総務省とインターネット関連団体で構成するIPv4アドレス枯渇対応タスクフォースは2008年10月6日,第1回「IPv4アドレス枯渇対応テクニカルセミナー」を開催した。この中で,テレコムサービス協会 政策委員会副委員長,NEC 企業ソリューション企画本部エグゼクティブエキスパートの今井恵一氏は,「IPv4アドレス枯渇!その時,データセンターに何が起きるか?」と題し,データ・センターでのIPv4アドレス枯渇対策とその課題を解説した(写真1)。
今井氏は,データ・センターを「インターネットにサーバーを接続してサービスを提供する事業者」と定義。さらにデータ・センターの事業モデルを,(1)B2Cモデル,(2)B2Bモデル,(3)inBモデル――三つに分類した(図1)。(1)はECサイトのように,データ・センターのサーバーからコンシューマに対してサービスを提供するタイプの事業。(2)はいわゆるSaaS(software as a service)で,データ・センターのサーバーから複数の企業ユーザーにサービスを提供する。(3)は企業のサーバーをデータ・センターにアウトソースするタイプである。同氏は,それぞれについてIPv4アドレス枯渇時の対策や課題を説明した。
まず同氏は,IPv4アドレス枯渇時の前提として,次の3点を挙げた。
・インターネット接続事業者(ISP)は新規加入者にIPv6とプライベートIPv4アドレスを割り当てる
・新規加入者がプライベートIPv4アドレスで既存のグローバルIPv4アドレスのサーバーにアクセスできるように,キャリア・グレードNATによるサービスを提供する
・企業内ネットワークについては当面はIPv4のままで,IPv6化は進まない
そのうえで同氏は,(1)のB2Cモデルの場合の問題点を,サービスに制約が生じることだとした(図2)。具体的には,新規サーバーに割り当てるグローバルIPv4アドレスがない場合,IPv6アドレスを使わざるを得ない。すると,IPv4アドレスしか持たないコンシューマがサーバーにアクセスできなくなる。この場合,「6to4」や「Teredo」といったトンネリング技術を使う必要が出てくる可能性がある。
(2)のSaaSの場合は,企業ユーザーを対象にするため(1)よりも対策を講じやすいが,IPv4とIPv6を共存させるための仕組みが別途必要になる。実際には,新規サーバーにIPv6アドレスを割り当てるか,プライベートIPv4アドレスを割り当てるかで必要な対策は異なる。IPv6アドレスを割り当てる場合,IPv4のままの企業内からアクセスするために,トランスレータ(IPv4-IPv6のNAT)が必要になる(図3)。このためのNAT装置は,SaaS事業者側が提供することになるだろうと予想する。これに対して新規サーバーにプライベートIPv4アドレスを割り当てる場合は,IPv4 over IPv6のトンネリング技術を利用する方法が考えられる。この場合は,データ・センターと企業ユーザーの両側にトンネル用の装置を置く必要がある。
(3)のinBモデルは対応が容易だという。データ・センターのサーバーと企業が1対1になるので,IPv4 over IPv6のトンネルを張ればよい(図4)。こうした通信では,もともとそのままパケットをインターネットに送り出すことはなく,IPsecなどを使った暗号トンネリングを利用する。この場合,IPsecにIPv6を使えば済む。
データ・センターとISPの業界再編につながる可能性も
同氏は続けて,日本のアドレス管理団体であるJPNICからグローバルIPv4アドレスが調達できなくなったとき,どのようなことが起こるのか仮説を立てた。
まずISP系データ・センターと独立系データ・センターで大きな違いが生じる可能性を指摘した。ISP系データ・センターはコンシューマ向けのインターネット接続サービスも提供する事業者,独立系データ・センターはデータ・センター専業の事業者である。
ISP系データ・センターは,キャリア・グレードNATによってコンシューマ側のグローバルIPv4アドレスをプライベートIPv4アドレスに置き換える。そこで余ったグローバルIPv4アドレスをサーバー用に使い回すかもしれないという。一方,独立系データ・センターは,自社内でグローバルIPv4アドレスを調達できない。そこで,独立系データ・センターがISPを買収することでグローバルIPv4アドレスの獲得に乗り出す可能性を指摘した。逆に言えば,事業がうまくいっていないISPにとっては今が売り時ではないかとの見方も示した。
最後に同氏は,データ・センターの取り得る対策を三つにまとめた。(1)何もしない,(2)IPv4アドレスを調達,(3)IPv6への移行――である。
(1)の「何もしない」ということも,事業の現状を考慮したうえでの事業判断としてあり得るという。ただし,事業規模の拡大は望めない。
(2)は,いずれはIPv6に移行するとしても,当面はグローバルIPv4アドレスを調達することで事業を継続するという判断だ。この場合,データ・センター事業者は仲の良いISPからIPv4アドレスを融通してもらう,IPv4アドレスの取引市場が整えばそこから調達する,ISPを買収する,といった手段が考えられるという。
(3)の場合はやっかいだ。今井氏によれば,今はIPv6をどのようにネットワークに組み込むかを具体的に検討・評価し始めるべき時期に入っているという。サービスを提供するための様々なアプリケーションがIPv6でも動作するかどうかの検証も必要になる。コードの中にIPv4を前提にしている部分があったり,IPアドレスのデータベースが32ビット長で作り込まれていたりするケースも見受けられるという。
今後も事業拡大を狙うデータ・センター事業者は,(2)と(3)のリスクやコストを評価し,遅くとも2009年の早い時期に決めなければならないと締めくくった。