アドビシステムズは2008年2月27日、アプリケーション実行環境「AIR(Adobe Integrated Runtime)」の正式版を公開したと発表した。同日からWindows用とMac OS用それぞれの英語版について無償提供を開始した。日本語版やLinux版の提供は2008年半ばの予定。
AIRは、Web技術を使ったクライアント・アプリケーションの実行環境。アドビのマルチメディア処理技術であるFlashだけでなく、HTMLやAjax、PDFなど、現在Webブラウザが処理している画面周りの技術を一通りサポートしており、AIRはこれらを一手に引き受けて実行する。
AIR上ではWebブラウザと同等のWebアプリケーションが実現できる。加えて、ローカル・ファイルへのアクセスやクリップボード機能のサポートなど、クライアント側に実行環境を置いたAIRならではの特徴も備える。
パソコン側にあるExcelファイルとサーバー側のデータベースの両方を取り込んで画面上にグラフ表示し、PDFとして加工したレポートをサーバー側にアップするといった、「いわゆるデスクトップ・アプリとWebアプリの良い面を組み合わせたアプリケーションを容易に実現できる」(アドビ日本法人のギャレット・イルグ社長)という。操作性を高めたWebアプリケーションは「リッチ・クライアント」と言われているが、アドビは一連の特徴を兼ね備えるクライアント・アプリケーションをRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)と呼んでいる。
AIRはオフラインで動作するアプリケーションも考慮に入れており、ローカル用のデータベース機能を備える。ネットワークに接続していないオフライン時に手元で顧客情報を入力しておき、ネットワークに接続した際にサーバー側のデータベースと同期するといった、「これまでの一般的なWebアプリケーションでは不可能だった動作も実現可能」(イルグ社長)だ。
Webブラウザに依存しないWebアプリケーションを実現できるのも特徴。当然AIRには依存するものの、Webブラウザの個別事情やバージョンアップの影響を受けにくいため、「Webブラウザとそのバージョンごとに動作を確認し調整する手間を省ける」(イルグ社長)としている。
イルグ社長は「FlashやPDFと同様に、AIRを世界標準のプラットフォームとして普及させていく」と語る。アドビはAIRのベータ版を2007年1月から公開開始。開発者の間では開発コード名「Apollo」として知られていた(関連記事:ITpro Keyword:Adobe AIR)。
すでにAIRを業務アプリケーションに適用したユーザー企業もある。記者発表会では、シャープで稼働している経営者向け情報閲覧システム「エグゼクティブ・コックピット」のデモを見せた(写真)。独SAPのERPパッケージ・ソフトなどによる基幹系システムの情報を、図を使って効果的に表示するシステムである。SAPジャパンとデザイン会社のサイトフォーディーが開発協力した。
世界地図上で拠点の概要を一覧してから詳細情報をたどったり、過去の閲覧履歴を記録しておき再確認したい情報にすぐ戻れるようにするなど、「ユーザーの思考プロセスや欲求に沿った操作が可能になっている」(サイトフォーディーの隈元章次社長)。今後はビデオ会議機能を直接起動できる機能などを追加していくという(エグゼクティブ・コックピットの関連記事)。
アドビは同日、アプリケーション開発・実行用のツール群「Flex 3」も発表した。Flex 3は従来から提供してきた「Flex 2」の新バージョン。AIR上で動作するアプリケーションやFlashを画面に使った業務アプリケーションを、開発言語「MXML」などを使って開発できる。Flex 3の主な構成要素はSDK(ソフトウエア開発キット)と開発ツール「Flex Builder 3」など。
Flex 3のSDKはオープンソースとし、無償提供する。2月26日からアドビのWebサイトでダウンロード可能。Flex Builder 3はStandard版が3万1500円、テスト機能などを強化したProfessional版が8万9250円(いずれも税込み価格)。出荷は3月中旬の予定。
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