「もし情報システムのオープン化に躊躇している現場があるならこう言いたい。メインフレームにこだわるな。一刻も早くオープン化に取り組めと」――。
JTB情報システムの野々垣典男氏(執行役員 グループIT推進室長,写真)は29日,都内で開かれたセミナーでこのように述べ,メインフレームに固執する企業に対して警鐘を鳴らした。日経SYSTEMS主催の創刊1周年記念セミナー「変化に強いシステム基盤の条件~ITインフラの最適設計を目指して」の基調講演で語ったもの。“脱メインフレーム”の最大の理由を野々垣氏は「システムを再構築するプロジェクトを敢行しなければ,ベテランのノウハウが伝承されない」ことだと強調する。
もちろん再構築の狙いは「技術伝承」だけではない。JTBでは1970年代に構築した旅行予約販売システムの再構築を,2002年から5年計画で進めている。その主な目的は,インターネット販売への対応や,各店舗のサーバー統合による運用・保守コストの削減などを挙げている。しかし「再構築の目的の5割は技術伝承と言っていい」(野々垣氏)。
伝承すべきは全体最適の視点
野々垣氏が技術伝承にこだわる理由は明快だ。70年代に旅行予約販売システムの構築を手掛けたベテランがまもなく定年を迎える。その前に,彼らが持つ様々な技術を40代以下を中心とした次の世代のエンジニアへと受け継ぐことにある。
ただ,技術伝承といっても引き継ぐ対象はハードやソフトのノウハウだけではない。「プロジェクトの進め方やリーダーシップなども技術に含む。そして何よりも重要なのが全体最適の視点」という。システムが大規模化してエンジニアの担当範囲がどうしても狭くなりがちだ。「規模は違えどシステム全体を俯瞰してプロジェクトを進めてきたベテランのエンジニアの“視点”をぜひ次の世代に伝えたい」(野々垣氏)。
伊勢神宮は20年おきに“再構築”
野々垣氏はさらに,伊勢神宮における「式年遷宮」を例に挙げる。式年遷宮とは,1300年の歴史を持つ伊勢神宮が,20年おきに新たな神宮を立て替える行事のことだ。東西に分かれた同じ広さの敷地があり,そこに内宮・外宮がそれぞれある。それを20年ごとに交互に造り替える。「脈々と受け継がれるこの行事の狙いこそ技術伝承である」(野々垣氏)。
飛行機ではボルト1本で大事故が起こる。システムもたった一つのファームウエアのバグが大規模障害を引き起こす。「細かな技術にも詳しく,それらを束ねて全体最適の視点も持てるエンジニアでなければ,もはや頑強で柔軟なシステムは作れない」と野々垣氏は言い切る。
そのために,メインフレームの再構築は大きな効果をもたらすという。「まだまだ使えるからと言ってメインフレームにこだわるのは危険だ。伊勢神宮のように歴史を積み重ねたいなら,進んで既存システムを壊すことも必要だ」。