で作成し、約10人日と少ない。デマだったーは、twiccaプラグインのV1が3人で10時間、Webブラウザー版も含むV2は7人日で開発している。驚くほどの迅速さで情報システムを作ったわけだ。
急を要していたとはいえ、なぜこれほど短期にシステムを作れるのか――。従来のシステムと異なる点は、3つある。