先週のIT業界の話題といえば、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長の“引退”。まだ50歳だというのに、2年後にビジネスの第一線から退くなんて、どういうことよ、と思っていたら、別の意味で「どういうこと!」というニュースが目に止まった。経産省主導でGoogle対抗の検索エンジンを開発するというもので、やはり先週末の記事だ。うーーん、思考停止・・・。
思考停止のままでは困るので、話を進める。ゲイツ引退の話では、かなり強引だが、6月17日付の日本経済新聞、『米IT「世代交代」加速』という記事が面白かった。ゲイツ会長と同じく50歳で、あのLotus Notesの開発者であるレイ・オジー氏にCTO(最高技術責任者)の座を譲ることが、なぜ世代交代なのか、といった野暮なツッコミはよそう。この記事の真意は、IBM型からマイクロソフト型へ、マイクロソフト型からグーグル型へ、というビジネスモデルの世代交代を言いたいようだ。
で、そのグーグルが日本を席巻することに危機感を抱いた経産省が政策化したのが、オールジャパンによるGoogle対抗の検索エンジンの開発らしい。しかし、それって思いっきり“旧世代”の発想。グーグルの強さは、なにも検索技術だけにあるのではない。むしろ、そのビジネスモデルやマーケティングにこそ、その源泉がある。Web2.0のトレンドを作り出し、自らもそれに乗って新しいビジネスを次々と生み出す企業に、官僚と旧世代の企業が集まって、いったいどうやって対抗しようというのだろうか。
考えてみれば、日本のIT産業の歴史は“政策的介入”の歴史だった。IBMの勃興期には、旧通産省が“日の丸コンピュータ”を作るために、メーカーを強力に指導した。これはある程度うまくいったが、自動車産業などと違い、世界でまともに戦えない二流の産業を作るところにとどまった。マイクロソフトの勃興期には、オールジャパンで対抗OSを作り、政治的に普及させようとして、米国に政治的につぶされた。
さて、サプライサイドだけでなく、消費者などデマンドサイドが大きな力を持つWeb2.0の時代には、サプライサイドに働きかける政策的介入をやったところで、何の意味もない。税金の無駄遣いである。すべてグローバルな自由競争に任せるべきであり、その結果、日本市場をグーグルに席巻されても、それだけの話だ。
マイクロソフトがそうであったように、グーグルも巨大化し寡占化すると、グローバルな社会インフラとなって身動きが取れなくなるだろう。そして、そのインフラを苗床に新しいビジネスが育つ。IT産業はその繰り返しである。グーグルを“第二のマイクロソフト”と呼ぶのなら、“第二のグーグル”もそうした中から生まれてくるだろう。
だから、マイクロソフトやグーグルなど強力な企業、強力なビジネスが現れたからといって、周回遅れでそのビジネスモデルを模倣し、彼らと同じ土俵で戦おうとするのは間違いである。彼らのビジネス、製品・サービスをインフラとして活用して、新しいビジネスを創造した方がよい。幸いなことに、旧世代の企業と異なり、その当たりの理屈をよく分かっているベンチャー企業が日本にも多数ある。ひょっとしたら、第二のグーグルはそうした日本企業の中にいる可能性だってある。
ところで、マイクロソフトのゲイツ会長は、その当たりのことをどのように考えているのだろうか。自身のマイクロソフト製品・サービスへのこだわりが、将来のマイクロソフトの禍根となると考えていたとしたら、マイクロソフトのさらなる成長のために自身の“解任”が必要と考えていたとしたら・・・ビル・ゲイツという人は本当にすごい経営者である。