「我々はついつい旅館やホテルのウェブサイトを格好良くしよう、きれいにしようと思ってしまうが、それが必ずしも予約率向上にはつながっていなかった」
リゾート施設運営を手掛ける星野リゾート(長野県軽井沢町)の星野佳路社長は7月9日、東京都千代田区のホテルニューオータニで開催中の「IT Japan 2007」で講演し、こう語った。講演の題名は「収益向上を狙うネット・マーケティング戦略 『科学的仕組み作り』で顧客数を拡大」というものだ。
星野リゾートは、本拠地である軽井沢の温泉旅館「星のや」をはじめとして、大型スキーリゾートから小規模温泉旅館まで12施設の運営を手掛ける。星野社長は、前近代的な日本の旅館・ホテル経営の世界に、顧客満足度調査やシックスシグマによる業務改善など科学的手法を持ち込み、不振に陥ったリゾート施設の再生を実現してきた。
最近、力を入れているのが、ウェブサイトを経由した予約獲得だという。「私が経営を始めた1991年から15年の間に、インターネット環境は劇的に変わった。特に旅行の情報収集や予約にネットを活用する人は劇的に増えた。今後は、個人旅行予約のほとんどがネット経由になる可能性がある」(星野社長)
星野リゾートは従来から、旅行代理店経由の団体獲得に頼らず、ネットなど通じた個人顧客の獲得に力を入れてきた。施設の特色や顧客層、運営開始時期などが異なるため、ウェブサイトは施設ごとに別々に作っていた。
「よく調べると、施設によってウェブサイトのアクセス数や、予約に至る率にかなりばらつきがあることが分かってきた。ここも科学的にやらなければならないと思った。お客様は当社のウェブサイトを一目見て伝わるものがなければ、すぐにほかのホテル・旅館を探しに行ってしまう」
サイト利用者の視線追跡実験を基にガイドライン策定
星野社長はウェブサイトを科学的に分析する手法を持つ企業を探し、ビービット(東京・港)というコンサルティング会社に行き当たった。「視線追跡」という手法を活用。利用者に視線を追うカメラを装着し、星野リゾートが運営する施設のウェブサイトを利用してもらう実験を重ねるなかで、多くのことを発見したという。
「利用者は、『ゆったりリラックス』などの文字情報はあまり見ておらず、画像を目で追っていることが分かった。特にアクセスマップが注目されていた」
こうした発見を基に92項目のチェックリストである「ユーザビリティーガイドライン」を作った。「写真が抽象的ではなく、何を写しているかすぐに分かるようになっている」「アクセスマップを分かりやすく表示している」などの項目を含む。
このガイドラインに沿って、各施設のウェブサイトを評価した。「デザインに凝ったウェブサイトほど点数が低かった。そういう施設では実際に予約率も低いことが分かった」。ある施設のウェブサイトの場合、ガイドラインの92項目中36項目しか満たしていなかったため、サイトの刷新を実行。現在のサイトは85項目を充足するようになった。「予約率には様々な要因が絡むため効果の検証は容易ではないが、ガイドラインを定期的に見直しながら、ネット利用者の予約行動の変化に対応していきたい」という。