NTTデータと野村総合研究所(NRI)は2012年5月21日、「ITと新社会デザインフォーラム2012」を開催した。同フォーラムは、ITサービス産業が抱える問題を議論するという趣旨の下で両社が3年にわたって共催してきたイベント。3年目の今回が最後となる。
いつもは競合する間柄のNTTデータとNRIがフォーラムを共催したのは、ITサービス産業における問題意識が共通していたためだ。その中で、一つのテーマとして語られたのは、フォーラム名の一部にもなっている「デザイン」。ITサービス産業には、技術担当者である「ギーク」とビジネス担当者の「スーツ」が存在するが、「ここにデザイン型人材も加えることでイノベーションが促進される」とNRI 取締役会長の藤沼彰久氏は語る(写真1)。
デザイン型人材が加わると、業界はどう変わるのか。NTTデータ経営研究所 パートナー コンサルティング事業部門長の三谷慶一郎氏は、エッフェル塔の建築に関わったギュスターヴ・エッフェル氏や、国立新美術館の設計者である建築家の黒川紀章氏を例に挙げ、「作られた情報システムにその人の名前が付くような世界になると、この業界は劇的に変わる。作った人物の名前が表に出てくることは非常に大切で、そこに新たな価値が生まれる。ITサービス産業も、建築業界のような作家性のある世界に近付くことができればと思う」と話す。
3回にわたり共催されたイベントにいったん区切りをつけ、2社がまた別々の道を歩いていくのも、デザイン性を重視するためだ。NTTデータ 代表取締役社長の山下徹氏は、「顧客がA社とB社にシステムを発注した場合、出来上がりは両社とも同じで、違いはコストや納期だけということでは意味がない。今回のフォーラムを通じて伝えたかったのは、A社とB社で違いのあるものを作らなくてはいけないということ。そのコンセプトを普及させるためにも、また顧客の選択肢を広げるという観点からも、われわれが引き続き一緒に何かをするのではなく、現場で競い合うべきだ」と述べた(写真2)。
「われわれのようなITサービスを提供する企業が提案型に変わらなくてはならないと言われて久しいが、実際にどう変わるべきか見えてきたのは今回のフォーラムの成果。これからは具体的な成果を生み出していきたい」と山下氏。一方の藤沼氏は、「私はすでに現場から退いてしまったが、30歳若返った気分でデザイン型人材として生まれ変わり、エバンジェリスト的役目を果たしたい」と述べた。